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3話 僕は興味を持たれたい

春はいいね。舞う桜は新たな出会いと再会の兆しを感じさせる。

 

特段雅でない僕ですら、物思いに耽ってしまうほどこの景色は美しい。

 

同じように、そのような気持ちを抱いて窓の外を見ているのだろうか。それとも、僕と一緒にいるのがつまらないからなのかな。

 

教えて!? 雪城透花!


「学級委員てやること多いね。日記を書いたり行事の準備だったりさ」

 

放課後、教室に残ってせっせと書類作成を初めたところまではよかったんだ。

 

問題は、空気が妙に気まずいことだ。


「僕が学級委員なんて柄に合わないよね、あはは」


「だったら引き受けなければよかったでしょ」


「あ……やる気はあるんだよ?」

 

やべ、何か話題をと思って振ったら逆効果だった。

 

一度お口をちゃっく。まずは委員の名簿作りを終わらせよう。減らず口を叩くなって言われちゃいそうだし。

 

しばしの沈黙。

 

はぁ、雪城さんはかわいいな。


つい見惚れてしまう僕とは正反対に、一瞥すらせず彼女は窓の外を見ている。

 

どちらかといえば冬が似合いそうだけど、桜の中にいても絵になるんだろうな。

 

ふわりとシャンプーなのか柔軟剤なのか。時折甘い匂いが香ってくる。不意に意識を奪われそうになる。


「手、止まってるけど」


「え、あああ、ご、ごめん。ちゃんと仕事はするから見捨てないで!?」


「は? よくわからないけど、さっさと終わらして」


「らじゃ! 尽力します」

 

あっぶね。邪な考えを見破られたのかと思った。もうやること終わったから早く帰りたいのかな。

 

昔はバイオリンを習ってたけど、今もやってるのかな。

どっちにしろ彼女の大切な時間を奪うわけにはいかない。


「そういえばさ、さっきから何見てるの?」

 

机に肘をつき、僕ではない窓の外の何かに彼女は関心を向けている。


それは勉強や体育をしているときのように集中しているのではなく、ただぼんやりと、眺めている。


時折視線が、何かを追って。

 

窓の外、あるのはグラウンドとプール。あとは満開の桜道。


「やっぱり桜? 4月はいいよね。暖かくて過ごしやすいし。よく夏か冬どっちが好きって聞かれるけど、春もその論争に参加させてくれたっていいと思うんだよ」

 

秋はだめだ。あいつは最近冬にのまれすぎている。


「あとは、出会いの季節とも言うしね」

 

だから僕はこうして再び彼女に出会えたのかもしれない。小学校を卒業する時はもう二度と会えないと思っていた。たまには神様に感謝をしておこう。


でも不思議なのは、なぜ彼女がこの高校に入学したのかということ。学力を考えればもっと偏差値の高い進学校に行けただろうに。

 

あれか? 家が近いからとかそんな超人的な理由か?


「僕のこと覚えてる? 小学校が一緒だったよね。クラスは違うかったけど帰り道が同じでさ。よく好きなこととか今日の面白い出来事とか喋ったよね」

 

ま、全部僕の独り言に近い会話だったけど。

相槌はほんとたまにしてくれたけど。

それでも一緒にいられるだけで嬉しかったんだよね。


「新入生代表挨拶の時さ、びっくりしちゃったよ。まさか雪城さんが壇上に上がるなんて夢にも見なかったからさ。目ん玉飛び出るかと……」

 

はっ!? てか今大丈夫? 僕暴走してない? また小学校の頃のような二の舞に──


「手」


「手?」


「止まってる。早くして」


「あ……ごめん、うるさかったよね」

 

反省しよう。いや、悲観的になるな。僕の恋はまだまだ序章。ここから発展させていけばいいんだ。


「あれ、もしかしてだけどさ」

 

ふとした直感。再度気合を入れ直そうと彼女の横顔に眼福されていたその瞬間。

 

見ているのが桜ではないことに気がついた。


「下校中の生徒を見てる?」


これは図星だったのかもしれない。


何気ない一言だったはずなのに──ぴくっ、ほんの少し彼女が反応したからだ。


これまで僕の声に上の空だった彼女が、初めて動揺したように見えた。

 

そしてコンマ一秒、遅れて言葉が紡がれて。


「なんでそう思うの」


その声だけ、ほんの少しだけ柔らかかった。

目元も、気のせいかもしれないけど僅かにほどけていて──


僕はちょっとだけ息を呑んだ。


「……なんとなく? たまに目で追ってるような気がして」


「そう。私を見ている暇があったら、さっさと終わらしてほしいものだけど」


「なんか、雪城さんといると落ち着かなくってさ」

 

返事はなかった。あたかもどうでもいいというように、その表情はまた段々と冷気を帯びていく。

 

ただ気配が少し変わったのが、なんとなくわかるような気がした。


「終わった! 終わったよ雪城さん」

 

それから数分。ようやく名簿を書き終えた。それまでに彼女は倍以上仕事を終わらせているわけだ。

 

がたっ、椅子を引く音。荷物を持って、彼女は席を立つ。


「あとは任せたから」


「お、仰せのままに」

 

あっという間だった。彼女にとってみれば退屈な時間でも、僕には久しぶりに一緒に話せたからだ。


まるで小学校の頃と同じ。好きってだけで突っ走れちゃう。


「迷惑だったかなぁ。あんな一方的に喋っちゃったし」

 

次はもっと冷静になろう。でも毎回気持ちに振り回されるのがオチなんだ。

 

彼女は誰にも冷たくて、ツンツンで、簡単には心を開かない。それゆえに高嶺の花で、孤高の美少女。仲良くなるだけでもハードルが高い。


そういう手に入れがたい人に、なぜかみんな恋を抱いてしまう。僕もそれは変わらない。


「あーあ、ライバルがいっぱいだぞ。何人一目惚れさせたのか見ものだな」

 

でも、最後まで気になっていて、言おうか迷っていたことがある。

 

これは僕の強みなのか利点なのか、よくわからないけど。


「なんで僕には敬語じゃないんだろう」

 

いつからなのか。

それは僕にもはっきりしない。

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