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その魔法、パンツ払いでお願いします!  作者: ダック


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17/18

「理論」と「羞恥」の協奏曲

 ――三日後。

 王都魔術師ギルドの大講堂は、異様な熱気に包まれていた。


 普段は静かなはずの研究発表の場に、立ち見が出るほどの大観衆が詰めかけている。

 おそらく、そのほとんどが、あの匿名掲示板『魔導士の円卓』の住人たちだ。

 まぁ、あれだけ盛り上がっていればな。


『おい、本当にやるらしいぞ』

『あの論破王、「真理の探究者」が初めて公の場にでてくるのか……期待が持てるな』

『まぁ、よっぽど自信が無ければこのように公開はしないだろうからな』

『……「虹の賢者」は来ているのか? あいつはただのホラ吹きの可能性も高いがw』


 周りの雑踏が好き勝手話している中、もちろん俺もレティシアのすぐそばという特等席に意識を飛ばし、その様子をワクワクしながら見守っていた。

 やがて、講堂の壇上に、一人の少女が姿を現した。


 その美しいロリ……いや、少女然とした容貌に、集まった連中たちがざわめきをたてる。

『あれが、あの「真理の探求者」なのか!? まだ子供じゃないか!』

『いや、しかし見ろ、あの白衣は魔導研究所の紋章入りだ……!』

せる……!』


 壇上に立ったのは、栗色の髪をきっちりとした三つ編みにし、銀縁の眼鏡をかけた少女――レティシアだ。

 彼女の服装は、動きやすさを重視したのだろう、黒いブラウスに深い紫色のチェック柄のプリーツスカートという、まるでどこかの女学生のような出で立ち。

 しかし、その上から羽織ったぶかぶかの白衣のあちこちが、インクや薬品の染みで汚れているのが、彼女がただのお洒落な少女ではなく、実験に明け暮れる本物の研究者であることを示していた。


 そのどこかアンバランスな姿に、ある者は「天才の奇矯さ」を、そしてある者は「隙のある可愛らしさ」を見出した。

 彼女は、満場の視線を一身に浴びながらも一切臆することなく、自信に満ち溢れた声で宣言した。


「よくぞ集まってくれた、魔導の高みを目指す者たちよ! 今日、私は君たちの前で世界の魔法史を塗り替える、新たなる理論を証明する!」


 彼女が語ったのは、「並の術者でも使用回数の多いレベル1の【治癒ヒール】を複数同時に発動させ、それらを完璧な術式で『共鳴・増幅』させることで、高レベルの範囲回復魔法に匹敵する現象を生み出せる」という、壮大な理論だった。


 おおっ!と、会場がどよめく。

 もしそれが本当なら高位神官の不在という、ダンジョン攻略における最大のリスクを根本から覆す大発明だ。


「――そして、今日、君たちに披露する奇跡。それはこの壇上に用意した枯れかけの花々を一斉に再生させてみせる! 単体効果の【治癒ヒール】を範囲効果とし、さらに効果も増幅されるわけだ!」


 レティシアが指し示す先には、何十もの、完全に枯れ果てた鉢植えが並べられていた。


(……ほう、枯れた花の再生か。実験室での成功体験をスケールアップさせたわけだな。だが、その成功が、俺の手助けあってのものだとも知らずに……w)


 レティシアは、厳かに詠唱を開始する。

 レベル1の【治癒】の魔法陣が、彼女の《並列思考》によって、四つ、空中に構築されていく。

 その光景に、周りの聴衆が驚きの声を上げる。


 【マインドハック】で辺りの連中の心の声が聞こえてくるが、魔法の同時起動。これだけでも常人には困難なものだ。例えば、右手と左手で同時に文字を書くようなもの! これを四つ同時と言うだけで規格外の才能と言える……


 だが――

「……なぜ……?」


 ここに集まった者たちの望む効果は発動しなかった。


 魔法陣は微かな光を放っただけで、対象オブジェクトも指定していない様で何も起こらない。

 枯れた花は、枯れたままだ。


「おい、どうしたんだ?」

「やはり、ハッタリだったか…」

「『虹の賢者』の言う通り、ただの白昼夢だったな(笑)」

「いや、研究は嘘でも、あの可愛さは別の才能だぞ!」


 観衆から、容赦のない失笑と野次が飛び始める。


「ちっ、違います! 理論は、完璧なはず……! もう一度……!」

 レティシアの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。


 彼女が信じてきたもの、積み上げてきたもの全てが、大観衆の前でガラガラと崩れ落ちていく。

 眼鏡の奥の大きな瞳が、涙で潤み始めた、その瞬間。


【ユニークスキル『思考加速』を発動。対象との精神交渉領域を構築します】


 ――世界から、音が消えた。

『――困っているようだな、『真理の探求者』くん』


 俺の、最高に意地の悪い声が、彼女の頭の中に響き渡る。

『なっ……何者だ…!』

『我は「虹の賢者」』

『っ…… 虹の賢者だと……!? な、な、なにが……!?』


 大観衆の前での失態と、突然の精神への直接干渉。

 流石のレティシアでも脳が混乱しているようだ。


『君の無様な姿を、高みの見物に来たのだよ。君のその素晴らしい理論、どうやら現実では再現できないらしい』


『ち、違う! 私の理論は……! ただ、少しだけ計算外の要素が……!』

『だが、私ならできる。さあ、どうする? このまま大勢の前で赤っ恥をかくか? それとも、我に……君の「探究心」が本物だという証を見せるか? 選べ』


 俺の冷徹な言葉に、彼女は唇を噛み締めた。

『……どうすれば、いいのですか……』

 これまでの不遜な態度から、急に俺を敬った言葉遣いに変わる。


 この娘は流石エリートだけあって、この精神に直接語り掛けられる事象、周りのほぼ時間が停止した光景。それを自身で体感することによって、この俺を自分よりも確実に「上の存在」であることを認識したようだ。思考の柔軟性がこの前の猫娘と違って桁違いに良い。


『話が早い。では、我の要求に応えよ。そうすれば、この場は助けてやろう』

『要求とは……?』


『――"真理の探求者"くん。君は魔力は魂の器から生まれると言ったな。ならばその魂の最も近く、最も非科学的な神秘の源……そうだな、壇上の中央でM字開脚のポーズを取り、スカートの中のその三角地帯デルタゾーン我に見せるのだ。そして、君自身の理論が間違っていたことを認め、その知性の象徴である眼鏡を外し、涙目でこう言うのだ。「私の理論では、説明できません……」と!』


 俺は、悪魔の要求を告げた。

『な……な……な……』

 レティシアは、あまりの要求に、言葉を失い、わなわなと震えている。


『嫌か? だが、お前にはもう後がないぞ? お前の探究心はその程度の羞恥心で途絶えるものなのか?』

『…………やります』


 彼女は、屈辱に顔を真っ赤に染め、震える手で、ゆっくりと壇上の中央へと歩を進めた。

 そして、観衆(時間が止まっている)の前で、静かに、その場に座り込み――究極の屈辱のポーズを、完成させた。

 魔導研究所の正装であるローブが乱れ、その下から現れたのは――


(――なっ!? 水色の、横縞模様ストライプだとぉぉぉぉっ!?)

 知的で、クールで、プライドの高い、天才ハーフエルフ。

 そんな彼女が選んだ、あまりにも子供っぽく、あまりにも無防備な、そのチョイス!

 この、キャラクター性との、究極のギャップ!

 これだ……! これこそが、俺が求めていた新たなるPPのフロンティア……!


 だが、まだだ。まだ、儀式は終わっていない。

『――眼鏡を、外すんだ!』

 俺の、追い打ちをかけるような命令が精神世界に響く。


 レティシアは、びくりと肩を震わせると震える手で自らの眼鏡に手をかけた。

 カチャリ、と小さな音がして彼女の「知性の鎧」が外される。

 露わになったその素顔は、知的でクールな印象から一転、どこか頼りなく、潤んだ瞳が庇護欲をそそる、ただの美しい少女だった。


 そして、彼女はその涙で濡れた瞳で虚空(俺がいる方向)を見上げ、か細い声で敗北を告げた。


「……わたしの、理論では……説明、できません……」


 ――臨界点、突破。


【対象:天才ビショップレティシア】

【観測内容:水色縞パン《ストライプ》&屈辱のM字開脚+眼鏡外し涙目敗北宣言】

【評価:SSランク】

【生成PP:35,000 over!】

【結果:レベル1魔法【治癒ヒール】の複数合成を超絶ブースト!『広範囲最大回復アルティメットヒール』に強制改変!】

 俺の存在の核に、セシリアの時すら超える、観測史上最大級のPPが奔流となって流れ込んできた。

 俺はそのエネルギーを使い、彼女の空中で停止した魔法陣に最後のピース(触媒エネルギーと、完璧な補正)を叩き込んだ!

 

 ――そして、時間は、現実に戻る。

 

 レティシアが、涙声で敗北を宣言した、まさにその瞬間。

 沈黙していた四つの魔法陣が、爆発的な光を放った。

 講堂全体に、生命の息吹に満ちた温かい光の雨が降り注ぐ。


 そして壇上に並べられていた、ぐったりとしなびて枯れかけていた何十もの鉢植えが、その光を浴びた途端、信じられない変化を見せ始めた。


 萎れていた茎が、見る間にしゃんと背を伸ばし、色褪せていた葉は瑞々しい緑色を取り戻し、固く閉じていた蕾が、一斉にほころび始めたのだ!


「なっ……! 枯れかけの花が、一斉に開花しただと……!?」

「なんと美しい……! これが、合成魔法……!」

「ただの治癒魔法じゃない…! 生命力そのものを、活性化させているのか……!?」


 誰もが見たことのない、幻想的な再生の光景に、会場は熱狂と喝采の渦に包まれた。

 その中心で、レティシアはM字開脚のまま眼鏡を外し、顔を真っ赤にして、目の前で起きた奇跡に呆然としていた。


 そして、精霊界で。

 俺は、「知的眼鏡っ娘の、縞パンM字開脚」という、最高級のご馳走に魂が昇天するほどの満足感を得ていた。


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