目覚めました
「とりあえず、生きてはいるようですね、息してますし」
「顔近い近い」
とりあえず城に運んで、ジニアに事情を説明した。
ジニアって割とムッツリだったのか。
「生きてることは確実でしょうが、健康状態などはリニアによく確認してもらったほうがいいと思います。今呼んできますのでお二人はここで彼女を見ていてあげて下さい」
ジニアはそう言ってリニアを呼びに部屋から出て行った。
すると入れ違いでシャルルとサキナ、そしてラファスにマキュリまでもが慌ただしい様子で部屋に入ってきた。が、全員様子がおかしい。
「「「「リファスが女を連れ込んだって本当!?」」」」
おぉ、見事に全員息がぴったりだ。
なんて感心してると全員の視線がベッドで横になってる優愛に向けられる。妙な沈黙が五秒程続いた。
「ふ…ふ…あっはっはっはっは」
と思ったら突然ラファスが笑い出した。
その横でサキナが腰にさしていた剣を取り出し、シャルルがどこからかフライパンと包丁を取り出し、マキュリの周りには無数の火の玉が舞う。全員の背後から黒い何かが出てきている。
「ま…待って待って待って!!! これには事情が!!!」
流石に説明しないと俺か優愛のどちらかが死ぬ。皆さん落ち着いて下さい。ラファスはいい加減笑うのをやめて下さい。うるさいです。というかラファスの両手にメリケンらしきものが見えたのは気のせいだろうか。
「…冗談ですよ。本気にしないでください」
サキナは剣をしまってそう言ってくれた。各々武器をしまってくれた。
これで一応命の危機は脱した…気がする。
「どこかの正室みたいに本気で魔法を発動させたりしませんよ」
シャルルはそう言ってまたどこかに包丁とフライパンをしまってそう言った。
「私も発動させませんよ?」
魔法を使った赤腕さんは自分はそんなことしないとばかりに口笛を吹いている。
するとコンコンと部屋のドアを叩く音がして、返事をするとリニアとジニアがゆっくりと部屋に入ってきた。
「失礼します。で、例の女性はこちらですか?」
俺達の返事を待たずして、リニアはベッドに仰向けになっている優愛に歩み寄っていく。
「あ、リファス様は後ろを向くか部屋から出てくか目隠ししててください。この女性の体を調べるために来ている服を脱がしますので」
因みに優愛は空から降ってきた時と同じ、水色に黄色や白などで模様が書かれた半袖のTシャツに下はジャージを履いている。
俺はそのまま後ろを向いた。
「ジニアも後ろ向いてなさい!!」
「おぐぅ!!」
ゴキッという不思議な音が聞こえたのは気のせいだろうか。
カツカツという音と共にジニアが俺の横に立った。何故か首を押さえている。
「ところでリファス様」
ジニアが小声で話し出す。
「うん?」
俺も小声で返事する。
「この状況って…興奮しません?」
「うん…?」
このエロジジイ。
「見たいけど見たら命が危ない状況、リファス様ならどうしますか? それにあの女性って結構美人ですし」
「…選択肢は、一つしかないでしょう…?」
「せーのでいきますよ、リファス様」
「オーケー、ジニア」
「「せーの!!」」
小さな掛け声と共に俺達は振り向く。
「ゴフアァァァ!!」
瞬間、赤い色の拳が俺の頬に勢いよくとんできた。勿論ジニアの頬にも。
「このエロ執事め…! リファスも見ないでください」
ごめんなさい。
「何さりげなく見ようとしてんだエロ執事!!」
「おふぅ…!」
トーカが勢いよくジニアの顔をぐりぐりと踏みつけた。
俺も踏んで下さい!! と俺は心の中で叫んだ。
するとシャルルがトコトコと歩いてきてからしゃがんで、俺の心を読んだかのようにこう言い放った。
「踏んで…ほしいですか?」
因みにシャルルは裸足だ。裸足にスリッパをはいている。
シャルルは立ち上がって横たわってる俺に右足の裏を見せつけて、ニヤニヤと笑う。因みに水色のパンツも見えてます。
シャルルはつま先を俺の口元にチョンと一瞬だけつけてからまたスリッパを履いた。
「……ふふふ、リファスのすけべ」
おっっと、流石に今のはクラッときたぞ。
シャルルの微笑んだ顔に見とれながら俺は立ち上がってもう一度後ろを向いた。
「いやはや、見えましたよ少しですが」
ジニアがそう言いながら俺の隣に来た。
「よくそんなんで執事長なんてやってられるな」
ジニアの顔には足跡がくっきりついており、満足そうな顔をしている。
「頭にたんこぶがあるんですがリファス様何か知ってますか?」
十五分ほどして優愛の体を調べ終わったリニアが俺に聞いてきた。優愛はもう服を着て、俺達はみんなの方を向いている。
「あー…それ落ちてきたときに俺の頭にぶつかった時に出来た奴だと思うんだけど…」
「成程、これくらいなら冷やしておけば大丈夫ですね。リファス様も冷やしておいてください」
リニアはそう言って冷えたタオルを取りに行った。
五分ほどしてリニアが冷えたタオルを二つ持ってきた。
一つを優愛の頭にのせてもう一つを雑にこっちに投げた。
「おぶっ!」
勿論俺の顔に直撃する。仕える主に向かってタオルを投げるなんて貴女本当にメイドですか? というか貴女メイド長だよね?
「覗こうとした罰ですよ」
ふふふ、と小さく笑うリニアはとても可愛く思えた。
今改めて思ったが、俺って若干Mっ気があるのかも知れない。いや、あるな。
「とりあえずたんこぶの外に目立った外傷はありません。とりあえずは彼女が目を覚ましてから色々聞いてみましょう」
とりあえず外傷がないのならとりあえずは安心だ。精神の方もなにもないことを祈ろう。
「ん……」
優愛が小さく声を上げた気がした。
全員がそれに気づいたのか、優愛の方に向かって歩いて行く。
数秒して、優愛がゆっくりと目を開けた。
「優愛!!」
俺は叫ばずにはいられなかった。優愛はその言葉に反応を示さないが、あたりをキョロキョロと見回している。
「………」
全員が喋らずに優愛を見つめる。みんな優愛が何か言葉を話すのを待っているのだ。
「…ハ…ル…?」
小さく発したその言葉は少し震えている。
優愛は昔から俺の事を『ハル』と呼ぶのだ。
皆さん忘れていると思うのでもう一度説明するが俺の元の世界での名前は志木春也だ。
「春…ハル…はる……」
優愛の様子がおかしい。ジニアが丁寧に呼びかけるが、ずっと「ハル」と呟くだけだ。
「優愛…ユア…ゆあ……」
自分の名前をさっきと同じように呟く。
明らかに優愛の様子がおかしい。俺はリニアの方を向くがリニアはぶつぶつと何かを呟いているだけだ。
優愛が俺の方を向いた。
なんで…泣いているんだ…? 優愛…!
「貴方は…誰ですか? ハルって何ですか? ユアって何ですか?」
優愛が涙を流しながら発したその言葉を聞いて、全員が理解した。
優愛の記憶がないことを。