09
その後、学校で土下座告白がはやったとか、はやってないとか。
石井や椿により派手な演出によって日向と結ばれた今江はいまさら隠しようもなく、からかいの対象となった。今江がひとりであるのを狙うようにして近づいてくる。
「おまえホモだったんだなあ」
「金に目がくらんだんだろ。そんなにしてまでほしいかねえ」
「手段を選ばないよな」
嫉妬や嫌味をふっかけられる。
内面にもつ勝気さが顔を出そうとする瞬間、
「おまえら今江にむかって二度とそんな口をたたいたら潰すからな」
同学年のラグビー部キャプテンがユニホーム姿であらわれた。踏まれても蹴られても頑丈そうな顔と、今江の二倍はありそうな体つき。剥き出しの太股が毛深くも筋肉で盛り上がっている。
輩たちは慌てて立ち去った。
「うちのホープに頼まれてな。ラグビー部は応援するぞ」
ばしっと背中をたたかれる。
「ごほっ……あ、ありがとう」
*
今江を避ける者もいれば、近づく者もいた。今江経由で日向や石井、椿と接触しようという意図が透けてみえる。
落ちついた気持で今江は対処できた。
苦笑してしまうのは椿が、日向といるときにかぎってアプローチしてくることだ。
「今江先輩、日向に飽きたらおれもどーぞ」
「あっちにいけ椿」
日向にしっしっといわれたいようだ。
今江が日向と付き合うよう御膳立てしておき、それが結果を結んだにしろ、石井、椿、日向の仲が特別いいことに変わりはない。今江ですら入れない間柄であるのは、みてて微笑ましくもある。
今江としては、気になって仕方なかった人物の隣りにいつでもいける権利がもてたことが何より嬉しい。
いつだっていうことができる。
「おれがいるよ」
ずっといいたかった。
*
日向に手紙を渡し、近づけたかとおもったその日に距離ができ、翌日には念願だったことが叶ってしまった。
「先輩」
グランドの端の石のベンチに座って、ラグビーの練習を眺めながら日向は今江を待っている。ここか、コンピューター部で待ち合わせすることが多い。
学校指定のリュック式カバンを背負って、前髪の間から眼鏡のむこうの目が微笑んでいる。
「お、おまたせ」
「いいえ」
たまに外野からの視線が痛いこともあるけれど、構うもんかと今江はおもう。
「じゃ、行きましょうか」
「うん」
秋晴れはつづいている。いったいどこまでつづくのだろうか。
日向の部屋からみおろす紅葉はどんな景色だろう。
校門を抜け、ええいままよとおもって、今江は日向の手をつかんだ。日向は黙って今江の手を握り返した。ふたりはおもわず顔をあわせて照れたように笑った。
「ときに先輩、以前おききしたことはほんとうですか」
「何?」
「好きな相手とだけ、気遣いながら丁寧にする行為について」
「わー!」
真っ赤になって叫ぶと、日向が楽しそうに声をあげて笑った。
完結