もう一つのやり残し編
これで終わったかに見えた文化委員長の伝統ではあるが、耀には、もう一つの「やり残し」があった。
このままでは、文香ちゃんが悲しすぎるのだ。文香ちゃんだけではない。あの伝統を受け継いだ過去の文化委員長は、全て同じ境遇にあるのではないかということが簡単に推測できてしまうのだった。
それに、選挙前に言っていたきらりのセリフ「伝統は何代続いているか」ということも気になっていた。
「片山先生。一つお願いがあるんだけど」
「なんだよ」
「文化委員長だけの同窓会をやりたいんだ」
「なぜ。お前がそんなことを考えるんだ」
「文香ちゃんや菊池先輩の話を聞いて歴代の文化委員長に会いたくなったんだよ」
「なるほどな。それも面白いかもしれないな」
「連絡先って分かるもんなの?」
「過去十年くらいならいけるんじゃないか」
「リストさえあれば、オレが案内するから」
「おまえ受験生だろ。そんな暇あるのか」
「大丈夫だって。これをしないと勉強が手につかないんで」
耀は文化委員長による同窓会を企画してしまうのだった。
耀には狙いがあった。今年のクリスマスに同窓会を開催する。そこに顔だすということは、その人には現時点で彼氏彼女はいないだろう。
そんな元文化委員長がクリスマスに中学校時代の想い人に出会えたとしたら、何組かのカップルが成立するかもしれないのだ。
しかし、そんな甘い考えで始めた耀の発案は、文化委員長だけでなく、色々な人の想いを巻き込んだ一大イベントになってしまうのだった。
まず、この大事件を五十嵐健斗は直接文香の口から聞くことになるのだった。
「今年のクリスマスイヴって土曜日だよね。文香はその日は何か予定でもあるの?」
「ちょっと。その日は文化委員長の同窓会があるんだ」
「え・・・。同窓会。文化委員長の?そんなのやったこと無いよね」
「耀君が特別に企画したんだって」
「あいつ・・・余計なことを」
「え、なんて」
しまった。つい心の声が漏れてしまった。五十嵐は慌てて取り繕うものの、心の動揺は隠しきれなかった。
「それで、菊池優也は来るの?」
「なんか保留みたい」
「それで、文香は行くんだ・・・」
「歴代の先輩方は本当に凄い人ばかりだと思うんだ。だから折角だから会ってみたいなって思ってる。優也先輩は関係ないよ」
「そういうこと・・・」
五十嵐にとってみれば、勇気を百パーセント絞って、文香にクリスマスの予定を聞いてみたのだが、まさかの同窓会なのだった。それも、ただの同窓会ではない。あの菊池優也が参加するかもしれないヤバすぎる同窓会なのだ。
あの憎き菊池優也。
文香を二度も落ち込ませた張本人。しかし、もし今の文香が菊池優也に会ってしまったら、文香の気持ちは一体どうなってしまうのか。そんなの想像もしたくない。
この文香のイヴの予定に、五十嵐の心はハートブレイク寸前になっていた。
そして、その一大イベントに心を痛めるもう一人の少女がいた。
小松有希である。
文化委員長同窓会。その言葉の響きを聞いて、私はどうしようもなく不安になるのだった。
私はこの情報を親友のフミちゃんから聞いてしまった。
「なんか一つ後輩の桐生耀って子が企画したみたいなんだ」
「フミちゃんは行くんだ」
「折角だから行こうと思ってる」
「紺野千聡は?」
「確か千聡先輩は来るって言っていたような。有希ちゃん千聡先輩のこと良く知ってるね」
「・・・優也くんは?」
「え、優也先輩?まだ保留だって」
「保留・・・」
保留とはどういうこと。なぜ直ぐ返事をしないのだろう。優也くんにとってお目当ての紺野千聡が来ると言うことは分かっているのに。
すごく、すごーく気になるのだけれど、優也くんに保留の真意を聞けない有希なのであった。
確かに私たちは、二人きりで何回もデートを重ねてきた。
周りから見れば付き合っている様に見えるのかもしれない。
しかし、優也くんは「好きな子でないとキス出来ない」と言ったのだった。そして、私たちは未だキスしていない。
何回か、キスしそうな雰囲気にはなったことがあるのだが、結局キスまでには至っていないのが現状だった。
そして、この現状を打破していないタイミングで「文化委員長同窓会」だった。
これは相当ヤバい。ヤバヤバの極限だった。
それにしても文化委員長の同窓会を企画した桐生耀って、いったい何者なの。なんて嫌なことを思いつくの。
呪ってやろうか。
しかし、そんなことをしたところで、事態が好転するとも思えなかった、
「はぁー」
有希は大きくため息をついてしまった。
優也くんの紺野千聡への気持ちは今どうなっているのだろうか。春先のクレープ屋でのやり取りでは、間違いなく優也くんは「千聡先輩が好き」だといっていたのだ。
普段は、元気だけが取り柄の有希なのであるが、そのことを思うと、夜も寝られなくなる始末なのであった。
有希にとってそのような紋々(もんもん)とする日々が続くのであった。
そしてもう一人。紺野千聡。高校三年生の冬休み前。
桐生耀という中学生から、文化委員長同窓会の案内が来た。
過去十年間の墨染中学校の文化委員長を呼んでいるというのだ。
文化委員長の一つ先輩である綾小路智也こと智也さんに文化委員長として会えるのだ。私はその話に飛びついてしまうのだった。
智也さんとは、高校二年の春以降会っていなかった。文化委員長の後任の優也君に触発されて二度目の告白をしたのだが、断られてしまったのだった。やはり、元文化委員長の石田凛先輩ことが忘れられないのだろう。その気持ちが十分にわかる千聡は、これ以上智也さんに迷惑をかけるわけにはいかなかった。
しかし、その案内のおかげで、智也さんに連絡できる口実が出来たという訳だ。
それにしても、この桐生耀って子は、本当に素晴らしい。その発想力と行動力は歴代の文化委員長の中でもずば抜けている。
普通はこんな世代に一人の同窓会なんて思いつくことすらない。でもしかし、言われてみると、先輩のさらに先輩に対する想いと、後輩のさらなる後輩に対する感情に違いなんてほとんどない。同級生の同窓会なんかよりもよっぽど会いたい気持ちが大きくなっているのだ。
この同窓会の企画は、必ず成功すると千聡は確信していた。
桐生耀。彼は本当にただものではない。
彼への感謝を思いつつ、早速、千聡は行動を開始した。
当日を待つ必要などないのだ。千聡は、桐生耀から連絡を貰ったその日の夜に智也さんに、パジャマ姿でスマホを手に取り直接連絡を入れるのだった。
「先輩は、桐生君からの同窓会の案内は来ましたか」
「来たよ」
「行くんですよね」
「うーん。どうしょうか迷ってるんだ」
迷っているということは、予定がない=彼女がいないということだった。しかも、智也さんの一個上の石田先輩は、桐生君の情報で「欠席」ということが分かっている。
千聡からしてみれば、繊細一隅の大チャンスなのだった。三度目の正直だ。ここを逃せば、もう永久に智也さんとの恋は実らない。強引でも何でもいい。千聡にとって、今回の同窓会を絶対にモノにするしか道は残されていないのだ。
「よかったぁ。智也さんが行かないと意味ないですからね。行きましょうよ。三秒以内にこたえないと確定ですからね」
「ちょっと待てって。えらい乗り気じゃないか。千聡君ってそんなキャラだったか。しかも智也っていきなり名前で呼んでるし」
そう言えばそうだった。ずっと心の中で智也さんと言い続けていたのだが、本人をそう呼んだのは今回が初めてかもしれない。
「名前で呼べって言ったじゃないですか」
「確かにそう言ったけど・・・」
「行くんですよね。返事は、ハイか、YESかどっちかで答えてください」
「・・・」
「・・・。はい、おまけで五秒待ちました。確定ですね。桐生君には私から言っておきますので安心してください」
「・・・分かったよ」
これで千聡と綾小路智也の文化委員長同窓会の参加が決まるのだった。
しかし、この五秒間の千聡の脈拍は、実は二百に達しようとしていたのだった。
「なんか中学校の生徒会室でやるって言ってましたよ」
「懐かしいな」
「あ、そうだ、何か差し入れしてあげないとですよね。お菓子でも、持っていきましょうか」
「良いね、それ。さすが元文化委員長。気が利くね」
「じゃあ、今度の週末に、京都駅のショッピングモールに集合ですね」
「俺も行くの?」
「当たり前じゃないですか。駄目ですか」
「・・・あぁ。良いよ。分かった」
この返事で、千聡の拳がかつてないほど力強く握られていたことを綾小路智也は全然気付いていなかった。
イラストは、文化委員長の同窓会の連絡のため、智也さんに電話をするところです。
spellaiとAIイラストのアプリを併用して作成しました




