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03

 HRが終わると、芳久はゆっくりと席を立ち廊下にでる。

 六組のかれが部室にいくには、このまま教室そばの階段をくだっていけばいいが、二組にいる幼馴染がいっしょにくるかもしれないので、遠回りしていく。

 ちょうど二組もHRが終わったようで、中からどっと生徒が出てくる。


 人波をよけてから覗くと、辰臣もぺったんこの鞄を持って出入り口に近づいてきていた。

「たっくん」

 声をかけると目があった。

「芳久、おれ、今日は眠いから帰るわ」

 ということは辰臣は歩きということになる。

「部室で寝といたらどうや。終わったら自転車で送ったるで」

 辰臣は考える素振りをするが、だがかれはたいてい自分で決めたことを曲げない。

「ええわ。いまから歩いて帰る」

「そうか。じゃあな」

 引き止めず、ぽてぽてと力なく歩いていく背を芳久は見送った。


 どこか途中で力尽きて寝たりしないだろうか、とか。ぼけっとしていて車にはねられないだろうかという心配が湧いてくるが、道端で寝たとしても女子じゃないのだし、まあ大丈夫だろう。体もそこそこ大きいし、運転手が気づくだろうと、しいて自分をなだめた。

 こんな心配ばかりして自分でもおかしいような気はする。

(おれは辰臣のおかんか)

 とおもわないでもない。



 芳久の幼馴染の評判はよろしくない。

 部活動中のちょっと休憩。お喋りタイム。お茶時間。

「よしくん、よくあの子と付き合えるね」

 気さくだが遠慮のないものいいの女の先輩、みやこは、いつもこんな調子だ。

「小野原くんが優しいからよね」

 それこそおっとりとやさしく微笑んでいうのは、同じく二年生の山本先輩だ。

「梶はつら、そこそこいいけど、愛想ねえし、体育いっしょになるけど、いつもやる気ねえよ」

 一組の小田と、二組の辰臣は合同体育だった。


「辰臣は、自分の興味があることにしかやる気を出さないんだよ」

 先輩が持ち込んだジャンクフードをひとつ摘んで口に入れると、芳久は立ち上がり、絵筆を集めた。

 他の部員は立ち上がる気配がない。まだお喋りしていたいようだ。

「うちのみるところ、そのやる気って、ゲーム限定のようね」


 あと漫画雑誌とか、コミックとか、パソコンにも詳しい。外では読まないが、家の部屋には厚みのある本が積み上がっている。この場にいる美術愛好家のだれより読書家だろう。

 そんなことを芳久はおもった。

(コンビニの品揃えにもおそろしく詳しい)

 先日、マクドへの買出し途中で寄ったときのことをおもいだして付け加えた。

 売られている商品傾向をみて、景気や地域の特徴などをぽつぽつと芳久にこぼし、あとは黙ってじっと熟考するのだ。


 辰臣はその対象を掘り下げて考え抜く力をもっている。


 興味があること限定ではあるが、いったん狙いを定めると粘り強く、凡人が太刀打ちできるものではないのだ。あのだらしなく歩き、面倒くさがりで、だらっとした態度の頭脳では、だれより思考しているし、レポートなどお手の物だ。

 あいにく高校受験でこの力を発揮できる科目が少なく、入学しても暗記が主流のテストでは実力を発揮できないが、教諭のなかでは辰臣の傑出している部分に気づいている人もいる。


 ――そんな辰臣の長所を、芳久はあえて他人にいう気はない。


 男前だが、愛想がなく、ゲームばかりして幼馴染に寄りかかっているとおもわれていて結構だった。


「あれでたっくんには、いいところいっぱいあるんですよ。大目にみたって都先輩」

「取得は気のいい幼馴染がいることしかみえへんけど……まあ、いいわ」

 そういうと、先輩は話しを切り上げて立ち上がり、部員たちもそれぞれ作品のつづきにとりかかった。


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