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03

「いいか裕也、脅しには相手の弱みがいる。中村はテニス部のエースとして立脚している。そこを突くものを握ったらいい」


 夕飯のおかずのお裾分けで隣家の安達宅に来たさいに、太郎は裕也の部屋まであがり、人差し指をたててそういった。


 相談したことをちゃんと考えていてくれた頼れる幼馴染に、裕也は顔を輝かせた。

「ど、どんな!?」

「おまえとやつの、キス現場を撮ろう」

「ええっ」

「さいわいぼくは写真部部長であるし、隣りでキスしているところを、準備室で撮る」

 裕也は写真部部室とドアで通じている準備室の位置を脳裏で描いた。

 太郎は部活掲示板に、決行日には本日中止と知らせて人払いしておくという。

 真っ赤になって裕也が臆していると、太郎は腕を組み、鋭い眼差しを投げてくる。裕也が苦手な視線だ。

「やつのことが好きなんだろう。キスぐらいでびびってどうする」

「た、太郎ちゃん、で、でも……」

 しょげて涙ぐむ裕也に、セーターにジーンズ姿の太郎はほだされた顔をして、裕也の頭に手をのっけた。


「ぼくが裕也のためにならないことをしたことがあるか? 絶対手に入れるんだろ」


 そうだ、自分からいいだしたことだ。

 最近、中村から電話がかかってくる回数が減っている。いま、どうにかしなくてどうするというのか。

 幼少のころからの絶大な信頼を寄せ集め、

「う……うん!」

 裕也は太郎にうなずいた。

 一階から裕也の母が、夕飯をしらせる声がした。太郎も食べていったらいいと誘われるが、太郎は母が用意してくれているのでまた今度にしますといって帰っていった。

 太郎ちゃんはいつも礼儀正しいわねえと裕也の母は微笑んだ。



 決行日の放課後、裕也はどきどきしながら写真部部室で中村真澄を待っていた。中村にはメールで呼び出し、了解をとってある。


 どうしようどうしようどうしよう。


 ドアノブが回った。開いて、爽やかな男子学生が入ってきた。裕也は恐れる気持半分と、惹かれる気持半分でその学生を迎えた。

「は……話って?」

 今日にかぎって中村の声が耳に響くのはどうしたことだろう。この男はこんなにいい声をしていただろうか。

「うん、その」

 裕也は極度の緊張に襲われ、足が震えた。

「その……」

 目が、目が中村の唇から離れない。こ、こここにキスしろだって?


(や、やっぱりダメだ! 出来ないよ太郎ちゃん)


 眼鏡をかけた幼馴染の姿が浮かぶ、いつだって困ったことがあると助けてくれた。賢いくせに変人なほど淡々としてて、厳しい反面の優しいところを知っている。いつもいつも大好きだった。

「安達?」

 なかなか用件を切り出せないでいると、中村が一歩近づいてきた。びくっと反応すると、裕也は目をつぶった。

 太郎は隣りだ。隣りにいる。


(そこにいてくれるよね、太郎ちゃん!)


 手を伸ばして中村の腕をつかむと、裕也は顔を突き出した。閉じた唇を中村の唇に押しつける。

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