ドキドキ初デート編
こうして、普通の状態に戻った文香と五十嵐は、美味しいと評判のセ・シ・ボンにクレープを食べに行くのだが、そこで目にしたのは、小松有希と横に並んで座っている菊池優也の姿なのだった。
ハッキリ言って菊池優也のことが大嫌いな五十嵐は、小松兄に連絡を入れて菊池優也の恋路の邪魔を図るのだが、五十嵐の作戦は、思いっきり当てが外れる結果になるのだった。
菊池優也。
あの日から、約一週間が経ち、世間はゴールデンウイークに突入した。あの時のやり取りから、ボクと有希ちゃんは付き合うものと思っていたが、有希ちゃんからの連絡はほとんどなく、全く進展のない状況が続いていた。優也が首を傾げていると、ふと有希ちゃんが清水寺に一緒に行きたいと言ってきた。有希ちゃんから見れば満を侍しての初デートの申し込みというわけだった。
優也からみれば、断る理由は全くなかった。逆にデートに誘ってくれることを待ちわびていたのだ。
それにしても、初めてのデートが清水寺とは、有希ちゃんにしては普通過ぎるデートの誘いだった。
そんなことを思いながらも、「好きにさせてみせる」という有希ちゃんのセリフを思い出し、知らず知らずのうちに顔が緩んでしまう優也なのであった。
二人は今、清水寺に来ていた。
「中学の時に学校行事で一回来たんだけど、ここに縁結びの神様があるって聞いて優也くんと一緒に来たくなったんだ」
優也がスマホで調べると、地主神社といって確かに縁結びの神様がいるらしいというのが分かった。
境内に向かうと、膝くらいの石が飾る様においてある。これが、「恋占いの石」みたいだった。
相手を想って石にタッチして目を瞑り、反対の石にたどり着ければ恋が叶うという訳だ。
この石は、一回で成功したら恋の成就も早く、何回もかけて成功するとその分、恋が実るのも遅いと言う。また、人の助けを借りると恋の成功にも人の助けにより恋が成功するということらしい。
既に、何人もの人がチャレンジしているのが見えている。良く見ると、人の助けなしで成功するのは難しそうな感じだった。しかし、そんな難しそうな関門に対して、当然と言わんばかりに有希ちゃんがこれをやりたいと言い出した。
「これって、普通はボクのいない時にするもんなんじゃないの」
「え、そうなの?」
「まぁそれは良いとして、じゃあ早速始めよっか」
優也が、有希ちゃんの手を取った。
「あれ、どういうこと」
「二人で一緒に挑戦しよう。ボクも有希ちゃんのことは好きになりたいし、ボク達の願いは一緒だろ。それなら、一緒に挑戦しても何も問題はないよね。それに二人一緒に歩いた方が、二人分の幅が効いて成功の確率が高くなるだろ」
「やっぱり優也くん。大好き!」
優也にとって、その有希ちゃんの「大好き!」発言が、とても心地よく嬉しい気持ちにさせられるのだった。
運命共同体の二人の挑戦が始まった。
目を瞑りながらフラフラと歩いていると、優也は、小さいため息を漏らすのだった。どう考えても有希ちゃんのいる右側にずれてきているのだ。これ以上ズレると反対の石にたどり着けないと判断した優也は、有希ちゃんの手を引っ張った。
「こっちだって」
「そんなことないもん。絶対こっちだって」
いきなり引っ張ったのがいけなかったのだろうか。なんとビックリ、有希ちゃんが逆に引張り返してきたのだった。しかし、このままでは石にたどり着かないのは明白だった。
「もう、どうなっても知らないからな」
「もう、こっちで合ってるって」
結果、二人は明後日の方向にたどり着いてしまうのだった。
有希ちゃんの過去を良く知っているわけではないが、おそらく、過去で一番でしょんぼりしている。
「だって、優也くんが急に引っ張るから」
「もう止めようか。また失敗したら冗談じゃ済まされなくなる」
「それはそうなんだけど。私たちは次こそ絶対に成功するもん」
「その自信だけは凄いね。じゃあもう一回やるぞ」
「優也くんが私のあとを付いて来るんだよ」
「・・・わかったよ」
そして、二人にとって命運を賭けた再挑戦が始まるのだった。
「・・・なんとか行けたね」
「やっぱり私に合わす方が正解じゃん」
「・・・そうだったね」
「だって、絶対に石にたどり着く自信があったもん」
実は、優也は薄目を開けていたのだった。有希ちゃんが成功さえすれば、それでなにも問題はないのだ。このチャレンジは人の助けを借りて成功してもよいと書いてある。ということはボクがわざわざ本当に目を瞑ってチャレンジしなくても、ボクの助けで有希ちゃんが成功すればそれでよかった。
これは決してズルなどではない。
テンションが上がっている有希ちゃんの話を優也は黙って頷くのであった。
恋占いの石の挑戦が成功した有希ちゃんの発言は勢いに乗っていた。
「このあとウチに来てほしいんだけど」
「え、なぜ?」
「今日は夜遅くまで親がいないんだ」
有希ちゃんのその発言が、優也に刺さった。
本命はこれだったのか。
有希ちゃんは、家に親がいないこの日を狙ってデートを申し込んできたという訳だった。
家の中で二人きりになった有希ちゃんは、ボクに迫ってくるつもりなのではないだろうか。
「好きにさせる」とはそういうこと?
「なんでわざわざ家に行くんだよ」
「せっかくだから、家でしか出来ないことがしたいなって」
「・・・」
間違いない。
優也の中で、あらぬ妄想が膨らんでいく。
「楽しみだね」
「・・・あぁ」
無邪気に可愛い笑顔を見せる有希。
一瞬、自分の考えが見透かされているのかと思うぐらいの絶妙なタイミングで有希が話しかけてきた。
優也の鼓動がどんどん早くなっていく。
この笑顔の先が知りたい。
しかし、本当にこれは本当なのか。
優也にとって、期待してはいけないと自分に言い聞かせながらも、その期待を込めずにはいられなかった。
そしてあっという間に有希の家にたどり着いてしまった。
「お邪魔します」
優也が一歩、家の中にはいると少し違和感がする。誰もいない筈なのに、奥の方のリビングに明かりがついているのだ。
あれ、と思いリビングに足を運んだ結果、優也が抱いていた妄想は全て消し飛んでしまうのだった。
「良く来たな。待ってたぜ」
リビングには、既にリバーシがセットされている。対面に有希の兄貴の直樹が座って今か今かと待ち構えているのだ。
「どういうことだよ」
「どうもこもないよ、最近コレにハマっててさ、でも何回やっても俺の方が勝つもんだからとうとう有希の奴が、自分ではなく優也をあてにしたという寸法さ。「優也くんなら絶対勝つ」って聞かないんだよ。だから直接勝負しようってわけさ」
「ただのゲームじゃないか。なぜそんなにムキになるんだよ」
「そんなことないもん。優也くんなら絶対勝ってくれるよね」
「・・・分かったよ。勝てばいいんだろ」
「やった。ほれ見ろ。やっぱり優也くんが勝つもんね」
なんのことはない。ただの兄妹ゲンカに巻き込まれしまう優也なのであった。
親がいなくても、兄がいるじゃないかと、突っ込みそうになった優也であったが、そこは口が滑ってでも言えない優也だった。
「好きにさせる」とは何だったのか。あの時の有希ちゃんの勢いはどこへ行ったんだ。
あの時の発言をいつまでも期待している自分が恥ずかしかった。
優也は、あの時の有希ちゃんに戻って欲しいという思いがまだ残っている反面。これも有希ちゃんの本当の姿なのだと、思い直すことにした。
いろいろな有希ちゃんが見れることは、それはそれで楽しいのだ。
直樹と対戦をしていると、外野からなんやら声が聞こえる。
「キャラメルミックスとあともう一つは、何がいいかな」
「なんだそれ」
「え、なんのこと。なにも言ってないよ」
優也が振り向いて有希ちゃんに問いかけると、有希ちゃんがすっとぼけたふりをする。
「・・・まさか・・・賭けてるのか」
「・・・ダメ?」
「おまえなぁ。それはダメだろ」
「もう止められないぜ。クレープ代金は三人分だ。積年の恨みを晴らす時がようやく来たってもんだぜ」
三年分の恨みは強すぎた。
その結果、三人分のクレープ代は優也が払うことになるのだった。
「まさか優也くんがお兄ちゃんに負ける日が来るなんて、信じられない」
「ケケケ、これでやっと浮かばれるぜ」
直樹が三千円を手にして浮かれている。そんな直樹がまさかの行動をとったのだった。
なんと有希ちゃんに二千円を渡してきたのだ。
「ほらよ。二人で行ってこい」
「え、」
「仲良く三人でなんか行けるかよ」
「おにいちゃん・・・」
「別に二人の交際を認めた訳じゃないからな。ただ三人で行きたくないだけだからな」
「ありがとうお兄ちゃん。こんな兄貴らしいことしてくれたのなんて初めてじゃない?」
「フン。どこへでも行きやがれ」
「直樹、本当に良いのか」
「・・・なんか、嬉しそうなお前達の顔を見ていると、なんかイライラしてきた。やっぱり行くな」
「黙れバカ直樹。このお金は絶対に返さない」
一瞬で掌を返す直樹と、そんな兄の言葉に一瞬で沸騰する有希。
たった一日一緒にいただけで、優也は有希ちゃんのことをかなり深く理解した気分になるのだった。
家に誘った有希が、迫ってくるのではと、優也が妄想しているところでした。
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