一本のガーベラ編
文化委員長同窓会、桐生耀は、文香ちゃんのお兄さんである綾小路智也と千聡先輩のペアと話しを進めていた。
一呼吸おいて、耀が文香ちゃんのお兄さんに謝罪を申し入れる。
「綾小路先輩の一個上の石田凛先輩が来れなかったみたいで。すみません」
「何を謝ってるの。でも会えないのは残念だな」
「残念と思っている綾小路先輩に朗報っす。実は、その石田先輩から伝言を預かってるっす」
この耀の一言で、緊張の閃光が生徒会室全体に突き抜けてしまった。
かつての想い人からの伝言を受ける綾小路智也と、それを真横で聞く紺野千聡。
朗報とは一体だれに対する朗報なのか。
二人の顔が、超真剣モードに切り替わった瞬間だった。ものの数秒で千聡先輩の顔が青ざめてきた。そしてそんな千聡の異変に全く気付かないほど、綾小路先輩は緊張を隠し切れないでいる。
当然である。この凛先輩の伝言の内容如何によって、今後の二人の未来が決定づけられてしまう可能性を秘めているのだ。ここで凛先輩から実は好きだったのなんだのと伝えようものならば、千聡が先ほどまで積み上げていた努力の全てが水泡に帰すことになるのだ。
誰もなにも言わず、耀の次に発せられる言葉を待っている。そんな雰囲気の中、耀は飄々(ひょうひょう)と石のように固まっている二人へと石田先輩からの伝言を、伝えはじめた。
「智也君、元気にしてますか。私は元気で今の彼と仲良くやっていてとても幸せです。という訳なので、私に未練など持たないように。それとおそらく横にいる後輩さんを幸せにしてあげてね」
それを聞いた千聡先輩が、思い切り安堵のため息を漏らすのであった。千聡の目に生気が戻って来た。
「さすがは、石田先輩。分かってらっしゃる」
「そうだね・・・」
「先輩、聞いたでしょ。もう先輩には私しかいないってことだね」
「・・・そうだね」
「もう、私達付き合うしかないでしょ」
「そ、そうだね」
勢い余った千聡は、ここぞとばかりに綾小路先輩に畳みかけてきた。
そんな千聡先輩の勢いに押された綾小路先輩は、千聡に飼い慣らされたインコのようになっていた。
「やっぱり耀君は最高グーだよ」
千聡が会心の笑みを浮かべて親指を立てるのであった。
誰がどこからどう見ても、この二人は千聡先輩の押しがかなり強めのカップルに仕上がっているのだった。
最後に耀は、最も気になる人に声を掛けるのだった。
「五十嵐先輩。ちょっといいっすか」
耀が五十嵐先輩を廊下に呼び出した。生徒会室から出て廊下を十メートル歩いたところで耀は話を切り出した。
「本気なんすよね」
「おまえに言われるまでもない。本気だよ」
こちらの真剣な問いに五十嵐先輩は、真顔で応えてくるのであった。
「菊池優也以上の存在になってもらわないと困るんすけど」
「分かってるよ。もうそれ以上言うなって」
「おまえこそどうなんだよ。いつの間に下の子と仲良くなってんだよ。もう文香への気持ちの整理はついたってことで良いんだな」
「俺はもう踏ん切りがついてるっす。ただ文香ちゃんにはどうしても幸せになって欲しい。だから、相手が菊池先輩じゃないなら確認を取っておかないと心配なんす」
「菊池優也も、俺達を気遣ってこの同窓会に来なかったし、お前たちのお人よしには頭が下がるよ。お前たち文化委員長ってどうしてそんなにいいやつが揃うんだよ」
「男だけじゃないって」
「そうだったな。文化委員長は男子も女子も良い奴だらけだな。・・・これでもう話をすることはないな」
「文香ちゃんをよろしくお願いするっす」
五十嵐先輩が、後ろを向きながら生徒会室に戻っていく、その右手が上がっていた。
生徒会室に戻ると、いきなり兵藤秀太先輩の叫び声が聞こえた。
「最高の耀君が返ってきたぞ。みんな集まれ」
「え、何するんすか」
ぞろぞろと耀の周りに全員が集まってきた。
知らない間に足が持ち上がっていた。仰向けに倒れたが、地面には落ちなかった。
「行くぞ、いっせーの」
なんと、耀は胴上げをされてしまうのだった。
耀が今まで生きてきた人生の中で初めての体験だった。
二度、三度と宙を舞う耀。
最高だった。胴上げってこんなに高揚した気分になるんだ。
耀は、胴上げするところなんかプロ野球の優勝をテレビでしか見たことしかない。
胴上げされる人なんてものは、栄光を手にした一握りの人間しか許されないと思っていたのに、まさか自分が胴上げされるなんて夢にも思っていなかった。
本当に俺はそんな栄光を成し遂げたのだろうか。そうは思いながらも、みんながしてくれたその行為に耀は感激が止まらない。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
誰からともなく、手を叩く音が聞こえる。
たったの八人による拍手であったが、その感謝の大きさは、耀にはとてつもなく大きく聞こえるのだった。
拍手の合間を縫って、きらりが耀のために花束を持ってきた。耀に知らされていないサプライズが発生したのだ。
「耀先輩。これ、みなさんからです」
「本当に」
「本当です。ここにいない人も併せて九人の文化委員長全員の気持ちです」
耀へのサプライズが終わり、忘年会も終焉にさしかかった。
「耀先輩、さっきは五十嵐先輩と何を話ししていたんですか」
「菊池優也以上の存在になってくれってハッパを掛けたんだよ」
「そういうことだったんですね」
「心配かけさせてたみたいだね。ごめんよ」
「いいえ、大丈夫です。それより耀先輩、ピンクのガーベラと白いカスミソウの花言葉ってなんだか分かりますか」
「知らないな」
「どっちも「感謝」っていう意味です。私が選んだんですよ」
「なるほどね。へーそういう伝え方もあるんだね」
「同じガーベラでも色によっていろいろな意味を持つみたいですよ」
「へー例えば」
「赤だと、チャレンジなどですね。それ以外にももっと色々あるみたいですよ」
「へーそんなに一杯あるんだね」
そう言いながら、自分のスマホで「ガーベラの花言葉」を検索しているとある事に気が付いてしまった。
「そういえばガーベラは何本あったかな」
「六本です。それがどうかしましたか」
耀は、ガーベラの花言葉を調べるうちに、本数にも意味があることがわかってしまった。ガーベラの六本の意味は「あなたに夢中」だった。感謝の意味の中にこっそり自分のメッセージも詰め込んだきらりという訳だった。その意味がわかった耀は、きらりに向けて笑みを溢すのであった。
「ちょっとあざとかったですか」
「いや、そんなことは無い。きらりから花言葉の話を振ってくれなかったら全然気づかなかったよ。ありがとう」
「ならよかったです」
「じゃあお返しだね」
そういった耀は、貰った花束の中からガーベラの花を一本抜き出して、きらりに渡すのだった。
「あなたが私の運命の人」
受け取ったきらりが、驚きの表情で耀を見返すのであった。きらりはガーベラ一本の花言葉の意味を知っていた。本当はきらりも一本のガーベラを渡したいと思っていたのだけれど、花束としてバランスが悪すぎる為、その考えは渋々(しぶしぶ)却下した本数だったのだ。
耀先輩も私と全く同じ想いでいてくれると分かった瞬間なのであった。
「私、耀先輩の彼女になれて本当に幸せです。もう明日死んでもなにも思い残すことはありません」
「なに言ってるんだよ、俺達まだまだこれからだろ」
下を向いて愚図るきらりの頭をよしよしと撫でる耀なのであった。
イラストは、文化委員長同窓会で、一本のガーベラを耀から受け取ったきらりが涙するところです。spellaiアプリとAIイラストのアプリを併用しています




