四年分の願い編
同窓会当日。クリスマスイヴ。
八代目文化委員長の桐生耀の提案により、過去歴代の文化委員長同窓会が、中学校の生徒会室で行われた。
三代目の石田凛が文化委員長とは別の彼氏を作り、同窓会に来なかったことで、五代目の紺野千聡に大チャンスが訪れた。
感動の同窓会が閉会した。
「じゃあみんな、またねのパーだね」
「さよなら~」
それぞれのカップルが別々に分かれていった。そんな中、予定のない智也と千聡がフリーになった。
「この後、一緒に夜ご飯でもどうですか」
「どうせ暇だし、付き合うよ」
とは言ったものの、クリスマスイヴの当日に予約が入れられる店も無く、先週末行ったショッピングモールのファーストフード店で、バーガーとチキンをかじるだけの夕食になるのだった。
しかし、千聡にとっては、そんなことは全く問題にはならなかった。イヴの夜に大好きな智也さんと二人きりで食事できることへの感動が止まらないのだった。
「そういえば、今日の文香ちゃん。すごく可愛くなってたね」
「なんか色気づいちゃってるみたいなんだ」
「智也さん言っていたよね。恋をすれば女の子は変わるって。文香ちゃんが変わるきっかけが五十嵐君だったのかな」
「違うと思うよ」
「じゃあやっぱり優也君ってことかな」
「そうなんじゃないの」
「良く分かってるんだ。さすがお兄ちゃん」
「でもま、今の文香も十分幸せだと思うけどね」
「ハーン。良く分かってるんだ。シスコンだ」
「バカ。そんなんじゃないって」
ショッピングモールから少し外に出ると、綺麗なイルミネーションを纏ったツリーが見える。今日はクリスマスイヴなのだ。楽しそうな顔をした若いカップルが何組も歩いている。二人はそんな周囲の人だかりに溶け込むように何を語るともなく、ツリーの麓まで歩くのだった。
智也さんは、私のことを本当はどう思っているのだろう。
同窓会では、二人はこれから付き合っていくような感じになっていた。しかし、あれはただのその場の盛り上がりに流されていただけではないだろうか。
同窓会が終わってしまった今、私たちを繋ぐものはもう無いに等しかった。同窓会で私たちは、確かに一本のガーベラを交換したのだけれど、あれは耀君が準備してくれたサプライズなのだ。
智也さんが自ら準備してくれたものではない。
明日になってしまったら、また元の独りぼっちになってしまうのではないだろうかと心配になってきた。
何か、形になるものが欲しかった。
「この一本のガーベラ。一回私が持って帰っても良いですか」
「・・・いいけど、どうするの」
「一個ずつ押し花にして、パウチして返します。これで本のしおりとして使えるし、一生萎れない最高のクリスマスプレゼントになると思いませんか」
それを聞いた智也さんが、ポケットから何やら取り出して、千聡の前に差し出すのであった。
「・・・これ。クリスマスプレゼント・・・千聡のために準備したんだけど」
「私に・・・ですか」
「他に誰がいるんだよ」
「だって・・・智也さんは・・・」
「いいや、凛先輩のことは本当にもういいんだ。振られる以前の問題だよ。俺は凛先輩に対して何も言えなかった。それって本当に好きって言えるのかな。それにそんななにも知らない凛先輩が俺のことを好きになる筈もなく、当然のように他の人を好きになっただけのことさ。だから本当にもういいんだよ。それより俺が今、最も気になるのは千聡だよ。あんなことがあっても、まさか今でも千聡が俺を好きでいてくれているなんて思ってもいなかった」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
「いいや、俺は千聡に最低なことをしてしまったと思っている。去年の春先に、二回目の告白をしてくれたよね。あの時の俺は君の純粋なひたむきさがとても眩しくて、ただ返事が出来なかっただけなんだ。俺は本当にどうかしていたと思う。どうして俺は千聡の想いに応えてあげなかったんだろうってね。俺はとてつもない過ちをおかしてしまったのではないだろうかってすごく後悔していたんだ。でももうあのことが無かったことになんてできないからどうしようもなかった」
「本当に・・・」
「本当だよ」
「とても信じられません」
「いいや、本当にずっと後悔していたんだ。だから、今、こうして二人でいられることが本当に嬉しいんだ。そしてもう二度と千聡にあんな思いはさせないと誓うよ。これはその証さ」
千聡は渡されたプレゼントの中身を見て絶句してしまった。冗談で言ったティファニーのネックレスが千聡の手元にあるのだった。二個のハートが連なっていてとてもオシャレだった。
一体いつの間に買ったのか。一緒にいる間はとてもそんな時間はなかった。買い出しに行ったあの日の私と別れたあとに、ティファニーの店に戻って買ったとしか思えなかった。
智也さんは、あの時から私にプレゼントすると決めていたということだった。
「こんな高価なもの受け取れません」
「この間も言ったよね。彼女が出来たら使うって」
「でも・・・」
「ちょっとはカッコつけさせてくれないか。可愛い千聡への初めてのプレゼントなんだからさ」
「でもガサツで男勝りなんでしょ」
「え、だれが?」
「私です。だって昔から変わってないって」
「そんな風に思ったことは一度もないよ。千聡君は、初めて会った時からとっても可愛い女の子のままだよ」
「・・・私、智也さんの彼女をやっていく自信がありません」
「さっきまでの押せ押せの千聡はどこ行ったんだよ。これじゃあ本当に初めて会った時と一緒じゃないか」
「だって、智也さんがあんなこと言うから」
「・・・」
「だから中学のときやってくれたあれ、やってください」
「・・・しょうがないな」
智也がそっと千聡の手をとる。
「そんなんじゃ全然足らない」
「・・・」
「ハグでしてください」
「え」
「え、じゃない。いいじゃないですかこれくらい。四年間ずっと我慢してたんだから」
智也さんが、ぎこちなさげに千聡に対してハグをする。
「メリークリスマス。千聡・・・三秒経ったけど。どう」
「まだ、五十パーセントです」
「・・・もう十秒経つけど」
「まだ九十パーセント」
「もうそろそろ・・・」
「九十九・・・」
二人のハグは三十秒を優に越えていた。
「・・・一応溜まりました」
「よかった」
「でも、三十分後には減ってると思います」
「・・・分かった。三十分後だね」
ハグは止めてしまったが、手は離さなかった。そして智也さんもその私の手を振りほどきはしなかった。
四年間ずっと願っていたが、ずっとなにもできなかった。
でももう、なにも遠慮する必要なんてない。甘えて良いんだ。
千聡は、繋いだ手と反対の手を自分のコートのポケットに突っ込んだ。その中には、先ほどの同窓会で余ったお菓子が一箱入っている。キャラメル味のポッキーだ。
今の智也さんなら、お願いしたらあのゲームを一緒にやってくれるかも。
ポッキーを手にしながらそう考えている自分の口元がニヤケてしまった。
絶好調の今の勢いのまま誘うか。それとも、また次の機会にとっておくか。
贅沢な悩みだった。しかし、どちらを選ぶにせよ今の千聡には目の前のツリーのような綺麗で明るい未来しかない。
智也さんを想い続けたこの四年間は無駄ではなかった。紺野千聡、高校三年のクリスマス。サンタが千聡の四年分の願いをとうとう叶えてしまった瞬間なのであった。
イラストは、クリスマスの願いが叶う千聡
spellaiアプリを使用




