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真相  作者: 西内京介
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第二章……真夜中の事件



 学校を早退して俺が向かった先は、事件が起きた公園だった。ここで、俺はとんでもない過ちを犯したんだ。

 やはり、まだ公園にはキープアウトと書かれた黄色いテープが張り巡らされてあった。が、俺はそれを無視して入っていく。あの夜のことを振り返りながら。

 どうして俺が神矢を殺してしまったのか。もちろん、故意ではないが、殺意が芽生えていたことは否定しない。

 事件が起きる一時間前のことだ。俺の携帯に、着信があった。それは、神矢を苛めているグループのリーダー格にあたる男からだった。

 今から神矢をリンチするんだけどお前も参加しろよ、とそいつは言った。

 最初は、迷いながらも断った。神矢のことは憎いが、俺は決して殴るなどの暴力行為はしなかった。いや、できなかったんだ。やはり、どこか心の片隅で、あいつとの和解を望んでいたのかもしれない。

 しかし、そいつは諦めなかった。

 俺たちはお前のために神矢を苛め続けていたんだ、と恩着せがましく俺に言ってきた。神矢を苛めろ、だなんて頼んだ覚えはないけど。あいつらが勝手に神矢を苛めだしたんだ。

 だが、その苛めだした理由がいまだにはっきりしない。

 神矢が苛められることになったのは、あいつが俺の秘密をばらしてしまったからだった。

 おかしくないか?

 俺の秘密がばらされたんだ。あいつらには、関係ないはずだ。あいつらが神矢のことを苛めるのは、少しおかしい気がする。俺とあいつらは、そこまで仲良くはない。

 今となっては、その理由についていくら考えても無駄だった。答えを知ろうとしても、その方法がない。あいつらは、もうこの世にはいないのだから。

 やはり、理由なんてないのか。単純に気まぐれ、ということだろうか。

 ここでいったん、話をもどそう。俺は、リーダー格のやつから連絡を受けて、最初は断った。でも、あまりにもしつこいから、とりあえず行くことにした。あの夜は、いつもよりも格段に寒かった記憶がある。

 自転車を走らせて十分後ぐらいに、この公園に着いた。もうすでに、あいつらは集まっていた。全部で五人だったかな。そこには、

傷つき、怯えきった、神矢の姿があった。

 神矢は、周りのやつに懇願していた。助けてくれ、って言っていた。けど、周りのやつはそんな神矢を嘲笑っていた。その光景を見て胸が苦しくなった俺は、後悔した。来なければよかった、と。

 俺があいつらの前に姿を現したとき、あいつらは歓声をあげていた。それが、不愉快だった。

 そして、リンチが再開された。

 最初は、見ていられなかった。神矢の殴られている姿が俺を苦しめた。だけど、次第に俺の神矢に対する怒りが募ってきた。その感覚は、今でも忘れられない。

 あの時の俺は、矛盾していたんだ。殴りたくないけど、殴りたい。その衝動に駆られ、ついに俺はあいつを殴った。

 今まで、俺は人を殴ったことがなかった。喧嘩したい、という願望は常日頃からあったが、しかしそれを実行に移す愚かな真似はしなかった。

 そんな俺が、よりによって神矢を殴ってしまうなんて。そしてそれが、止めとなった。

 俺の拳を食らったとたんに、あいつは動かなくなった。当然、俺たちはパニックに陥る。

 パニックの俺に、誰だかは覚えていないが、こう言ったやつがいた。

 死体を神社の裏山に埋めて来い、と。

 その言葉は、衝撃的だった。同時に、自覚させられた。俺は殺人を犯したんだ、って。

 本当に殺すつもりなんてなかったんだ。

 今だから言えるのかもしれないが、あの時の俺は、冷静さを欠いていた。皆に煽られ、神矢に対する殺意も、徐々に芽生え始めていたんだ。

 俺は、神矢を殺したことでようやく気づいた。どうかしていた。あの日のことを、今では死ぬほど後悔している。

 しかし、もう後戻りは出来なかった。俺は、あいつらに従うしかなかった。神矢の死体を、神社の裏山まで行って埋めてこようと決意した。

 俺は冷たくなった神矢を担いで、暗い夜道を黙々と進んでいった。

 裏山は不気味なほど静寂だった。何も聞こえず、たまに吹く冷たい風が、肌を突き刺すような痛みを俺に与えていた。

 山頂付近に着いた俺は、神矢を置いて穴を掘り始めた。まさかこうなるとは予測していなかったので、穴を掘る道具など当然、用意されていなかった。だから、仕方なくこの寒い中、手を使って地道に穴を掘っていった。

 でも、無我夢中で穴を掘っていた俺には、もはや感覚などなかった。とにかく必死で、穴を少しでも深く掘ることだけを考えていただけだった。

 五時間くらいかな。もういいだろうと判断した俺は、神矢を穴に放り投げて、その上から土をかけた。

 その時点で俺は、二つの罪を犯した。一つは殺人罪。故意ではなかったにしろ、殺したのは事実だ。もう一つは、死体遺棄罪。俺の罪はどれくらいかなあ。未成年だから、軽くなるのだろうか。帰ったら、ネットで調べようと思う。

 まあ、そういったわけで俺は神矢を穴に埋めて、あいつらが待っている公園に帰っていった。

 だが、公園に着いた俺の目に、衝撃的な光景が映った。

 あいつらが、何者かによって殺されていた。五人全員だ。信じられなかった。神矢をリンチしていたことが、まるで遠い日の出来事のように感じられた。

怖くなった俺は、すぐに逃げ出した。その翌日、事件は朝のニュースや新聞で大きく報道されていた。何者かにより、五人の人間が惨殺されていた、と。

 事件から二日後には、死体の身元が発表された。零連東(れいれんひがし)高等学校に通う十二人の生徒が、同校に通う一人の生徒によって殺された、と。

 未成年なので、ニュースでは神矢の名前を伏せられていたが、そのニュースが放送された翌日の月曜日に、朝のホームルームで、担任に聞かされた。警察は、神矢を容疑者として捜査していると。

神矢が、五人を殺したことになってしまったのだ。

 どうやらあの時、同じ高校に通う同級生に現場を目撃されていたらしい。しかし、その同級生が目撃したのは、俺が神矢を担いで裏山に行った直後のことだ。俺が行っている間に、なんと、一人の男がナイフらしきもので、公園にいるあいつらを次々と殺していったようなのだ。そして、その事件の容疑者としてあげられたのが神矢だ。その同級生が、おそらく警察になんらかの情報を吹き込んだのだろう。死体を調べ上げた結果、神矢を苛めているグループと一致し、さらに調べたところ、神矢にはアリバイがなく、行方もつかめないのだから、状況的には容疑者として名前があがってくるのは、妥当だと思う。だが、それは大間違いだ。

 神矢は何もやっていない。被害者だ。俺によって殺された、可愛そうな被害者。このまま、警察が神矢を犯人だと決め付けて捜査を続けると、この事件は迷宮入りすることになる。俺としては、嬉しい誤算ではあるが。

 一週間経つが、今のところ変化はない。本当に、このまま逃げ続けられるのではないかと、俺は思っている。

 警察も見当違いな捜査をしているし、この事件の真相を知っているのは、俺ただ一人だ。

 いや、俺は全てを知っているわけではない。唯一分からないことは、誰があの十二人を殺したかだ。それが、謎である。

 考えていても仕方がないと思った俺は、神矢の死体が埋めてある神社の裏山に行くことにした。時間もたっぷり余っているし、家に帰っても、何もすることはないからだ。

 そういえばあの日以来、俺は裏山へ行っていない。その理由については、怖いという思いがあったからだった。神矢は、あの世で俺を恨んでいるだろう。だから毎晩、寝るたびに俺の意に反して、あいつの悪夢を見る。カウンセリングでも受けようかと、本気で考えている。

 人通りの少ない道をしばらく歩いていると、前方に、神社に続いている長い階段が見えた。

 あの夜は苦しかった。なにせ、あいつを担いでこの階段を登ったのだからな。しかし、難関はここだけではなかった。

 必死の思いで階段を登りきった俺は、今度は裏山を登り始めた。山といっても、少し登れば山頂のような、小さな山だ。

 今日は暖かくてよかったが、あの日の夜はかなり冷えていた。今思うと、神矢を担いでよく山頂まで登れたなと、自分で自分を褒めたくなる。人間窮地に立たされれば、なんでもできると、痛感させられた。

 さて、山頂に着いたはいいが何をしよう。土を掘り返して死体を確認するか? いや、そんなことはしない。俺にできるわけがない。無計画に行動しすぎた。

 山頂で右往左往していると、何者かに話しかけられた。

「そこで何をしている?」

 声のするほうへ、振り向いた。

 スーツを着た、清潔感のあるサラリーマン風の男が、俺と離れた場所に立っていた。

「何かようかい?」

「あ、いや、べつに」

 声が裏返ってしまった。緊張している証拠だ。何か感づかれたら、どうしよう。

「用がない場合、ここは神社の神主さんの私有地だから、入ってはいけないんだよ」

 優しく言われるも、俺は気が気でなかった。いつ感づかれるか、不安で頭が真っ白だった。

「用がないなら、帰ったほうがいい」

 あれ。意外にもあっさり帰してくれるのか。

 心配して損したよ。感づかれているのかな、って一瞬思っちゃった。

「それじゃあ、失礼します」

 俺は帰ろうとしたが、呼び止められた。

「ちょっと待って」

「なんでしょうか」

 平静を装ったつもりが、またしても声が裏返る。どうしようもないな。

「ごめんね。帰れとか、言っちゃったのに。でも、少しだけいいかな?」

 そう言うと、男は上着の胸ポケットから手帳のようなものを取り出した。

 それを見た瞬間、俺の鼓動が一気に早まった。

「実はね、俺は刑事なんだ」

 その言葉を聞き、俺は固まってしまった。

 刑事……だと。

 俺は刑事と名乗った男の目を、見つめた。その目には、何か裏があるような気がした。



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