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ハルと優愛、二人の過去 第三話

 一週間後、俺は退院することが出来た。

「今回の事は辛かったな」

 父さんは今回の事を聞いて出張先であるタイからすぐに帰ってきてくれた。俺の病室にもおばさんや加奈がきてくれたが、俺を一切攻めることはせずに優しい言葉をかけてくれた。三日目くらいに加奈が剥いてくれたりんごは、市販の物のはずなのに涙が出る程美味しかった。

「ありがとうございました」

 俺達は深々と頭を下げて医者の方達に心のこもってないお礼を言った。勿論感謝してないわけではない、でもそれ以上に優愛の事が気になってしょうがないのだ。あれから一度も優愛とは話せていない。

 俺は一度家に帰ってから警察署に行くことになっている。因みに山下は俺と同じ日に退院して、これから警察署だ。

 俺はラフな服装に着替えてから父さんに警察署に送って行ってもらった。

「じゃあ終わったら連絡くれ」

「うん」

 父さんはにっこり笑ってから一旦家に戻った。

「あ、志木ー!」

 声のした方を向くとそこには学校の制服を着た山下がいた。

「何で制服?」

「こういう時って制服じゃないの?」

「まじかよ、おれジャージだよー」

 にこやかに話すようにするが、お互いどこかぎこちない。

「大丈夫だよ。それと…ありがとね」

「?」

「今回の事はさ、志木が来てくれなかったら私達は本当に最後までされちゃってたかもしんなかったから。あいつらに思いっきり殴りかかって行った志木を見て、ボロボロになりながらも私たちの心配をしてくれた志木は、私には本当に王子様に見えたんだよ」

 はっきり言って山下は可愛い部類に入る。基本ポニーテールにまとめた茶色い髪とぱっちりとした大きな黒い目、すっとした小さ目の鼻にきれいな桜色の唇は男なら誰でも見とれると思う。身長は百六十なく、胸もBあるかないかという大きさだ。

 そんな女の子から「貴方は私の王子様」なんて言われたら、恥ずかしくて顔を見れないのは当然であろう。

「本当にありがとうね」

「…いいって、あの時は俺も何が何だか分からなかったから」

 照れ隠しにそんなことを言って警察署の中に入って行く。

 するとそこで俺達を迎えてくれたのは、何度か病室に来たあの警察の人だ。

「退院おめでとう、志木くん、山下さん」

 俺達はぺこりと頭を下げてから警察の人、田沼さんに会議室のようなところに連れていかれた。

 そこではその田沼さんと他に一人の検事さんらしき人から事情聴衆された。

 隣で話を聞いていたからわかったけど、山下は胸を揉みしだかれたり吸われたりして、局部も触られたらしい。優愛はそれに加えて男のモノをくわえさせられ、本当にあと一歩で最後までされそうになったらしい。

 犯人の男達は二十歳のフリーター二人と他校の三年生二人だったらしい。もう四人とも捕まっており学生の方は勿論学校の方は退学、フリーターの方も今後刑を決めるという。

 本人たちの意向で公にはしないつもりらしいんだが、それでも既に一部には出回ってしまっているだろう。二人がこれから学校に行って、どういう扱いを受けてしまうのか心配だ。先生たちには口止めしてあるらしいのだが、それでも絶対に何かしらあるだろう。

 俺と山下は明後日から学校に行くことになっている。優愛も一応回復に向かっているのだが、それでも心配だ。

 終わったのは大体二時間が経ってからだった。

 その後父さんに迎えに来てもらってから家に帰った。

 優愛には心の整理がつかずに、会う事は出来なかった。

 次の日会おうとは思ったけど、これは小学生の明日宿題やる。と同じでただの逃げだ。

 明日一緒に優愛の病室に行こうと山下と約束したけど俺は大丈夫だろうか。



 ―――そして翌日。

 行きにくいけど、行かないといけないという使命感を自分の前面に出して何とか待ち合わせ場所に行った。

 十分後くらいに制服の山下が来て、二人で病院に行くバスに乗った。因みに俺も学ランを着ている。

 病院まではバスで二十分くらいだったけどお互いあまり話すことはなく、山下はずっと窓の外を眺めていた。

 無言のままバスを降りて優愛の病室に向かった。

 優愛に会いたいという気持ちと、でもどんな顔して会ったらいいか分からないという気持ちが俺の中でごちゃ混ぜになって病室までの廊下がとても長く感じた。

 やっと着いた優愛の病室の前では、俺の考えを知ってか知らずか山下が白いドアをスライドさせて開けてくれた。

 …優愛…!

 どこか無意識のうちにためらってるのかもしれない。

「ほら、声かけてあげな」

 山下が小さな声で背中を押してくれた。

「優愛…」

 何とか絞り出したその声は優愛に届いただろうか。優愛はずっと外に向けていた顔をこっちに向けてくれた。

「ハル…」

 彼女が小さく呟いたその言葉は俺にははっきり聞こえた。ゆっくりと一歩ずつ優愛が上半身を起こして座っているベッドに歩み寄る。

「大丈夫か?」

「…うん、ありがとね」

「………」

「………」

 なんて喋ったらいいんだろう、いや正確には言いたいことが多すぎて言葉が見つからない。

 こうやって直接会うまでは何を言ったらいいか分からなかった。でもこうやって会ってみると言葉が溢れてくる。

「退院はいつくらいになりそう?」

「あと五日くらい、大分よくなってきたから」

 俺はコクリと頷く。

「………」

「………」

 再びの沈黙。

「…あのさ」

「うん?」

 優愛が話し出す。

「退院したら真っ先にハルのところ行くよ。だから心配しないでね。その時にいっぱい話そうよ」

 きれいな顔でおもいっきり笑う彼女を見て俺は胸が締め付けられる。


 一度は守れなかったこの笑顔、これからは絶対に俺が守ってみせる。二度と優愛をつらい目にあわせはしない。絶対に―――。


 その後は山下と優愛が十五分程話してから俺達は優愛の病室を出た。また明日来るよ、と言って。

 俺は次の日も言葉通りに優愛の病室に行った。

 その次の日から学校だったので、俺と山下は学校が終わってから部活を休んで病院に行った。

 勿論、山下の所属するテニス部と俺の所属する野球部の顧問は事情を知っている為、心の整理がついてからでいいよと言ってくれた。

 優愛とは少しづつ以前のように話せるようになってきた気がする。話す内容はただの世間話だ。毎日三人で二十分くらい話してから帰っている。


 次の日、学校に行ったらクラス内の様子が少しおかしかった。どこか俺に対してよそよそしいというか、みんなざわざわしている。

「なぁ、お前が最近学校休んでた理由ってさ」

 クラスの男子が話しかけてきた。この言い方だとばれていてもおかしくない。

「山下と隣のクラスの夏海をかばって年上四人にボコられたって本当?」

 ばれてるみたいだ…。理由までは言ってこないけどこの様子だとばれててもおかしくない。

「……なにそれ、ただの風邪だって担任からきいてない?」

 ここはごまかすべきだととっさに俺は判断した。もし正直に言ったら優愛や山下がどんな扱いを受けるか簡単に想像できる。

「聞いてるけど…さ、D組のビッチで有名な林いるじゃん? あいつが『彼氏が退学にさせられた。志木と夏海ってやつは何組だ』って探し回ってるみたいなんだよ。何したん…?」

 因みに俺はB組、優愛はA組で俺達の学年はE組まである。

 ……どうしよう、ここで少しでも認めるような事を言ってしまえば俺は別にいいとして山下や優愛に悪い噂が立つのは避けられないだろう。

「夏海ってB組のだろ? お前の幼馴染の」

「あ、あぁ…」

「とりあえず俺達は林の事嫌いだからお前達を売るような事はしないけど気をつけろよ」

「あぁ、悪いな」

 朝からそんなことを聞かされてしまったおかげでその後の授業には当然身が入らなかった。

 山下にこの事を話すべきだろうか。あの男子からは山下の名前は出てこなかったけど当然ばれてるだろう。やっぱり話して注意を促した方がいいと判断した俺は、今日の放課後に優愛のところに行くときに話すことにした。


「そう…なんだ、わかった気をつけるよ」

 山下も少しは予想していたのだろう、思ったより落ち着いている。

 とりあえずはその後はいつも道理に優愛の病室に行ってから帰った。優愛は明後日から学校に行くことになっている。優愛が酷い扱いを受けなければいいが…。

 そして翌日、優愛は無事に退院できた。

 次の日、今日は俺が優愛を迎えに行った。

 おばさんに玄関先で待っててねと言われて俺は鞄を持ったまま五分程待っていた。するとタタタと優愛が階段を降りる音が聞こえてきて、ヒョコッとニッコリと笑った顔の優愛が顔を出した。勿論服装は学校の制服で、俺は優愛の制服姿をかなり久しぶりに見た気がする。

 今まで通りに二人並んで学校に行って、いつも道理に過ごせることを俺は望んでいた。


 ―――でも俺のそんな望みはすぐに打ち砕かれてしまうこととなってしまうのだった。

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