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つむじかぜ 短編集 ~学園編~  作者: みやしろちうこ
映画ではないぼくらの日常
18/58

05

 ベッドに腰をおろした山口に近づき、松原は大きな溜息をついてベッドにもたれかかった。いまは広げた物を片付ける気力がない。


(おれって、山口が映画好きってわざわざ調べにきたのかな、それでも別にいいんだけど……いいんだけど、なんだろ)


 なんてこんなにガッカリなんだろ。

 もういちど溜息をつくと、パッチワークのベッドカバーに顔面を押しつけた。

「大きな溜息だな」

 冷静だが、どこか打ち解けた声音。

 訪問するまえと比べて、自分と山口の距離ずいぶんと縮んだではないか。

「うん、あのさ山口、ひとつきいていい?」

 ベッドに顔をうつぶせにしたままこもる声できいた。

「うん?」

「山口ってイ○ポ?」

 沈黙がつづき、隣から重みが消えた。山口がベッドから腰をあげたらしい。

(やば、とうとう怒らせた)

 松原は焦りながら顔あげ、山口を振り仰いだ。


 山口はジーンズにハイネックを着たすっとのびた背中を松原にみせていた。足元の荷物をよけて机に近づく、太いラインの黒縁に長い指を添え、眼鏡を外すとおりたたみもせず、逆さにして重ねてあったハードカバーの上にのせた。


 コトリ、と音がした。


 部屋は薄暗かった。

 急速に外の明かりが落ちている。

 それでも眼鏡を外した山口の顔に意識を集中していた松原には問題にならなかった。

(……ああ)

 山口峰彦はこういう顔だったのか。


 筆で描いたような、すっとした眉。目尻が釣り上がっていたなんて知らなかった。眼鏡がなくなってなにか物足りないような気もしたし、裸の山口をみたかのような気恥ずかしささえ感じた。


「どうして眼鏡とったんだ?」

 元の場所に腰をかけようというのか、山口は松原に近づいてきた。荷物であふれている部屋でほかに腰をおろせるような場所はない。


「邪魔だからだろ」


 そういってみおろしてきた山口の顔は、氷のように冷たくもあり、松原がぞくっとするほど男前だった。動かない表情の下の感情がみえるようだった。

 やっぱり眼鏡に感じていた苛立ちは正解だった。あれがために山口はたしかに松原を遮断していたのだ。



 山口のなかには、まったくもうという気持しかなかった。

 自分のシモを知るまでこのクラスメイトは諦める気がないらしい。

 卑猥なことばを口にして喜ぶ幼稚さにつきあうつもりはない。

 どうせ松原にいわせるなら、いわせるだけの状況で楽しみたい。


 松原をベッドのうえにひっぱりあげ、肩を押して下敷きにし、まず試しにキスをしてみた。触れた頬は熱く、ぺったりとしていた。汗をかいていたんだろう。下唇を吸い、いちど舐めた。

 松原は目を丸くしている。

「抵抗しないのか?」

 馬乗りになり、山口は上の服を脱いだ。

「…………し、してる……っ」

 持ちあがってきた松原の手を掴んだが、ぜんぜん力が入っていなかった。

「これで全力? 力、弱いんだな」

「よ、弱くないぞ!」

「ふうん」

 松原のパンツのボタンに手をかけ、隙間から手を差しこんだ。素肌との温度差に驚いたのか、松原の体がびくっとなった。

 かわいい口。

(なにいわせようかな……)

 服のしたにもぐらせた手で、山口は松原を捕らえた。


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