第十一章……作戦
「臨海、どうする?」
帰り道、辺りはすっかり夕焼けに染まっていた。屋上での出来事が、自然と思い出される。
臨海と一緒に帰っていた俺は、思わず聞いていた。俺の意見では、神矢を殺したほうがいいと思う。臨海は、どう思っているのだろうか。それが気になる。
「今の彼は、喋れる状態じゃないんだろう」
「そうみたいだな」
「君のやったことは、まだばれる心配がないわけだ」
確かにそうだが、目を覚ました、ということはいずれ喋れるようになる。そうなった場合、やはりあいつには死んでもらうしかない。
「君は、神矢君を殺せば解決すると思っているのか?」
「え?」
見抜かれていた。いつもそうだ。俺の考えていることは、全て臨海にはお見通しだ。隠し事などできない。
「図星なんだね」
「お前は、どうなんだよ」
俺の質問には、まだ答えてもらっていない。
「お前は、どうすればいいと思っているんだ? 天才の意見も、聞いてみたいね」
皮肉をこめて言ったつもりだったが、やはりこいつには効いていないようだ。無表情で、臨海は答えた。
「さあ、どうだろうね」
そんな答えが返ってくるとは、正直思わなかった。いつもなら、いい答えを出してくれていたのだが、考えていなかったとは。失望した。
「どういうことだよ」
「安心してよ。何も考えていないわけじゃない。予定が少しずれるだけのことで、別に何の問題もないさ」
その言葉を聞いて、俺は胸をなでおろした。
「お前は、これからどうしようと考えているんだ」
「まずは、警察に電話をする」
例の、改造携帯か。
「そして、今の捜査状況を確認する。おそらく、神矢君は容疑者から外れていると思う。そしたら、次に誰が容疑者として怪しまれているか、だよね」
「警察の捜査が、そこまで進んでいるとは思わないけどな」
「と、言うと?」
「今まで、神矢を容疑者として捜査していたわけだろう。この事件の犯人は、状況的に神矢以外、考えられないじゃないか。うちの高校のやつだって、証言している。誰かは、知らないけど」
「そもそも、神矢君を容疑者として捜査し始めたのは、死体の五人が神矢君を苛めていたグループと一致したからだよね」
「まあな。それと、あいつは事件直後に、行方をくらましたことになっていた。俺が、裏山に埋めたからだけど」
「そういうこと。状況的に、神矢君以外に、犯人は考えられなかった」
警察の捜査は、神矢が見つかったことにより振り出しに戻ったわけだ。
しかし、神矢が目覚めた今、警察の捜査は大きく進展する。喋れるようになれば、あいつは俺を犯人だと証言し、俺は捕まるだろう。
そうなる前に、何か手を打たなければ。
「君が心配するのも分かるよ。僕も、その問題については危惧している」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
臨海は、こちらを降り向いて悪巧みをする子供のような笑みを、浮かべて見せた。
それだけで、俺はこれから何をするのか想像がついた。
いよいよ始まるのか。警察との戦いが。
「さすがの僕も、緊張してきたよ」
「俺もだ。こんなの、初めてだからな」
手汗を掻いていた。緊張している証拠だ。
「君の部屋を、使ってもいいかな?」
「は?」
「僕の家じゃぁ、ちょっとまずいんだよね」
「俺の家を犠牲にするのか?」
「そうじゃないよ。ちゃんと、逆探知防止機能も付いている」
それでも、心配だなぁ。
「大丈夫だよ。頼むから、ね」
立ち止まって、臨海が俺に頼み込んだ。どうしようか、正直なところ悩んでいる。べつに構わないのだが、最悪の事態を想定すると、俺は頷けなかった。
でも俺は、こいつに従うって決めたんだ。こいつは、俺を全力で守ってくれるはず。
「しょうがないなぁ。いいぜ」
「ありがとう。助かるよ」
「その代わり、絶対にばれるなよ」
「大丈夫だよ。僕を信じて」
臨海がそう言うと、不思議と勇気が沸く。
十七年生きてきて、臨海のようなやつと出会ったことなどなかった。初めてだよ、こんなやつは。いつの間にか、一緒にいると楽しく感じられるようになっていた。
「よし。じゃぁ、行くか」
俺は自宅へと、臨海を連れて再び歩き始めた。