九人の文化委員編
文化委員長同窓会。
耀は、過去十年の全ての元文化委員長と連絡をとった結果、自分を含めて七人の文化委員長が参加してくれることが決定した。
そして来たる十二月二十四日に、文化委員長同窓会が開かれた。
といっても、ほとんどが未成年であるため、ジュースを飲むだけの小さな同窓会となるのだった。この年のこの日はちょうど土曜日で、学校の生徒会室を開放してもらうことになった。
参加メンバーは以下のとおりとなった。
きらりを仮に九代目の文化委員長だとすると、
初代と二代目の村上智佳と兵藤秀太
四代目、五代目の綾小路智也(文香の兄)と紺野千聡
七代目の文香ちゃんは、なんと副会長だった五十嵐先輩を連れてきた。
そして最後に八代目の俺と九代目のきらりという顔ぶれだった。
三代目の石田凛先輩と六代目の菊池優也先輩は不参加となった。実は十年前の文化委員長にも連絡はとれたのだが、不参加という連絡を貰っていた。
恐らくこの三人には既に彼氏彼女がいる可能性が高かった。クリスマスに来れない理由なんて一つしかないのだ。
恐らく独り身であろう文化委員長五名と、俺ときらり。そして五十嵐先輩を入れた合計八人のささやかな同窓会となった。
「この度は、墨染中学校文化委員長同窓会に参加いただきましてありがとうございます。私は、桐生耀といいます。今回、過去十年間の文化委員長の方に声を掛けさせていただき、クリスマスでもあるのにも関わらず、なんと七名の元文化委員長に集まっていただくことになりました。あ、五十嵐先輩も来ていただいてありがとうございます。
こうして見ると、元文化委員長の方々は、美男美女が揃っていて壮観ですね。なぜ、そんな方たちがクリスマスに暇を持て余しているかはおいておいて、今日は積もる話も多いと思いますので、挨拶はこのくらいとさせていただきます」
「さすがは文化委員長。挨拶も上手いじゃないか」
「なんと言っても文化委員長の伝統を受け継いでるっすからね。はい、では乾杯の音頭は、村上智佳大大大先輩に取ってもらおうと思うっす」
「では、元文化委員長の村上智佳が挨拶致します。でも、そんなに大がつくほど年は違わないってば。バカヤロー」
「挨拶はもう良いから乾杯だけでいいって。智佳先輩が話し出すと止まらないんだから」
「分かったって。でも、どうしても一言だけ言わせてください」
「桐生耀君。私たち文化委員長にこの場を設けてくれて本当にありがとう。君は最高だよ。じゃあ乾杯しよっか」
「カンパーイ」
周りを見るともう既に何組かのカップルが成立していた。
それにしても、女性陣のポニーテール率がエグかった。文香ちゃん以外の全員がポニーテール姿で同窓会に出席している。しかも今、ポニーテールをしていない文香ちゃんですらも生徒会にいた当時はポニーテールをしていたのだった。
この結果、自分を含めたほとんど全ての男性陣が、先輩のポニーテール姿に惹かれて、後輩をポニーテールにさせていたのではないかと容易に想像がついてしまう。しかもそれは恥ずかしいことに自分にも当てはまっているのだ。
そう思うと顔の火照りとニヤケが止まらない耀なのであった。
耀は、まず初代と二代目である村上智佳と兵藤秀太のペアに声を掛けた。
垢ぬけた感じの美人の村上智佳に対して背はそれほど高くないがスラっとした印象の兵藤秀太。そんな二人を見ていると既に「お似合い」という言葉しか出てこないほど、二人は親密な関係に見えてしまうのだった。
「お二人と是非お話がしたかったんす」
「文化委員長の伝統の話かな」
「そうっす。やっぱりそのころからもうあの伝統はあったんすか」
「実は、あの伝統の初代は、私だと思う。私が文化委員長になった時には、そんな伝統なんてものはなかった。でも、その後の伝統の話を聞くと、私のあの弁論大会での行動が全ての始まりなんだと思っている。実はあの弁論大会で私は、ただ開き直っていただけなんだ。規定時間になっても、まだ自分の原稿は一枚以上残っていたからね。でも秀太君が見ていることは分かっていたからせめて大事な後輩にだけは自信満々な態度を見せてあげようとただ見栄を張っていただけなんだ。でもそんな私の立ち姿にこの秀太君は、惚れちゃったみたいなんだけど、当時の私は、まさか秀太君がそんなことを想っているとは思いもしなかった。というかさっき教えてもらって今日知った」
それを聞いた耀はズッコケそうになるのだった。
「あの時、僕は智佳先輩のあの姿に魅入られてしまったという訳さ。でも当時は恥ずかしくてどうしても告白できなかった。そして、その言えない想いを全て後輩の石田凛君に託したという訳なんだ。確か石田君は先生の推薦外の子だったから選挙で王番狂わせが起こったみたいな感じになってね。その時から文化委員長が応援演説をすると・・・という文言が使われだして、いつのまにか、伝統ということになったらしい」
「大番狂わせどころか、圧勝だったそうじゃないか。「職員室組」じゃない子をそこまで圧勝させるなんて、秀太君はほんとに凄いってことだよ」
「全ては智佳先輩の弁論大会のおかげですよ」
「あれ、そうだっけ」
まさかあの伝統の初代の人達に会えるとは思ってもいなかった。でも、これで分かった。九年前の弁論大会での村上智佳先輩と、その想いを受け継いだ兵藤秀太先輩からあの伝統は始まった。もうこれ以上の昔の人を心配する必要はないのだった。
それにしても「職員室組」では無い子を圧勝させてしまうなんてものすごいとしか言いようがない。
きらりも「職員室組」ではなかったが、俺はきらりを圧勝させるまでには至らなかったのだ。たしか文香ちゃんの時も、ギリギリ勝たせてもらったと言っていた。
それを考えるとこの秀太先輩は本当にただものじゃない。
「お二人とお話が出来て本当に良かったっす」
「こちらこそだよ。耀君にはいくら感謝しても、し足りないよ」
「このあと、二人でどこかお出かけするんすか」
二人が年甲斐も無く、顔を赤らめている。
「野暮な質問でしたね。ゆっくり楽しんでくださいっす」
傍から見ていてこの二人の距離というか、雰囲気は想像以上だった。
これ以上、二人の間にはとても入っていられない耀なのであった。
次に、耀は文香ちゃんのお兄さんに声を掛けた。隣には紺野千聡が当たり前のようにちょこんと座っている。
こちらも相当の美男美女のカップルだった。特に紺野千聡は、文香ちゃんを振った菊池優也が惚れた女というのも頷けるほどの美人だった。
「最高の耀君が何か用?」
「先輩たちに比べたら全然そんなことないんで、そんな風に言わないでくださいっす」
「でも本当のことだよね」
「最高といえば、菊池優也君の伝説級の902票を越えたんだってね。文香から聞いたよ」
「一票だけっす。それにその票はほとんど文香先輩のおかげなんすけどね」
「いいや、選挙は一人でするものじゃないからね。一人だけがどんなに優秀でもこの大記録は絶対に成しえない。だから文香も併せて君たちは本当に最高の文化委員長だということだよ」
力説している綾小路智也に向って、千聡の顔がニヤケている。
「最高といえば、ここにも最高の文化委員長がいるんだけどな~」
「俺か?」
「そうですよ、立候補者が三人いるにも関わらず、当時の過去最高の票を集めた選挙の達人じゃないですか。相手の票は二人併せて二クラス届かなかったんですよ。だからこの記録は900票越えに匹敵する大記録ってわけです」
「あれは、本当に凛先輩が凄かっただけなんだって。俺なんか凡人だよ」
「あれ、さっきは二人とも凄くないとって言ってたくせに自分は凡人扱いするんだ。それだと私の時はどう説明するんですか」
「そうすね。綾小路先輩と千聡先輩の時も当時の過去最高記録を更新したって聞いてるっす」
「その大記録を千聡君と菊池優也君のペアは更に更新したってことだ。しかも本当に900票を越えたんだよな。やっぱり俺より千聡君の方がすごいじゃないか」
「文香ちゃんと耀君は、その私たちを抜いたってことだからやっぱり一番凄いじゃん」
「もう誰が一番なんて良いじゃないっすか。九人の文化委員長は、それぞれ全員が一番っすよ」
「間違いないね」
ここに集まっている文化委員長の伝統がもたらした実績は驚異的だ。しかもそれは決してまぐれなんかでは絶対にない。先輩たち一人一人の実力は本物だということだ。
「職員室組」ではない子を当選させた兵藤秀太先輩、菊池優也先輩、そして俺、桐生耀。先輩たちは、「職員室組」を相手に本来相当な不利をはねのけるだけでなく圧勝させた。はたまた元副会長を相手にしての堂々たる勝利をもぎ取った。そして自分達もサッカー部のキャプテンに打ち勝った。
また、文字通りに当時の投票の過去過去最高記録を塗り替えた石田凛先輩、綾小路智也先輩、紺野千聡先輩、そして綾小路文香こと文香ちゃん。その中には、対戦相手が二人いるにも関わらずに最高記録を更新させた凛先輩や、伝説級の900人越えを見事にやってのける人達が勢ぞろいしているのだ。
そして、当然神田きらりも、この中にいて絶対に見劣りしない実力があるに違いなかった。
どの文化委員長も本当に一番だ。
しかし、これは代々先輩からの想いを受けた新旧の文化委員長のペアで挑んだ結果が、この前人未踏の大記録となっているだけである。それぞれのその想いの大きさに優劣なんてつけられるわけなど無いのだ。
耀は、そんな素晴らしい文化委員長の一員でいることを誇らしく思えるのであった。
イラストは、文化委員長の忘年会で当たり前のように智也の横に座る千聡です。spellaiとAIイラストのアプリを併用しています




