運命の判決日編
紺野千聡と綾小路智也。
文化委員長同窓会の買い出しと言う名の智也さんとの運命の初デート。
このデート成功いかんによって、今後の二人の行く末が決まるのだ。
二人は今、京都のショッピングモールに来ている。
千聡は、制服以外では普段はあまりスカートをはかないのだが、今日だけはそういう訳にはいかなかった。
準備は万端だった。お肌のケアも、下着の色も、何日もかけて準備した。
「智也さんってチョコは好きですか」
「大好きだよ」
「じゃあ、ポッキーだったら何味が好きですか?」
「イチゴ味とキャラメルだけど。ちょっと。そんなに一杯買って多すぎないか」
「大丈夫です。桐生君と相談して、当日のお菓子は私達で準備するって言いましたから問題ありません」
「用意周到じゃないか。それにしてもチョコが多いんじゃないか」
「だって智也さんがチョコ好きだって。あ、あとこれはどうですか。智也さん」
「イヤイヤ、俺だけの趣味で選んでどうするんだよ。偏りすぎだろ」
「いいじゃないですか。智也さんの好みが知りたいんです」
「・・・」
「なるほど。これで、智也さんの味の好みはバッチリ把握したので、来年のバレンタインは期待していてくださいね」
「あ、ありがとう」
「リアクション薄いな~」
「そんなことないって、嬉しいよ」
二人が肩を並べて歩いている。妄想が現実となっているのだ。
こんなシチュエーションは初めてだった。千聡のテンションは百パーセントを越えていた。
「智也さんってあの頃と比べて全然変わってませんよね」
「千聡君だって、全然変わっていないよ」
「それって・・・初めて会った時からってことですよね」
千聡は、中学二年で智也さんと初めて話した時のことを思い出していた。あの頃の私は「ガサツで男勝りな女の子」だったのだ。大きく変わったのは、文化委員長当選後の伝統を受け継いだあの弁論大会のあとなのだった。智也さんと話すとき以外の言葉使いはあまり直っていないが、中身は十分女の子に変身してしまっていたのだった。しかし、智也さんがそれを知っている筈もなかった。
「あぁ、そうだね。あのころのままだね」
千聡は心の中で、テンションが急降下しているのは分かっていたが、今、この場でそれを面に出すわけにはいかなかった。千聡は話題を変えることにした。
「大学生活ってどうなんですか」
「バイト三昧な日々を送っているよ」
「お金貯めて何するんですか」
「特に決めていないんだ。彼女でもできれば使えるんだけどね」
「ふーん。だったら少し私に使ってみませんか。少しくらいなら良いですよね」
「そうだな、折角だから使ってもいいよ」
「やった。だったら私、ティファニーのネックレスが欲しいんですけど」
「ティファニーって何?」
「あのハートが可愛いんだよね」
「そうなんだ。じゃあ買っても良いよ」
「そうなんだ。じゃあちょっと見に行ってみましょうか」
千聡に連れられてわざわざティファニーの店舗まで歩かされ、フラッと店に入ってしまう智也。ブランド物には全く興味がない智也はティファニーが何なのか全く理解していなかった。
店舗に入ってしまった智也だが、商品の値段を見て固まってしまうのだった。
恐る恐る店を出た智也は、年甲斐も無く千聡に本音を漏らすのだった。
「ビックリするくらい高いじゃないか。まさか千聡君、本気じゃないよな」
そこらの雑貨屋で売っているネックレスが数百円なのに対して、ティファニーのそれは数万円だ。実に百倍の値段の差がある。
智也さんの興奮している顔を見て、ケラケラと千聡は笑うのだった。
その千聡を見た智也が、釣られたように笑い返す。夢にまで見た智也さんとの買い出しという名の初デート。
至福ともいえるこの時間が永遠に終わって欲しくないと願う千聡だった。
そして五十嵐健斗。
クリスマスイヴの三日前。
彼にとって、運命の判決が下された。
「あの、五十嵐君」
「なんだよ」
「この間、話したイヴの予定の件なんだけど、覚えてるかな?」
イヴといえば、文化委員長の同窓会がある日だ。そんなの忘れられる訳がない。
五十嵐は、自分の鼓動が跳ね上がっていることを自覚していたが、文香にばれない様になんとか平静を装って返事した。
「確か同窓会があるんだっけ」
「なんか最近の五十嵐君。ピリッとして怖いんだけど」
「そんなことないって、いつも通りだって。それで?」
「実は・・・。」
「五十嵐君も、一緒に来てくれないかなって思って。急で申し訳ないんだけど」
「え、行っても良いの?」
「一緒に来て欲しいんだ」
「でも。俺、文化委員長じゃないし」
「耀君に相談したら、来ても良いって言っていたから」
「・・・」
「ずっと・・・誘いたかったんだけど、最近の五十嵐君。ちょっと怖くて、なかなか声がかけられなくって。でももう同窓会は三日後になっちゃったし。どうしても言わなきゃって。でも、予定があるなら、無理にってわけじゃないから。どうかな」
「いいよ。どうせ暇だし」
「ありがとう。良かった。楽しみだね」
文香が安堵の表情を向けてくる。本当に喜んでいるようだ。
最近、今回の同窓会の件で、確かに二人の関係がぎくしゃくしていた。
そんなつもりはなかったのだが、そんな雰囲気を醸し出してしまっていたと言うことだった。
でも、これはひょっとして・・・。
文香が俺を彼氏として選んでくれたってことなのか?
このイヴの三日前の12月21日は、五十嵐にとって今後の明暗を分けた運命の日になってしまった。
文香の真意は分からなかったが、イヴに文香と一緒にいられるということが、たった今、確定したのだ。
それにしても文化委員長じゃないのに「来ても良い」って。桐生ってひょっとして良い奴なのか。
この展開に、五十嵐は自分の魂が幽体離脱しそうなほど浮いてしまっているのだった。
しかしただ浮かれているだけではいられなかった。イヴ当日が勝負の第二ラウンドだ。
あの菊池優也と桐生耀。
あの二人に対して自分はどのような立場で接すればいいのか。イヤ、そんなに悠長に構えてはいられない。ここで文香を取られるわけには絶対にいかないのだ。そう思うと、かなり気合を入れ直す必要がある五十嵐なのであった。
イラストは、綾小路智也さんとの買い出しデートを楽しんでいます
spellaiアプリを使用




