エピローグ……秘密
「しかし、よくあんなに分かったな」
「何が?」
俺と臨海は、病院の中庭を歩いていた。外は、もう真っ暗だ。寒いけど、なんだか今日は歩きたい気分だった。
「神矢刑事の抱えていた思い、全て当てていたじゃないか」
「ああ、あれね」
すると、臨海は小さく笑った。
「簡単だよ。誰でも分かる」
「どういうことだよ?」
「それは、教えられないな」
またそれかと、俺は呆れ返ってしまった。
「でもさあ、よく分かったよな、あの人」
「あの人?」
「神矢の母親だよ。ここが、よく分かったな、って」
今度は小さくではなく、大きく笑った。そんな大きな声で笑ったら、病院を見回りしている警備員とかにばれるだろうと、内心焦った。
「僕が教えたんだよ、ここをね」
「は?」
「四日間、僕が学校を来なかった日があったろう? その四日で、全て調べ上げた。結構、苦労したんだよ、あの人を見つけるのに」
すごいな、こいつ。
「感動的なラストを、用意したくてね」
「だとすれば、大成功だな」
俺たちは、寒空の下で笑いあった。
「僕も……いいかな?」
躊躇いがちに、臨海が言った。臨海が俺に質問なんて、珍しい。
「どうした?」
「君の秘密を、教えてくれないか?」
「は?」
「いや、猛君が聞きたがっていただろう? 僕も、同じ気持ちなんだ」
猛以外にも、知りたがっているやつが一人いることを、俺はすっかり忘れていた。
「神矢刑事は、君の秘密を知っていた。それは、日記を読んだからだ。けど、僕は日記を読んだだけじゃ納得できなかった。あれには、もう一つの意味があるんだろう?」
「そんなに、知りたいのか?」
「うん」
俺は、優越感に浸っていた。臨海は何でも知っている、というのが俺の臨海に対する印象だったからな。こいつでも、分からないことがあるんだな。
よし。これはチャンスだ。俺は言ってやった。
「神矢刑事のことは、全てお見通しだったけど、俺の秘密は分からないのか、名探偵」
俺の言葉に、臨海が頬を赤らめた。
「か……関係ないだろう」
俺はまた笑った。臨海も、つられて笑う。
しょうがねぇなあ。
「猛には内緒だぞ」
念を押して、俺は秘密を話そうとした。
「実はな――」
「こらー!」
後ろから、怒鳴り声が聞こえてきた。
「やべぇ!」
やはり、見つかったか。
「あとで、ゆっくり聞かせてね」
その言葉に、俺は笑みを浮かべて頷いた。
「でもよお、早く帰っていたほうがよかったんじゃないか?」
「べつにいいんじゃないか、これでもさ」
相変わらずのん気だなぁ、臨海って。
「のん気で結構」
臨海は笑みを浮かべて言った。
「行こう」
「ああ」
俺たちは、病院の中庭を全速力で走った。
不思議と、寒さは感じなかった。
いかがでしたでしょうか。
この小説は大分前に書いたもので、今読み返すとやはり恥ずかしく思えてしまいました。
この小説を読んでくださった方で、評価をしていただければ幸いです。駄目だしも大歓迎です。
少し、わがままかもしれませんが、僕が書いたもう一つの小説『マーダープラン』も、ぜひ読んでみてください。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いいたします。