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遭遇

作者: 雨音 しずく

帰り道、突然かけられた声に

振り向けば、私の目線より二十センチ近く高い位置にあった懐かしい顔。


「あれ、都築だと思ったんだけど……すみません!間違えましたっ」


やべ、俺ただのナンパ男じゃん


目を見開いて一瞬固まった後、そう言って左手で顔を半分覆って焦る彼に、思わずぷっと噴き出して笑う。


「なら、葉月君はこれからお茶に誘ってくれるのかな?」


笑いながらそう言った私に、彼は私だと気付いたのか、手を外して見つめてきた。


「あっ、」


それでようやく間違えてなかったのを理解したみたいだった。

とたんに真っ赤になった彼の顔に、

あれ、こんな反応を予想していたわけじゃなかったのだけど。

と、私は首をかしげる。


「…まじ、都築なわけ?」


落ち着いたのか、恐る恐るだけど再度私を観察するように見つつ、訊いてきた。

だけど何となく信じていない見たいで


「そうだよ。久しぶり」


まともに目を合わせようとしない彼が、可笑しくて、また笑って答えれば、

またしても、手を顔に当てる彼。


「久、しぶり。」


しどろもどろに返事をしてきた彼に、さすがに気になって


「葉月君、さっきから変だけど、どうしたの?」


聞き返した瞬間、目が泳ぎだす彼。

ほんとにどうしたんだろう…

昔は、と言っても高校卒業以来だから、二年前くらいの話だけど、誰とでもよく話す。明るいクラスメイトだったはず。


男子と話すのが苦手だった、私にでさえ、話かけてくれるような彼だから、


正直、ちょっと

ひそかに憧れを持っていたあの頃。


「都築、変わったな」


「へ?」


質問の答えを待っていたのに、急に私の話になったので、頭がついて行けずに対応に困ってしまった。


「なんか、化粧、してるし」


「えっと、そりゃ…もう社会人だし」


最近になって始めたばかりでまだ慣れてなくて、薄い化粧なのだけど、そこは男の彼に言うようなことではないかなと、思い浮かんだ言葉は飲み込んだ。


「明るく、なってるし」


「う、ん?」


妙に歯切れ悪い口調な彼を不自然に思いつつ、言われた事に相槌をする。


自分ではあんまり分からないけど、一応、接客業だから、ね。


でも、未だに普通の会話は苦手なんだよ。

そう思って口を開こうとしたけれど、彼の言葉が続いた為、言いそびれてしまう。


「彼氏、とかいるんだろ」


「か、彼氏!?」


思いもよらない、話題に思わず声が裏返ってしまった。

じっと、見返してきた彼に、焦る私。男の人とそんな話、なんて慣れてなくて、

──ただでさえ、同性の子にだって恥ずかしいのにっ

心拍数が上がって行くのをイヤでも実感する。


「やっぱ、」

「いっ、いないよ!」


それはいつも、答えてきたままなはずなのに、やけに恥ずかしかったせいで大袈裟に否定の声をあげてしまった。余りの失態に自分の言葉が耳に残る。


あ、穴があったら入りたい…


こんなの、久しぶりに会った人となら当たり前のような会話だろうに、今の私には、そんなことすら気付かないくらいに焦ってしまっていた。


「ま、まじで」


ほ、ほらっ、引かれてるよ私。彼氏いない歴、年の数とか、今時寂しい奴って思われてる。

彼の目が、顔がにやけるのを我慢してるって言ってるよ。


「あう、ごめんなさい」


何故謝ってる、と自分で突っ込んで、でもそれはそんな顔で私を見るのがいけないと思う。目を輝かせて楽しんでる彼がいけない。私はからかわれるのが苦手なんです。だから、そのにやつく視線をお願いだから止めて下さい。と言う意味での謝罪だけど、おそらくそんな意味は伝わってない。

当たり前だけど…

ちょっと、涙が出そうだ。


「なっ、なら、さっ」


逃げたくなるのを堪えようと、目線を彼から外していたら、彼がまた何かを言い出していた。


「俺と、付き合わない?」


ほんのり赤みがかった彼の頬。身長は彼の方が高いのに、ちょっと上目遣いなのは、私の反応を伺ってる感じで、


こ、これ、って


「……」


「あの、都築?」


「へ、あっ、ごめんね。なんか、葉月君の言ってる意味をね、こう、どう捉えれば正解なのかなって考えてたら…」


いや、さっきの事態、そもそも幻聴だったのかな。

ここは黙ってても埒があかないし、きいてみようか。


「正解って…」


「その、このあと何処かに行こうって、言ったのかな?」


呆れたように脱力している彼を見ると、うん、こう聞いたほうが無難だと思った。

だって、もういっこの方だと、それって、


「違うよ、都築。


俺は、お前に俺の彼女になって欲しいって意味で言ったんだけど」


ってか、話の流れでわかってよ、ニブイ奴だな


あまりに経験のない、答えだけに、否定していたはずが、

彼から、正しい意味とちょっとしたイヤミがおまけ付きで返ってきたので、またしても、隠れたくなる気持ちでいっぱいになりながら、私は返事を考えた。


な、なんて言おう!?


告白されるなんて、あれ、そもそも付き合ってだから告白と言うよりお誘いなのかな?どっちにしろ正直、初めてで、

なんか、自分のことじゃないみたいに感じてる。


ちらり、

彼を見てみると、

黙りこくってる私を不思議そうに見ていて…


あ、そうか


これは、軽いナンパってこと、か!

だから、好きって告白じゃない言葉も頷けた。

だったら、まぁ、いいかな、ナンパに着いて行っても葉月君、だし。

これが知らない人なら人見知りな私は断る所だけど、憧れの彼ならいいかな。

遊びでも彼なら、同級生だった私の嫌がる事はしないに違いない。


「えっと、うん」


こくりと、首をゆっくり縦に振って了承した私。

なんか、こんなのでいい、のかな。


「あの、それって、彼女になってくれるって捉えて良いってこと?」


俺、自惚れてない?


焦るように、でも慎重に聞いてくる彼に

私も、言葉が足りないな、と思って口を開く。


「うん。葉月君の彼女になります。って意味のお返事です」


「よ、よし」


私の言葉に小さくガッツポーズをした彼。

私なんかで喜んでる。だけど、ツキンと痛む胸。

やっ、なんか、違う。


「は、葉月君!」


突然名前を呼んだのに、彼は嬉しそうに私を見返してきて、

それを見て、今度はギュッとなる心臓。


「なんだ?都築」


明るい彼の声。

ほんとに、今まで見たことない彼の表情に、私の心拍数が上がっていくのを感じて、


「ごめんね、あの、私、付き合うとか、その、

か、彼氏とか初めてだから。うまく言えないけど、私と付き合ってつまんないかも、だから…

飽きたら何時でも言ってね?」


何言っちゃってるんだ私。普通、喜んでる相手に言うことじゃないでしょうが、バカ。

これでさっきのナンパ事態なしってなるかも…

って残念がる自分がいる、なんて…


「ははっ、都築らしいっ」


「えっ?」


ちょっと、落ち込んだ私に、彼から来た返事はなぜか笑いを含んでいて、


「都築、正直俺のこと好きでオッケーしたわけじゃないだろ?」


「うっ、そんな事…」


困った。いや、半分ほんとのこと、だから、こうも見抜かれていて、安心してしまう私って、嫌な奴だと思う。

だって、好きじゃないと相手に言ってしまっているんだから。や、さっきの私の台詞も相当ヒドイか。


「都築、顔にでてる」

「な、にが?」


顔、って表情か。自分的には泣きそうなんですが…


「ホッと、した?」


そう言いながら、彼は左手を私の右頬に伸ばして、ふにっ、とそこをつねる。


「ちょっと、イタいよ?」


その彼の意図がわからず、当たり前の抗議を言ってみる。


「都築は俺の彼女だよ」


どきり、真剣な眼差しでそれを言った彼に、思わず高鳴る心臓。


顔が、熱い。


頬をつねっていた彼の手が今度は私の頬を撫でるようにすべる。


そして、

近付いてきた彼の顔、

近すぎるそれに、視線のやり場に困った私は、思わず目を閉じてしまった。


瞬間、硬直する私の身体。

動けない。動いたらいけない気がする。


ほんとに、時間が止まってる感じがした。

何秒とか、始まった瞬間から時間なんか数える人なんているわけないしと思った。


そして離れた彼の、


ようやく目を開けられた私だけど、

息も止めていたようで、呼吸が落ち着かない。


「彼女、なんだから、苦情は聞かないよ?」


ニヤリと笑った彼に、視線を合わせれば、つい、さっき触れ合ったそこに目が行ってしまい…


「み、見ないでー」


あまりの顔の熱さに

絶対に情けない表情だと思われる自分を見られたくなくて、

泣きそうになりながら顔を俯かせて両手で覆った。


「あはは、可愛いなぁ。

やっぱ、俺、相当都築好きなんだな」


そんな私に彼は、嬉しそうに笑いながら、そう告げた。その言葉に、私は覆っていた手を少しずらして彼を伺う。


「ナンパ、じゃなかったの…?」


「なんだ、それ。

俺本気で告ったってのに」


その台詞を聞いた彼は笑うのを止めて、怒った様に言ってきた。私のせいで不快にさせてしまったのと、怒らせてしまったのに申し訳なくなった。


「ご、ごめんなさい」


私の勘違いはかなり失礼だったのが分かって慌てて謝る。傷付けたかったわけじゃないのに、結果そうなってしまって申し訳なくなった。


「春湖、嘘つけないもんな」


すると、彼はふっと、優しい微笑みを浮かべて私の頭を撫でてきた。


「なっ、名前」


スキンシップも去ることながら、私は異性に下の名前を呼ばれること事態に免疫がなくて照れるし、焦る。つまりはパニックを起こしてしまう。


「彼氏なんだし、いいだろ」


「か、彼氏…」


彼の発言に、本当に私が彼女なのだとちょっとずつ実感させられてきて、赤面するのを止められない。今までの私には縁遠いものだったから余計だった。


「…好きだよ春湖。

今はまだ同級生って認識でも、これから口説いて俺の事は好きにさせるから覚悟しといて」


なっ

あまりに自信に満ちた眼差しに、男の人の色っぽさを滲ませた彼にどきどきと心臓が速くなるのを自覚する。

これは、彼に対して憧れを通り越した感情だと何となく分かった。

只の憧れなら、さっきの行為に不快感ではなく、恥ずかしさの中に妙な高揚感がある訳ない。

生まれたばかりの感情に不安だらけだけど、それは先程傷付けた彼には言わないといけない。


「くく、顔真っ赤…かわいっ」


「…て、撤回します。

私も、好き、だよ、良太くん」


すると、彼の笑顔が固まる。一瞬私はまた何かやらかしたのかと心配になった。

だけど直ぐに彼が片手で顔を隠した。私がじっと見つめて観察すると、その手の下の顔は真っ赤に染まっているみたいだった。


「…不意討ち、だろ。色々」


呟かれた彼の声は何処か恨みがましい色を含んでいた。けど、その表情は怒ってはないようで、私は口を開く。


「ごめん、でも言わなきゃって、思ったから…ダメだった?」


見下ろす彼の視線に、私はおずおずと彼を伺う。

すると、いきなり彼は私を引き寄せて、抱き合う一歩手前の状態の体勢になる。

彼の胸に当たった顔は痛くはないが、呼吸するには苦しくて、もがこうとしたけど、次の彼の言葉に私は抵抗するのを忘れた。


「なぁ、もっかい目、つむって?」


ここまでお読み頂きありがとうございます。

何となく無理やり感な話しですが(自己)満足です。

これ以上なら連載になりそうだったので…

時間があればこの二人でまた話しを書きたいです。

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