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後日談 後編

 昼休みになると五組から双子が一組にあらわれる。

 こういう習慣となってから、五組のクラスメイトはよそでの食事をとりやめたものがおおく、また五組の友人知人のつてをたどって他クラスのものもはいってくる。

 昼になると人口が倍増するのだった。

 後ろの席の赤坂と、母親にもたされる冷凍食品弁当か、購買部から購入してくるパンの昼食を教室で気軽にとっていた博は、当然のように博を挟む席について豪華な弁当を食べ出す双子がひきおこすこの観衆がうっとうしかった。

 視線が集まりすぎる。

 食後に話していることも聞き耳をたてられているようだし、隙があれば話に参加したいという雰囲気で、五組は異様な空気となってくる。

 赤坂は紙コップのコーラを飲みながら周囲をみわたし、すげえなあとのんきに感想をもらしているが、双子が転入してくるまでの静かな日が博は恋しい。

 三人で下校しているとき、博は口火をきった。

「なあ、昼、別の場所で食べようか」

「ん? いいですよ。ぼくらはひろくんといっしょならどこででも」

「どこがいいかなあ」

 博と浩二は足をとめ、公園のみえる角の道で浩一をまっていた。

 ついさきほど顔を真っ赤にした女子生徒に呼びとめられ、浩一が公園にでかけているのだ。

(告白なんだろうなあ)

 わからないわけがない。

「外階段も屋上も中庭も秋のうちはいいけど、冬になると外はつらいよな。それとも食べたあともずっと教室にいるからだめなのかな、食べたあとあちこちぶらぶらするか?」

「それもいいね。ぼくらはひろくんといっしょならほんとう、どういうのだっていいよ」

 浩二はにこにこと博の提案をきいている。

「――なんの話?」

 ふりむくと浩一が近づいてきていた。

「もういいのか」

「はい、お待たせしました。いこうかひろくん」

 通り過ぎるとき公園をうかがったが女子生徒の姿はみえなかった。視線に気づいて顔をあげると浩一と目があった。

「何の用件だったか気にならない?」

「見当はつく」

「浮気はしないよ」

 天使に微笑まれて、博はうっと息をつめ真っ赤になった。

 博がうつむいているうちに、浩二は浩一に昼をとる場所について話した。

「そうですねえ、人があつまりすぎてリラックスできませんね」

「じゃあ、あの話かんがえてみるか」

「そうだな、ひろくんとの昼食のためなら」

 博が顔をあげて左右をうかがっても双子は微笑したままだった。



 翌日の昼休みの鐘がなると、弁当を手にした双子が五組にあらわれ、入口で博を手招きした。

「ひろくんお弁当もってきて」

「…………ああ、赤坂くんも気が向いたら来てください。来ないでもいいですよ」

 温度差の違うセリフに赤坂が博のうしろで、喧嘩売られてる? ってこぼしながらついていくと、二人は先にたってさっさと歩きだした。博がついてきているのをたしかめて迷いなく歩いていく。

 行き先は四階の『資料室三』。浩一は手にしていた鍵でドアをあけた。

 なかは折り畳みのテーブルとパイプイス。窓際にはソファーとテーブルセット。壁一面の棚にはファイルが並び、部屋の端には旧式のパソコンが三台つみあがっていた。

「ちょっと埃っぽいかな」

 そういいながら浩一が部屋の電気をつけ全員がはいると鍵を閉めた。浩二が窓をあけ部屋に空気をいれる。

「今日からお昼はここでとりましょう。ここならわれわれだけですし、落ちついて食べられるよ」

 博をソファーの真ん中に座らせ、その左右におさまった双子がいう。

「鍵どうしたんだよ」

 弁当をひろげながらそう博がいうと、ペットボトルのキャップを回しながら浩二がいった。

「まえまえから生徒会に誘われていまして、その協力と引替えに」

「え、おまえたち入閣するわけ」

「いえいえ、あくまで協力です」

 ソファーをひとりで座っている向かいの赤坂と目があうと、茶髪の友人は肩をすくめた。

「ギブアンドテイクでいんじゃねえの」

「――おれが昼、教室以外で食べたいからって無理させた……?」

 両脇のそっくりな顔をみあげると、双子は同じタイミングで首をふっていた。

「無理じゃないですよ」

「これは取引の立派な理由になります」

「昼、音楽がきけるように何かもってくるのいいでしょうね」

「ミニ冷蔵庫でも設置しようか」

 そう双子がいうと、すかさず赤坂がテレビゲームもよくないかといってくる。

 頭上で三人が、電気ポッドだ電子レンジだと案を出し合っているのも上の空で博は双子が用意した部屋をみまわした。

 ひとけがなく、静かで、気の置けない仲でだけの昼食。

「……浩一、浩二、ありがとうな」

 両方の膝に手をおいてそういうと、二人が背をかがめてきて両頬にちゅっとキスをしていった。

「どういたしまして」

 目を丸くする博をみて、赤坂が声を殺して笑いながら腹を押さえていた。




終わり

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