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02

 昼休み終りごろ、中村真澄は肩をたたかれ振り返った。


「ぼくは塩野太郎、安達裕也の幼馴染だ」

「え、安達の?」


 中村ははじめて会った、自分より背が低く、眼鏡をかけた天然パーマの塩野のあとについていった。安達について話があるといわれたからだ。

 誘導された場所は体育館裏手。

 さきほどチャイムが鳴ったが、ふたりともなにもいわなかった。

「……話って?」


 みるからに賢そうで、とっつきにくそうな塩野に中村はちょっと戸惑いの表情を浮かべていた。新しい友達である安達はとても人懐こいたちで、その安達の幼馴染にしては親しみ易さがないからだった。いやむしろ……


「きみ、裕也にこのごろ付きまとってるね。やめてくれないか」

 友好的でない態度からはっせられたことばは、中村の胸を刺し貫いた。

「なっ」

 息がつまり、怒りに眉を逆立てるが、ことばをなくした数瞬後に、中村は弱々しく問うた。

「安達がそういってたのか……?」

 塩野は眼鏡をかけた表情は変わらず、静かに中村をみつめてくる。

「そうだといったらどうする?」


 安達におれが、付きまとっている……


「おれは、……おれはただ……」


 小柄な安達はリスやハムスターみたいで、無条件に愛くるしい。

「中村!」

 苗字を呼んでくる声もかわいく、登校中に追いついてきて、貸していた小説を差し出す手も、中村と違って日に焼けておらず小さい。

「どうだった?」

「すごく面白かったよ」

 そしてなんといっても、笑顔。朝から拝めたなら、その日は一日幸福感に包まれて過ごせるのだ。


 最初の最初から好印象で、おたがい、いい関係になっているとおもっていた。

 それは自分だけのおもいこみだったのだろうか。

 中村は暗い顔になった。


 携帯に電話をかけたり、みかけたら呼びとめて話したりすることは迷惑だったんだろうか。笑顔がみたくて、必要以上にべたべたしすぎたんだろうか。まるきり、嫌われたんだろうか。



 塩野が中村をみつめながら腕を組んだ。

「裕也は頭が鈍くて小心者で、優しくて無謀なやつだ」

 眼鏡を人差し指でなおし、なおも続ける。

「小さいころからそりゃあもーう、かわいくて、そりゃあもーう、フォローばかりしてきた」

 声にやたらと実感がこもっている。

 蝶々といって捕まえてくる虫はぜんぶ蛾だった、そんなエピソードをそえたあと、塩野は中村に近づいていった。

「本気でないなら近づくな」

「本気だ!」

「テニス部のエースが?」

「関係ない!」

 きっぱりと答えた中村に、塩野は黙って背を向けた。

「お、おい塩野」

「よくわかった」

 いいすてたかにみえた塩野は後方にむかって、


「チャンスは逃がすなよ、エース」


 そういうと、目を丸くしている中村をその場に残して立ち去っていった。

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