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「えっと…どういう事?」

 兜の奴の顔をまじまじと見て俺はそう言ってしまった。

「こういう事ッス」

 兜の中から出てきたのは見たことのある顔だった。

「あ! ジブワ!!」

「ジワブっす」

 ペットルームで見たあの顔に傷がある大男だった。

 ジワブが城を襲撃してたってこと? 周りにいる奴らはなんだ? 

「で、どういう事?」

 こういう事と言って全く説明を始めないジワブに俺は説明を求めた。

「えっと、若がちゃんと王様出来るかテストっす、適正を見るための。わかったっすか」

 分かんないです。もう少しちゃんと説明してください。

「ちゃんと説明しなよ!!」

「いてぇ!!」

 後ろから歩いてきたクリオネがジワブのすねを思いっきり蹴りとばした。

「あのアホでは説明が出来ないみたいなので私から説明させてもらいますね」

「…アホって…言うな…」

 ジワブがすねを抑えながらクリオネに小さく突込みを入れている。

「若が記憶を無くしたことで城内でも若に国王を続けさせていいのか議論になりました。数はほぼ半数づつだったので勝手ながら記憶を無くした若が国王を続けられるかテストさせていただきました」

「それでジワレ達に城を襲わせたの?」

「ジワブっす……」

「はい、城を守る意思を見せてくれれば合格。逃げたり隠れたりしたら不合格と設定させてもらいました。で、見事若は合格しましたので今まで道理に国王を続けてもらいます」

 えっと…俺の意思は? 俺が一度でも国王をやりたいなんて言いましたかね? 多分何を言っても無理なので国王として頑張りますよ。

「あ、でも雇ったとか言ってなかった?」

「あそこにいたのは俺の昔の仲間っす」

 すねの痛みが引いたらしいジワブが立ち上がって答えてくれた。因みに名前を間違えたのはわざとである。

「もしかして昔俺が壊滅させたっていう盗賊団の?」

「そうっす。みんな『魔法庫リファス』と『赤腕のトーカ』に一回ボコボコにされてるんですごい嫌がったんすけど金を払ってなんとか」

 それはすいませんでした。ていうか俺達に二つ名がついてたことに驚いたんだけど。

 クリオネが教えてくれたのだが、普通の人は使える魔法は精々一つか二つ、多くても三つくらいらしい。でも俺は百種類近くの魔法を使えて、そのすべてがとんでもない威力を持っていることからついた二つ名が、『魔法庫』。

 トーカは使える魔法が腕力強化と身体能力強化の魔法だけだが、一軍隊を相手することも可能なほどの力をもっているらしい。『赤腕』という二つ名は圧倒的な強さで敵を笑って倒し、腕力強化で腕が赤く染まってるのにまるで返り血で赤く染まってるかのように見えることからついたんだという。

 トーカのはまぁいいとして、俺のはもう少しカッコイイのはなかったのかね? でも俺が新しいのを提案したら、中二病をこじらせたようなのがついてしまうと思うので、できれば他の人に提案してほしい。


「というかトーカ様、貴女には説明しておいたはずですが」

 トコトコとリニアが歩いてきてそう言った。

「いやー、つい楽しくなっちゃって」

 トーカさんてもしかして戦闘好き?

「奴らをいたぶるのが」

 あ、違った。ただのSだった。


「というわけでリファス様は合格されましたので」

 リニアがみんなを静かにさせて喋り出した。


「「「「これからもよろしくお願いします!!」」」」


「………」

 やべーよ、どうしよう。お願いされちゃったよ、

「……はい」

 オーケーしちゃった、場の雰囲気に流されて。まぁいいか。今まで数日だけどなんとかなったし、これからも大丈夫だろ。

「と…とりあえずトーカや俺にやられた人達の治療してあげて」

「「「了解!」」」

 俺の指示にはリニアとジワブとクリオネが返事してくれた。なんか気持ちいい。

 国王なんてやるのは初めてだから、優しくしてね…? じゃなくて、頑張って行きましょうか。


「リファスも治療しましょう。ひどい怪我などはないですが擦り傷や切り傷などがありますので」

 俺はそう言ったトーカに手を引かれて城の中に入っていった。


「ささ、まずはその汚れた体を洗いましょう」

 そう言って連れてこられたのは『大浴場』と書いてあるところだった。

 そう言えばこっちの世界に来てから一回も風呂入ってねえな。今まで一週間入らないこととかザラにあったから気にしてなかった。

 そう言えばなぜトーカさんも一緒にいるのですか。多分一緒に入るんだよね。大人の階段登っちゃう!?

 大浴場というだけあって、脱衣所もかなり広く大きな鏡に数台ある高級そうなドライヤーらしきもの。それに勿論鍵付きロッカーも沢山ある。

 俺は少し感心しながら脱衣所を歩きまわって丁度鏡の前に来た時に、自分の目を疑ってしまった。

「俺の……顔…?」

 そこに映っていたのは十八年間使ってきた志木春也の顔だった。

 どういうことだ…? 今俺はリファスであって志木春也ではない。今ここにあるのはリファスの顔のはずなのだ。

「ねぇトーカ! この顔ってリファスの顔!?」

「……何を言ってるんですか…?疲れでも溜まってるんですか?」

 普通そう言う反応だよなぁ…。

 あれか? もう一人の自分とか言うドッペルゲンガーとか? 訳わからん……。

 この世界にいる人達が俺の顔を見てリファスだと認識してることはこの顔は志木春也の顔ではない。自分でも何を言ってるか分からなくなってきた。

 その後頭にずっとはてなが浮かんでいたため、トーカと一緒のお風呂があんまり楽しめなかった。


「リファス、考え事ですか?」

 三十分程経っているが、俺達はだだっ広い浴槽の中にいた。

「うん、まぁ……」

「なにかあるなら私に相談してください。私はいつでもリファスの味方です」

 俺はトーカのその言葉を聞いて一つ決心した。

「トーカ、風呂から出たら城のみんなを集めてくれないか?」

「いいですけど…どうして?」

「話さなきゃならないことがある」

 今まで俺の事は記憶喪失とみんなが認識していたが、しっかりと自分は違う世界から来ました。と話しておこうと思ったのだ。そしてそれをみんなが理解してくれた上で、本当に俺が国王でいいのか聞いてみよう。

 これは絶対にみんなに黙ったままにしてはいけない気がする。



「―――と言う事です」

 俺は風呂から上がってみんなに説明をした。違う世界から来たことも含めて全部だ。

「…」

「…」

「…」

 何十人もいるのに誰一人として口を開かない。

「……今の話は本当ですか?」

 沈黙を破ったのは執事長のジニアだった。

「全て本当です」

 俺がそう言うと全員がざわざわと話し出した。「本当なのか?」とか「何を言ってるんだ?」とかという声もちらほらと聞こえてくる。

「でもウソにしては妙にしっくりくるような気もします」

 一人のメイドがそう言うが、もう一人のメイドが「ウソのような気もします」という。

「なにか証拠などはありますか?」

 サキナが一歩前に出てそう言うが、何もそう言った物は持ってない。

「ない…です…」

「そうですか……」

「じゃあ信じます」

 話の流れを無視してそう言ったのはシャルルだった。

「だって私はずっとリファスと一緒にいたんですもの、もし中身が違う人でも信じます。だってリファスの側室ですもの」

 目いっぱいの笑顔でそう言ったシャルルは、まるで天使のように純粋で俺なんかにはもったいない気がする。でもすごく嬉しい。こんな誰とも分からない人を受け入れてくれる心の広さに涙が溢れそうになる。

「そうですね、リファスを信じなければ正室の名が廃るってもんです」

「前のリファスとあまり変化は見られないですしね。今も昔も優しくて少し臆病だけど、すごく強いリファスが私は大好きです」

 サキナの言葉に俺はこらえられなくなってしまい、涙を流してしまった。

「みんなリファス様が大好きだからあなたに仕えているんです。私達メイド一同、ずっとあなたに仕えさせていただきます」

「無論、私達執事もです」

 リニアもジニアもありがとう。



「最後に…一つ聞いときたいんだけど…いいかな?」

 俺は少し落ち着いてから、なんとか途切れ途切れに口を開く。

 全員黙って俺の方を見つめている。

「俺が…国王でいいですか?」



「「「もちろんです!!!」」」

 全員が声を合わせて俺を受け入れてくれた。

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