02
週末、これといってすることがない場合、松原は自転車をだして駅前のレンタル店へ行く。だいたいお笑いやコメディといった内容のDVDが好みだ。真面目くさったのや、雰囲気映画など御免である。感動して泣くのもいいが、どちらかというと笑いたい。
*
正面ドアから右手が音楽、中央がゲーム、左手が映画と別れている。赤い壁をおおいつくすほどポスターが並んでいる。
両手をポケットにつっこんだまま山口峰彦は映画のタイトルと監督名に目を走らせながら慣れたように店内を進んだ。
「山口、山口だろ?」
どこかできいた声に振り向くと、茶色のジャケットにジーンズ姿の少年が立っていた。驚きに目をみひらき、頬が上気している。
「おれ、同じクラスの松原」
いったい自分をなんだとおもっているのだろうとおもいながら山口は返事をした。
「知ってるよ」
同じクラスになって半年が過ぎているというのに、名前を知らないとどうしておもうのだろう。たしかに、ちゃんと話したことはほとんどないけれど。
「山口もここの会員だったんだ。おれもよくここ来てんの。会うのはじめてだなあ」
「おれはよくみかけた」
またもや驚いたように松原は目をみひらいた。
「え、だったら声くらいかけてくれればいいのに」
山口が曖昧にうなずくと、松原はその点を追求せず、目を細めた。
「――で、なにを借りるの?」
おもわず一歩あとずさった山口はよこを向いた。
「ま、それは別にいいだろ、じゃあな」
そういって松原を残してDVDの列に入っていく。背後にぴったりついてくる気配があった。
目をひかれた作品に手を伸ばせば、
「うわあ意外っ、カンフーアクションが好きなの!?」
あらすじを読んでいると、
「その女優が好みなのか?」
袖をひかれたとおもえば、おもわせぶりに大人スペースを目線で示し、
「な、あっちはいいのか?」
同じクラスの松原達哉という男は、小柄でまだ幼いような可愛い顔をして、それでいながら悪友三人でつるんではシモネタで盛り上がっているような、山口にとって苛立つ存在だった。
同年代の男子として、あまりに幼稚だとおもう。
みかけも幼いが、中身も幼い。
うんちを連呼する幼児なら仕方ないとおもえるが、このレベルが高校生だとすると品性が下劣だといってもいいかもしれない。
きっと友達が悪いのだろう。
(――顔は、わりと好みだな)
東欧の、貧しさゆえに崩壊していく家族をどうにかして守ろうとする健気な少年のようだ。大きな真っ直ぐな目が万もの感情を物語り、非力な小さな体を抱きしめて安心を与えたい気持にさせる。そういった風情がないでもない。