あと四時間程で着きます
「ふぁ~あ、良く寝た」
と思って布団にうずくまりながら時計を見ると、寝る前の時間から一時間しか経っていなかった。
でも結構すっきりできたし、まぁいいか。
とりあえず布団から出てリビングとなってる場所に向かう。
因みにこの車の間取りは一階に縦に長いリビングを中心に前に運転席、後ろにバスルームとトイレがある。それぞれ窓が一つづつついている。リビングには窓が両側に三つづつだ。二階へ上がる階段は前から見て右側にあるトイレと左側にあるバスルームの真ん中にある。
そして二階には階段上がってすぐのところに寝室が一つ、その隣にもう一つ。そして一番奥、つまり一番前に使われてない空き部屋が一つある。さっきまで俺が寝ていたのは階段上がってすぐのところの寝室だ。
あくびをしながら階段を下りていくとキッチンのところに誰かいるのが見えた。近づいて行くと向こうも俺に気づいたらしくこっちを向いた。
「あ、リファス。よく眠れました?」
立っていたのはシャルルだった。シャルルはピンク色の可愛らしいフリフリのエプロンをしていて少し見とれてしまった。
「あぁ、何してんの?」
「皆さん小腹が空いたって事なので簡単な物を作ってたとこです」
そう言えば料理が得意だって言ってたな。こうやって見てみると何を作っているかは分からないが、いい匂いがする。
「上手だね」
「ありがとうございます。私は元々街の生まれで両親ともに仕事で帰りが遅かったので、よく妹と弟の為に料理をしてましたから。元々作るのも好きだったので楽しかったですけど、それでも家族全員で食べたかったと思ってました」
この世界でもそう言う家庭ってあるんだな。国王の仕事か分からないけどそういうところも治していかないとな。
「でも休日はみんなで食べてたんですよ、みんな笑顔で」
シャルルは料理をしながらも微笑んで話してくれている。
「そっか。因みに今何作ってるの?」
「もうできましたけどね。カムルとリンシをすりつぶして生地に混ぜ込んだストッカーです」
カムルというのはこちらの世界の果物の一つで赤くて丸い形をしていて、サイズは手のひらに乗る程度。そして味は甘辛く、料理にもよく使われる。リンシも果物の一つでこちらは人の顔の大きさ程あって、食べやすいサイズにカットして食べるのが普通だ。ジューシーな果肉で噛むと味が二段階に変化する。そしてストッカーとはほぼクッキーと同じものだ。
「食べてみます?」
シャルルはそう言ってストッカーを一つ手に取った。
俺がコクリと頷くと、シャルルは「はい、あーん」と言って俺の口元に持ってきた。俺は目を逸らしながら口を開けるとシャルルがにっこりと笑って口の中に入れてくれた。のだが、口に入れたストッカーを何故か指で奥まで押した。
「が!?」
当然それは喉の奥に当たるわけで、俺は変な声を出してしまった。自分の舌を動かしてそれを手前に持ってくるけど、シャルルがすかさずもう一枚口の中に入れてきた。
「ひょ、まっへ!」
口の中にストッカーが入っているためにうまく喋れない。
シャルルはニコニコと笑顔でもう一枚口の中に入れてきた。
そうだ、口を閉じればもう入れられない。と今更こんなことに気づいたから、俺は口を閉じてボリボリと噛み砕く。
普通においしいのが救いだな。これで不味かったら変な企画をやらされてる芸人の気分にでもなりそうだ。
「すいません、これどうぞ」
シャルルはそう言ってコップに入った水を渡してきた。俺は軽く手を上げて、済まないとジェスチャーをしてからそれを受け取る。ストッカーを全部飲み込んでから口の中を潤わせるために水を一気に飲む。
「スッパッ!!」
めちゃくちゃ酸っぱい。何だこれは、ただの水かと思ったぞ。
「ふふ、どうですか? シャルル特性健康ジュースは?」
これのどこが健康なんだ。冷え性改善や風邪予防の効果があるとシャルルは言っているが、今それを飲ませる必要があるか。
「因みに材料は秘密です」
シャルルは右手の人差し指を立てて可愛くウインクするけど、やってることは全く可愛くない。
俺は芸人じゃないんだぞ、仮にも国王だ。因みにあなたは王女だぞ。
まぁでも憎めないキャラだな。
とりあえずみんながリビングで待ってるので二人でリビングに向かった。
「因みにリファスは嫌いな食べ物とかあります?」
シャルルが歩きながら聞いてきた。
「俺はキノコ類が嫌いだな。あとイカが食えない」
「キノコルイ? イカ? 何ですかそれは?」
そう言えばこっちの世界ではそこらへんの食べ物は見たこと無いな。やっぱりなかったのか。
「あぁ、俺が元いた世界での食べ物。こっちの世界のはまだとくにはないから色々食べてみたい」
「そうですか、今度私のおすすめの料理作ってあげますね」
話をしていたらすぐにリビングに着いた。いくら広いとはいえ、ここは車の中なのだ。お城に比べればよっぽど狭い。
「おはよ」
俺は挨拶をしてからシャルルの隣の一人掛けのソファーにゆっくりと腰を下ろす。
ソファーってなんでこんなにリラックスできるんだろう。そう言う設計なんだろうけどソファーなんて座ったのは久しぶりなのでだいぶ気持ちいい。
サキナはシャルルが持ってきたお菓子を少しずつ食べながらも黙々と何かを書いている。
俺は気になったのでそれを覗くと、サキナは俺に気づいたようで少し笑ってそれを俺に渡してくれた。
「…ども」
えーと、なになに……。ふむふむ…ほぅ……。
「これって恋愛漫画?」
五分ほど読んだところで顔をあげてサキナに聞いてみる。
「はい、私が書いたものです。どうですか?」
んーなんと答えたらいいのだろうか。ストーリーは面白いんだけども、誤字が多い。それに言っちゃ悪いんだが絵が下手。勿論一般人としてはそれなりなのかも知れないが、漫画にするとなるとなんか物足りない。俺は漫画は好きだけど、漫画家になろうとは思ったこと無いのであまり詳しいことは言えない。
「んー…誤字が多いな、それと主人公の女の子の名前って……」
「はい、私の名前です」
あちゃー、痛いなこれは。自分の作品の主人公に自分を投影しちゃうとか痛くて仕方ない。多分本人は良かれと思ってやってるんだろうけど知ってる読者側からするとアウトだ。
チラッとみんなの方を見ると全員が無言で頷いた。
あっ、そういうことね。指摘してはいけないという暗黙の了解ですね。
「どうですか? 今度こそこれで新人賞をとるつもりです!」
「……おぅ、頑張れ」
これしか言葉が出てこなかった。俺の知識を総動員した結果出てきた言葉がこれだった。これでも応援してあげたいと思ったのだ。
「皆さん聞こえますかー?」
突然車内のスピーカーから運転中のはずのジニアの声が聞こえてきた。
「あと四時間程であちらのお城に到着します。因みにあと二時間程で向こうの国内に入りますのでその時持ち物、身体検査がありますので」
やっぱ国王でもそういうことはやるんだな。当然といえば当然だけどあまり良い気はしないな。
「あ、あと今目の前に巨大なモンスターらしきものがいます」
「「「「「そっちを先に言え!!!」」」」」