01
クラスメイトだが、ほとんど話したこのないのふたり。
「松原ってほんと下品」
眼鏡をかけたクールな山口にそういわれた。
高校男子としていたって自分は普通だとおもっている松原は猛反発。
映画のようなドラマでもなく、いたって普通の、かれらの日常……におけるちょっとした出来事。【全6頁】
高校一年生の松原達哉は、同じクラスの仲良したちと男子更衣室で馬鹿笑いしていた。
ひとりが体操服を脱ぎがてら、よこにいる友人にみせなくていいものをみせる。
「うっわ、おまえぼうぼうじゃん」
「これがいいんだって。やるとチクチクして刺激的」
「うそつけ!」
白のラインのはいった緑のジャージ姿の男子高校生が四人かたまり、にわか品評会がはじまった。
「おまえは? げっ大きい」
「わーこいつでかい!」
「うそォ」
女生徒たちから隔離された空間だからこそ、おもうぞんぶん同性ならではの馬鹿ができる。松原はこういう単純明快なことが大好きだった。
あまりに愉快だったせいか、松原は以前から気になってはいたがなかなか声をかける機会がつかめずにいた、すぐ傍で着替えているクラスメイトに声をかけた。
「なあなあ山口は?」
長身の山口峰彦はもう制服の上着をはおっていた。お洒落な黒縁の眼鏡ごしに頭ひとつぶん低い松原をじっとみおろし、無言のまま体操服を入れた袋を肩にかつぐと、ドアにむかいながらいいすてた。
「バーカ」
ドアが閉まると、松原の背後から「なんだあいつー!」と怒号がわきおこった。
開閉したドアから一瞬目に刺しこんできた午後の日差しが眩しくて、松原はしきりとまばたきをした。十一月の陽光はこんなに強かっただろうか。
山口の態度を罵っていた面々は、いうだけいうと昼食のことをおもいだし、馬鹿話を忘れてあわてて着替えだした。
*
めいめい昼食を手にいれて一年三組の教室にもどると、窓際の松原の席に集まる。
「そういや、山口って中学の修学旅行のとき、同じクラスだったやつが」
窓枠に腰かけてベーグルトマトサンドを頬張っていた浜田がおもいだしたようにいった。
紙パックのリンゴジュースを吸っていた松原は、ストローを噛む力を込めながら話題を振った友人をみあげた。
「うん?」
「おれらもやったやつ、告白大会」
「あーしたした」
母親お手製の手巻き寿司を食べていた、いつもにこにこしている掛川が、いかにも調子よくうなずく。
「山口のやつひとり、寝てたって」
「周囲をみないやつなんだな」
松原の机を占領するいきおいの大きな弁当箱を攻略している東が、嫌だ嫌だと首をふる。
「山口って友達いないのか?」
ストローから口を離し、松原はさりげなくきく。
「そんなことないだろ、ただあいつは……」
浜田がいいさしたところで、掛川が仲間の注意をひいた。
「あ、ほらほらあいつ、隣のクラスのやつ、友達」
みると、教室の教卓のあるほうの入口近くで、山口は男子高校生と談笑していた。
山口がかけている眼鏡は縁が太く、松原はいつもそれに苛立ってしまう。たしかに似合っているしかっこいいけれど、よくみえない。いまどんな目をしてるのか。
「どっかすましてるんだよなー……。絶対シモネタにかかわらねえし」
「でも、ああいうやつにかぎってムッツリなんだぜ」
口の悪い浜口に、好き嫌いの激しい東がつづく。そうかもねーと、掛川が笑う。松原だけは皆の話題が山口から離れても、教室の壁にもたれて熱心に話しこんでいる眼鏡のクラスメイトと、その友達の姿を飽きずに眺めていた。