01
眼鏡優秀後輩Xお人好し先輩。
ラブコメ。【全9頁】+おまけ。
昼休みのチャイムが鳴ると、先生は退室し、生徒たちはやかましく椅子を引き、いっせいに喋りだした。足音荒く教室を飛び出す者もいる。
「お昼だお昼だ」
「なに食べる?」
「急げー」
「スペシャルランチ頼んどいてくれ」
廊下を上の空で歩いているとクラスメイトに声をかけられて、今江哲也はあわてて顔をあげた。
「おい今江、昼は?」
「あ、うん、あとで……」
ひきつった笑顔でこたえると、クラスメイトは不審も抱かず今江をおいて駆けて行った。今江は顔を赤くして、食堂への波に背をむけた。
(心臓破裂しそう)
制服のうえから胸を押さえた。
*
今江の通っている高校にこの春、目を惹く一年生が入学してきた。
ひとりはラグビー部ホープの石井保。面構えも体格も一年生とはおもえない。変形している耳が、かれの活躍をおもわせる。
ひとりは、雑誌でモデルをしている椿大吾。スマートな体に、長い手足はさすがにモデル体形で、長めに伸ばしてある髪と、艶々している頬は手入れされている圧倒的な存在感があった。
そしてもうひとり、中学校時代に浮かんだアイデアをCGI化し発表したところ、スポンサーがつき、一年余りでネットで必須のアイテムとなって年々ロイヤリティーが転がりこむという、日向雅彦。
「この手紙の今江……先輩ですね?」
穏やかな声の持ち主で、背は今江より高く、賢そうな銀縁眼鏡をしている。
「うん、呼び出してごめん……」
両手を腹のまえで組んだまま、今江は赤い顔を隠すようにうつむいた。
一階美術室裏手で、ひとけはまったくない。ふたりの声がよく聞こえる。
「ぼくと友達になりたいとか」
日向のことばに、今江はうつむいたまま大きくうなずいた。
秋晴れの一日だった。衣替えされた上着が暑いくらいで、今江はすでに汗にまみれていた。
「それじゃ……今日いっしょに下校しましょう。校門で待っています」
断られるのを覚悟していた頭上に、日向の快諾。今江は輝くような顔をみせて、何度もうなずく。
*
「わ、わかった。じゃ、じゃあ放課後、校門で!」
二年生の今江が手を振って去っていく。日向も姿がみえなくなるまで手を振り返していると、すぐ傍で窓が開く音がした。
「なにしてんだよおまえら」
美術室の窓から顔をだしているのは石井と椿だ。
「あ~らら、オーケーしたのかよ雅彦」
「ほんとうにいいのかあ」
ふたりの問いかけに、日向は首をかしげたあと、
「なかなか良さそうだったろう?」
ちょっと微笑みながらいいかえした。窓から身を乗り出していたふたりは、そんなの知らねーよという顔をした。
石井は窓枠に手をおきながら日向に冷たい視線をおくった。
「雅彦に近づくやつは外見じゃ信用できねーよ。いままで何人いたよ」
中学校が同じであった三人は、共通の情景をおもいだせる。
日向の成功がマスコミに取り上げられ、かれの懐が常に温かいことを察知し、それが目当ての心無い人間がどれほどいたことか。
友達とはつまり『たかり』だったのだ。
「これは追い払うにかぎるぜ」
同じように幼いころからモデルとして稼いでいた椿は、日向の無防備さに声をかけて知り合いとなった。話していくうちに共通点が多く、友達になっていた。
「やりますか――で、作戦は?」
石井は日向が不良につかまってかつあげされているところを助け、いつの間にか友達となった。
気づくと三人で固まって好き放題のことをいいあうのがとっても楽で、たまたま三人そろって同じ高校に進学し、気のおけない関係は続いた。
「おい、ちょっと待て、楽しんでるだろうふたりとも」
あれこれ作戦を話だしたふたりに、しかし日向は多くいいかえさずききいった。