隣の国に行きます
とりあえず何とか立てるようになるまで痛みは落ち着いてきたけど、まだかなり痛い。てかめちゃくちゃ痛い。
とりあえずジャンプして位置を元に戻す。
…え? 何でジャンプしてるのかって? そうだな…女性の方は分からないかもしれないが、局部あたりを押さえてジャンプしてる男性を見たことないだろうか? あれは金的されてボールが奥に入ってしまっていて、それをジャンプして取り出そうとしているんです。女性の方は本当に何を言ってるか分からないと思うが、男性にはよくわかると思う。
よって女性諸君、彼氏や友人の男性に「そうなの?」と聞いても絶対に金的して確かめたりしないように。これは洒落になんない程痛いから。マジで。
「ふぅ……」
なんとか痛みも引いて、大分落ち着いて歩けるようになった。あ、そう言えばパンツとブラをかぶったままだった。また誰かに見られたりでもしたら本当に冗談じゃ済まない。いや一回目も冗談で済まなかったけど。とりあえずブラとパンツ、あとその他洋服を部屋の端にある収納にしまう。
「リファス様、いらっしゃいますか?」
部屋の外からリニアの透き通った声が聞こえてきた。
「あぁ、いるよ」
「失礼します」
リニアが部屋に入ってきたが、何故かリニアはいつものメイド服ではなかった。黒くて丸い小さなボタンが四つ程ついた柄のない黒い服、胸元に見えるのは白のワイシャツに赤のシンプルなペンダント。下はギリギリ膝上くらいの黒いスカート、と言ってもふわふわに広がったようなものではなくスーツのようなピシッとしたものだ。髪はいつも道理腰まで垂らしている。そして黒のヒールを履いている。
俺が言葉も出せずにリニアを見つめていると、そんな俺を見かねたのであろうリニアが先に口を開いた。
「手掛かりを探すのもいいですけどちゃんと仕事もしてください。仕事がたっぷりと溜まってますので」
ですよね、分かってます。それよりもリニアのその服装は何ですか。
「さぁ行きますよ、皆さん準備は済んでいます」
「行く? どこに?」
「…前に話したじゃないですか、隣国のディノポネラ王国との国王会談ですよ」
「え…聞いてない」
「言いました、早く着替えて下さい。そんなジャージじゃダメなんで正装でお願いします」
「うーい」
俺が返事をするとリニアは早くしてくださいと念を押してから部屋から出て行った。
えーと、とりあえず早く着替えなければ。確かベッドの横のクローゼットに入ってるって言ってたな……あ、これか。…完全にスーツだ。国王でもやっぱり大事な時はスーツなんだな、そう言えば元の世界でも首脳会談とかはスーツだったな。
まぁいい、着替えよう。とりあえずワイシャツを先に着て、元の世界とボタンとかは全く一緒だな。
じゃあ次にズボンを履いて。全体的に紺色っぽい、それは上も同じようだ。因みにこの世界にはベルトという物はない。パンツでもスカートでも本来ゴム等が入っているであろうところに、それのデザインを損なわない色で小さなボタンがついている。
穿いてからそれを押すと―――。
「おぅふ!」
自分のウエストに合ったサイズになるという画期的なアイテムだ。これによって、ウエストサイズがあわないから~、という心配がないのだ。因みに昔は上もこのシステムがあったらしいのだが、ピチッとしてダサい等の意見が多数あったらしいので今はもうない。
ただ欠点として、しまる時に若干勢いがあるためにさっき俺がなった風になる事が多い。それでも便利なためみんなが使う。
そして上も着て、鏡を見てどこかおかしいとこが無いか確認する。この世界にはネクタイもなく、それぞれ階級にあった色のネックレスをすることになっている。国王は金色、王女が銀色、その他の王族は青色、王族に仕える者が赤、一般市民が白、という風に決まっている。
勿論俺は国王なので金色、トーカやサキナ、シャルルは銀色、ジニアやリニアが赤のネックレスだ。
もっと細かくあるらしいのだが、国王としてこんだけ覚えとけば大丈夫だとトーカに言われた。個人的にはこのシステムが良いのか悪いのかよくわからない。
そんな感じで着替え終わったため部屋から出てリニアと一緒に外に向かう。
そう言えば、さっき着ていたのは俺がこの世界に来た時に着ていたものだ。その時は全員が全員、なんだこの服は? と言っていた。つまりこの世界にジャージはなく、勿論この世界の人もジャージを知らない。そして俺もこれがジャージだと説明していない。しかもこれをジャージであると知っているであろう優愛の前に出る時は、ジャージではなくこちらの世界の服を着ている。
にもかかわらず、リニアは「そんなジャージじゃダメ」と言った。なぜこれがジャージだとわかったのだろう……分からん。また謎が一つ増えてしまった。
城の外に出ると既にトーカ達が集まっていた。服装はみんなリニアとほぼ同じだ。
ジニアが運転手を務める、よく漫画やアニメで見るようなめちゃめちゃ長い車に二階がついたような車に乗って俺達五人はディノポネラ王国に向かう。五人とは俺にトーカ、サキナ、シャルルにジニアとリニアだ。
勿論会談なので相手の国の事はちゃんと調べてある。一応サニア王国の現国王が記憶喪失だとは大陸中に広まっているが、それでも最低限のマナーとして相手の国や国王の事をある程度調べておくのが礼儀だ。というかリニアに言われてトーカとサキナとシャルルと一緒に勉強した。
今回は俺はめんどくさいとか言わなかった。リニアのいう事に納得したからだ。
ディノポネラ王国は丁度去年あたりに建国二百年を迎えた国で、その式典には俺ではない本物のリファスも出席している。比較的豊かな国で海に面していることもあってサニア王国では食べれないような海鮮料理が有名だ。また、大陸一の平和な国としても有名だ。この国は建国時に一度内戦があっただけで、それから現在に至るまでの二百年間血を流すような内戦はない。以前トーカが話していたドラゴンとの戦争は人vsドラゴンの戦争なので、これを除くが。
因みに我がサニア王国は、約百五十年ほど前にその時の国王の横暴っぷりに腹を立てた国民が革命を起こしてる。勿論死者は数千万に及ぶという。ただ、これを最後にそれらしいのは起きていない。
ディノポネラ王国の国王は現在二十七歳で二人の子供がいる。国王の名はイグニル・アズマ・リオック、通称リオック様。この世界では珍しくこの国王には側室はおらず、正室しかいない。正室の方の名はナナフシ夫人と言う名で年は確か二十六歳。写真でしか見たこと無いが、黒くて肩までの髪に口元にある大きめのほくろ、少し小さい目はどこかおっとりしたような印象を受けた。子供はまだ五歳の男の子と二歳の女の子だという。男の子の名前はカブト、女の子の方はユスリカという名前である。
子供の方の写真は見ていない。
トーカやシャルル、サキナは以前会ったことがあるらしく、その時にナナフシ夫人と意気投合して仲良くなったのだとか。
因みに今回は会談と言っても本当に国王や王女達みんなで他愛ない話をして、食事を楽しむ程度のものだ。
勿論集まる場所は向こうのお城だ。そこまでは車で約八時間程かかる。
その間はこの広い車でだらだらと過ごす。勿論こんだけ広いので内装もしっかりとしている。トイレに風呂、寝室にキッチンと他にも暇をつぶせるようなものが沢山ある。というか八時間もかかるんならこの中で着く前くらいに着替えればよかったやん。
因みに現在出発してから十五分が経った。
……暇だ。
とりあえず寝室で少し寝よう。若干緊張してるから落ち着くために。
そう思って寝室に行って、置いてあるダブルベッドを贅沢に一人で横になる。 思いのほかすぐに夢の中に行くことができた。