第1話 天使たちの帰還
その昔、某商業誌に触発され書き出した作品です。序盤はその影響であちこちと似ております。思い当たるかたはそっと胸中に秘めておいてください。
途中、暴力表現があります。ご注意ください。
美形双子X平凡幼馴染。【全13話】+おまけ。
双子が帰ってくる!
博は踊りあがるように体を躍動させながら、家路をいそいでいた。
この日を二週間も前から待ちに待ち、双子の成長をおもってにやにやしたり、どきどきわくわくしていたのだ。
双子の名前は伊良部浩一、浩二、おなじ年の博の鈴木家とはお隣同士であった。貿易商をいとなんでいる双子の父親の都合でオーストラリアに引越してしまう小学校四年まで、ずーっと一緒にいた三人だった。
双子はうまれた時から天使のようにかわいらしく、近所中の人気の的だった。
博は子分よろしく双子をつれてあるいたが、浩一も浩二も嫌な顔ひとつせず、そっくりのかわいらしい笑顔をみせて、ひろくん、ひろくん、と博についてまわった。
あの双子が帰ってくるのだ!
鴨の子供のように、幼稚園も小学校もずっと自分についてまわっていた、あの少女のようにあいらしく、泣き虫な双子が!
どれほどかわらしいとおもったことだろう。どれほど守りたいとおもったことだろう。
博は元気いっぱいのガキ大将で、かけっこが学校でいちばん速かったし、機転がきくし、周囲の子供より一歩も二歩もぬきんでていた。
――しかしそれも中学二年まで。
身長も百七十センチを前にとまってしまうし、サッカーに夢中になりすぎて成績もがた落ちした。それでも持ち前のガッツで希望高校には受かったが、成績は底をはいずりまわっているありさまだ。小学校までのかがやかしさは消えていた。
角をまがると、おおきくどっしりとした洋館の趣ある伊良部邸と、そのすぐ隣りの、ちんまりした鈴木家が見えてくる。
博はスピードをあげ、我家をめざした。双子がきっと家で待っていてくれるとおもったからだ。
双子が引越して六年、一度も顔をあわせなかったが、博は幼馴染の浩一と浩二が天使のような微笑で待っていてくれるのだと疑わなかった。
「ただいま!」
玄関にみしらぬ靴があるのだけを目の端にとらえて博は居間にとびこむ。
居間では母と、端正な容貌の伊良部夫妻が談笑していた。
「こら博、失礼ね。あいさつしなさい」
「おひさしぶりね博君。おおきくなったわねぇ」
「わたしたちも年をとるわけですな」
双子のすがたはどこにもない。
「お、お、おひさしぶりですおじさんおばさん! おかえりなさい。あのっ……浩一くんと、浩二くんは……?」
頬を紅潮させてたずねる博に、三人は目で合図しあって笑い、母が口をひらいた。
「ふたりなら、あなたの部屋に……」
博は身はひるがえして階段にかけあがった。動悸が激しくなる。もうすぐ、ほんのもうすぐふたりにあえる……。自分の部屋までひどく遠くかんじられた。
「ひろくん!」
取っ手にとびつく前、目的の部屋のドアから一階にいた両親の面影がある男があらわれた。
百八十センチ以上のすらっとした長身、肩幅はひろく、手も足もながい。
「あっ……こ、浩二」
と男をひとめ見るなり博がつぶやくと、その男の背後からまったく同じ顔、同じ声の美形があわられた。
「ひろくん……あいたかった……」
「浩一……」
博は血の引くおもいがして、二、三歩あとずさった。
(う、うそだうそだうそだ、どーしてこんなにたくましくなってるんだ!? おれのかわいい双子の天使はどこにいったんだ!?)
内心絶叫していると、
「あいたかったよ~~」
迫力さえそなえた美形にそだった双子は、美しい顔をゆがめてふたりそろって博に抱きついた。
「ぐえええっ」
大男ふたりして抱きつかれたのだ、博はたまらず奇声をあげた。
「ひろくん、ひろくん、あいたかったぁ」
「ぼくたちのことわかってくれるんだね。うれしいです」
台詞はかわいいが、力はかわいくない。
さんざん暴れて腕から逃れると、双子と目があった。
黒のスリムジーンズに、白のワイシャツ。浩一と浩二は寸分のくるいもなく同じ姿でたっていた。育ちのよい品のよさをただよわせ、美貌はそろって傲慢なほど威厳がある。
博は茫然とふたりを見つめる。
「ひろくん、昔のままだ……うれしいです」
右側の浩一が口をひらく、
「おまえたちが、化けすぎなんだよ」
ふたりはそろって苦笑して、手をのばしてくる。博は圧死の危機をかんじてびくっとしたが、左右からの手は、やわらかく博の頬をなでただけだった。
「本物のひろくん……」
どちらともしれず吐かれたそれは、どこかせつなくて博ははっとさせられた。
(な、なんだ……?)
手のひらは、博には熱くかんじられた。