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04

 中村が腕を回してきて、裕也の頬をとらえると角度をかえてキスしてきた。

「……あ……っ」

 唇が離れて抱きしめられる。裕也は腕のなかで真っ赤になって自分の口を手で覆った。


「好きだよ……安達」


 見上げると、中村も真っ赤になっていた。裕也はさらに顔が熱くなった。

「う、うんぼくも。はじめて会ったときからね……え?」

 裕也は優しく背後にあったテーブルに、腰を押し付けられた。制服の上着のボタンを外され、中村が首筋に軽いキスをしてきた。手が首筋の生え際を撫で、もう一方の手が腰をさすってくる。意図は明らかだ。裕也からキスしたのであるし、おたがいの好意が確認できたのだからこのさきを進めるのに否はないが、裕也には問題があった。

「ま、まま、待って」

「どうして?」


 だって、だって……


「隣り……太郎ちゃんが」


 見てるし……


「え、塩野? 塩野ならおれがここに来るまえに、廊下でみたけど。その、あれ、どういうこと?」

 かがめていた腰を起こした中村は、準備室のドアと茫然としている裕也を見比べながらきょとんとした顔をした。




 太郎は三階の渡り廊下の柵にもたれ、頬杖をついて夕日を眺めていた。眼鏡にその模様が反射している。

 風は冷たく天然パーマの髪をなぶる。頬が青白いのは、体が冷えているせいだろう。準備室にいるはずのときから、ここにきてずっと空をみていた。


 おもえばこの男子校に進んだのも、裕也を放っておけばホモ兄さんたちのいい餌食になるだろうという親心だった。

 腕力はないが手段を選ばない太郎は、入学してすぐに目をつけられていた裕也を、いままで様々に守ってきた。あっちをそそのかし、こっちをけしかけ。自滅の道への案内看板をつくり、墓穴を掘らせてきたのだ。


 裕也がついに『この人』をみつけたからには、しかもその人物がなかなかの相手であるからには、太郎としてはホモ道へ進むことをあれこれ諌める気持はなかった。裕也の親には悪いが、息子が好きになったのが同性だからといって悲恋にさせる気にならなかったのだ。

 お相手の中村真澄に脈があったのだから、くっついてしまえばいい。

 中村なら裕也に優しくするだろう。裕也を守ってもくれるだろう。


(これでようやく肩の荷がおりるな)


 あのふたりは好き合っている。もうひと押しさえあれば自然にうまくいく。

――人を脅すには、どうしたらいいの?

 バカな裕也。


(人を酷い目にあわせようなんて考えたこともないくせに……おっと、むしろだからこそぼくにきいてきたのか。ぼくはいろいろ知っているからねえ)


 裕也を純粋培養してきた責任が太郎にはあった。

 まあ多少、淋しさはある。弟みたいなものだったから。バカでどうしようもない弟だったんだから。どうしようもなくいつもかわいかったんだから。


 だから、いまがたぶん、いちばんこらえどきだ。


 足音がした。

「太郎ちゃん!」

 みれば裕也が中村の手をひいて駆け寄ってくる。

「おや、ふたり揃って」

「ど、どどどういうこと!?」

 涙をためた目で裕也が太郎を睨んでくる。

「太郎ちゃんがいるとおもってぼくは、ぼくは……」

 真っ赤になったかわいい顔を自分の胸に押しつけて口を封じてしまうと、太郎は視線をあげた。

「キスした?」

「した」

 中村が簡潔に返事をする。頬の赤い中村の顔をみると、素早く了解している雰囲気があった。

「太郎ちゃん!」

 暴れ出した裕也を離して、乱れた髪に指を入れた。

「ひれつなことしてまで中村のことを手に入れたいっておもいつめたんだろ。ここまでいいだしたのははじめてだもんな。それでぼくが一肌脱いだわけだ。うまくいったじゃないか」

 人差し指で裕也の額を押して、中村のほうへ突き出す。よろめいた裕也を中村は受けとめた。


「脅しより告白のほうが勇気がいる。ぼくはそうおもうね」


 ふたりを眺め、太郎は少しだけ微笑んだ。

「……塩野って昔からこう?」

「うん」

 出来あがったばかりのカップルの会話をききながすと、太郎はいまさらに寒さを意識した。



「ぼくはもう帰る。風邪ひいたかもしれない」

「え、太郎ちゃん大丈夫? ぼく看病するよ」

「いいよ裕也がいると治るものも治らないから」

「そんなことないよ」

「そんなことがあったんだよ」


 幼馴染同士がじゃれあうあとを、中村は苦笑を浮かべながらついていった。





完結

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