かんぱい
「ではお城の方までご案内いたしますのでそのまま車の中で五分ほどお待ちくださいませ」
リオック国王の住んでいるお城の門のところに到着した。そこには二十代後半と思われる黒スーツにサングラスをしたガタイの良い男性が二人立っていて、俺達の目的と身分を伝えると一人はそう言って門の中に入っていってしまった。
「そう言えばさ、トーカは何でレオにきつくあたったの?」
「だってしつけは厳しくしなきゃって本で見たので…」
俺の問いに、少し頬を膨らませてトーカは答えた。
「それはダメなことをしたら怒って、良いことをしたら褒めるってことだよ。そこのメリハリをちゃんとしないと。トーカのやったあれはただのいじめだからね?」
俺は少し真面目な口調でトーカに注意をした。
「分かりましたよ。これからは気をつけます」
まだ何か納得のいかないようだ。
でも黒スーツの人が戻ってきたので話は一旦終了。
「お待たせいたしました。お城の方までは車で十五分程かかりますので皆さんこちらにお乗りください」
俺達は言われた通りに金持ちの乗るような長い車に乗り込む。レオには帰ってくるまで車の中で待っててと伝えた。車の中には六人分×五日分の食料があるので問題ないだろう。
全員が乗ったところで車は門をくぐり、敷地内を走り始める。
「申し遅れました、私使用人のアブと申します」
見た目に似合わず丁寧な人だな。
「リファス様のご事情は伺っております。大変な時に力になれなかった、とリオック様も嘆いておられました」
そんな心配してくれたのか、会ったらお礼言っておかないと。
「リファス様」
隣にいるリニアが耳元で小さく囁いてきた。
俺は返事をせずに体をリニアの方に傾ける。
「言い忘れてましたが、リオック様も十賢大魔道の一人ですよ」
そうなのか、一体どんな魔法を使うんだろ。みんながみんな俺みたいにたくさんの魔法を使えるわけじゃないらしいからな。
十五分てのは結構すぐに過ぎるもので、あっという間にお城に着いた。
お城はブラウンを基調とした色で統一されていた。お城自体はうちよりも一回り程小さい。
入口の所にはスーツを着て、金色のネックレスをした長身の全体的に爽やかな雰囲気を出した男性、そして黒のスーツに銀色のネックレスをした女性がいる。その足元には黒い服を着て、青いネックレスの子供が二人いる。
「お久しぶりです、リファスさん」
男性が俺達の方に歩み寄って、握手を求めてきた。
「どうも」
俺も笑顔で握手に答える。素っ気ない挨拶になってしまったのは、俺は当然初めて会うのに久しぶりと言われたからなんて言ったらいいかわかんなくなってしまったからだ。
断じて緊張してセリフが出てこなかったわけでも、コミュ障だから初対面の人に素っ気なくなってしまったわけでもない。
「うん、記憶がなくなってるって聞いてるけどそう言うところは相変わらずなんだね」
前々から思っていたのだが本物のリファスと俺は性格が似ているのかも知れない。少し親近感がわく。いや同じ人物なんだけどね。
「中にお食事がご用意してありますので積もる話はそこでしましょう」
リオックさんの隣にいる女性がゆったりとした口調でそう言った。
えーと、なんだっけ。あぁ、ナナフシ夫人だ。
「ほら、中行くよ」
ナナフシ夫人がそう言うと二人の子供は元気よく返事してお城の中へと走っていった。
「元気なお子さんですね」
俺だって話のタネがあればちゃんと喋れるんだ。
「えぇ、自慢の子供たちです」
ナナフシ夫人がにこりとほほ笑む。
「私がここに嫁いできたのが二十歳の時で慣れない王女という立場になったばかりの頃に、お腹の中にカブト、男の子の方です。がいるってわかったんです。そして私の誕生日の二ヶ月後に元気に生まれてきてくれました。自分の生活だけでも精一杯なのに子供を育てられるか不安でしたが、素直で元気な子に育ってくれました。今じゃカブトもユスリカも、勿論リオックも私の大事な宝物です」
そう言って上品に微笑むナナフシ夫人の顔はとてもきれいだった。俺はいつかトーカやサキナ、シャルルにもこんな顔をさせてあげたいと思った。
「中を案内しますね。旦那は先に食堂の方に行ってるとのことですので」
俺達はナナフシ夫人に続いて城の中に入っていった。俺以外は案内の必要はないのだがみんなついてきてくれるようだ。
案内には途中から二人の子供も合流して元気よく案内してくれた。と言っても二人のペースに振り回されただけだったが。それでもその無邪気さに俺は十分癒された。
そして最後に案内されたのが食堂だ。中では数人のシェフとリオックさんが待っていてくれた。
「さあ、お食事にしましょうか。皆さんお好きな席に座ってくださいな」
「座ってね!」
「座れー!」
二人の子供もお母さんの真似をしてそう言った。この二人は行動と言動がいちいち可愛い。
ロリコンとか言わないで。オタクだから子供をかわいいって言うとすぐにそういう風にとらえられてしまうがしまうが、やましい気持ちは全くない。参考までに行っておくが俺のタイプはスレンダーな大人っぽい女性だ。勿論巨乳で無邪気な女の子も好きだが。どちらかと言ったら貧乳の方が好きだが、例えば巨乳の人がしゃがんで谷間が見えそうになったら勿論視線がそこにいってしまう。
……変態だって? 今更そんな事を言わなくてもいいだろ。それにわかりきっていることをいちいち突っ込む必要もないでしょ。
丁度俺達人数分の席が用意されており、一番奥にリオックさんが座っていた。俺はリオックさんの隣に座り、ナナフシ夫人はリオックさんの前に、その隣にトーカ、サキナと並び俺の隣にはシャルルが座った。二人の子供はいわゆるお誕生席に座る。
俺の右上あたりからシェフの一人が「失礼します」と声をかけて、テーブルに置いてあるグラスに濃い赤色をした飲み物を注ぐ。そしてシェフは全員のを注ぎ終わると浅くお辞儀をして部屋から出て行った。
その後には何人ものシェフが順々に料理を運んで来てテーブルの上に並べていく。どれもきれいに盛り付けられていて、うちの国では見たことのない料理ばかりだ。
そしてシェフが料理を運び終わり全員部屋から出て行くと、待ってましたとばかりにリオックさんが立ち上がった。
「本日は遠い中お越しいただきありがとうございます。今日は私の国の料理を食べ、心行くまで楽しんでください。それではグラスをお持ちください」
全員ゆっくりとグラスを持つ。
「それでは、乾杯!」
「かんぱーい!」