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情報の整理

 クラリスとのお茶会、そしてアントニーの逢瀬の覗き見。


 大したことをしていないにもかかわらず、ヴィオレッタはくたくただった。夕食も家族に断り、部屋で簡単なものを摂った。寝る前のあれこれを終えて、ようやくドレッサーの前に腰を下ろす。


「はあ、疲れたわ」

「王女殿下は楽しんでいたようでしたが」


 茶会の時にも側に控えていたアニーはお茶会の様子を思い出し、そんなことを言う。ヴィオレッタは親友の楽しげな様子にますますため息が出る。


「クラリス様は何でも楽しめる人だから。ねえ、クラリス様はああ言っていたけど……どう思う?」


 アニーはヴィオレッタの髪を梳かしていた手を止めた。


「正直に言えば、信じられません」


 きっぱりと言われて、そうよねとヴィオレッタも頷いた。


「よく考えてみれば、アントニー様がわたくしにそこまで興味がないと思うの」

「わたしもそう思います。そもそもお嬢さまのことを知るほど一緒に過ごしていないです」

「そうよね。クラリス様は何でそう思ったのか」

「王女殿下には何か知らない情報があるのかもしれません」


 アニーは再び手を動かし、髪を梳かす。少しうねりのある柔らかな髪を丁寧に整えながら、聞いてくる。


「もし王女殿下の言う通りでしたら、婚姻がなくなるかもしれませんね」

「確かに婚約が白紙になるのは大歓迎だわ」


 もし万が一、この婚約がなくなれば、ヴィオレッタは堂々とこの気持ちを伝えることができる。受け入れてもらえるかどうかというよりも、素直に自分の気持ちを伝えることができることが幸せだ。


 思わぬ可能性に、ヴィオレッタの気持ちは少しだけ浮き立った。その変化に気が付いたアニーがいつもと変わらない声音で聞いてくる。


「王女殿下が何を考えているか、わかりかねますが。もしかしたら乗ってしまってもいいのかもしれません」

「乗る?」

「ええ。お嬢さまにあのようなことをおっしゃるのです。何か隠し玉でも持っているのかも」


 ヴィオレッタはアニーの言葉を反芻した。確かにクラリスが何も考えずにあのような場所に連れていくわけがない。そして、二人のイチャイチャを見ながら言ってきたこと。


「本当に婚約破棄される可能性があるの?」

「そうだと思います。ただ、心配なのはその方法です」


 方法と言われて、後ろに立つアニーを振り返る。アニーは丁寧な手つきでヴィオレッタの顔を元の位置に戻した。


「お父さまと陛下がお話しして終わりじゃないの? 家同士の契約になるわけだから」

「それだと婚約破棄できない可能性が高いではありませんか」


 呆れたように言われて、確かにと頷く。国王よりも、寵姫が真っ先に潰しそうである。国王が亡くなった後、寵姫の面倒を見るのはアントニーなのだから。


「それ以外だと……え? わたくし、誰かに襲われて疵物になるとか?!」


 びっくりして声を上げると、アニーは真剣な顔をしている。冗談ではないのだと、愕然とした。


「あくまでも可能性の話です。貴族の結婚を壊そうと思えばそういう手段しかないでしょう」

「目的を考えればそうだけども。あの利己的な人がそんな恋愛脳になるかしら?」


 もし万が一、このことをアントニーが実現したとする。アントニーは最悪平民落ち、よくて子爵家の爵位をもらって辺境落ち。恋人である男爵令嬢は平民落ち一択だろう。下手をすれば王族を誑かした罪で極刑もあり得る。


 それを考えずに事を起こすなど、アントニーの性格からしてまずありえない。


「普段、冷静で真面目な人でも恋愛に陥るととてつもなく頭が悪くなります。それに、盛り上がっている恋愛ほど、劇的な何かを求めてしまうものです」

「うーん、でもやっぱり現実的ではない気がするわ。アントニー殿下にはデメリットばかりですもの。すべてを手に入れたいのなら、愛人にすればいいだけの話じゃない。白い結婚を押し通せば、数年で離縁もできるし。あら、わたくしにとってもこの方法は良いわね」


 一度結婚してしまえば、契約は成立することになる。その後のことは公爵家の中の話だ。最悪、どこか別邸に押し込んでしまうのもいい。愛人の面倒ぐらい、自分の財産でどうにでもすればいいわけなのだから。


「冷静になればその通りです。ですが、視野が狭くなると、単純に排除すればいいと考えがちです」


 なかなか怖いことを言う。うーん、とヴィオレッタは考え巡らせた。放置しておいてもいい気もするが、アニーの心配も分かる。


「明日、お母さまは騎士団へ差し入れに行く日よね?」

「はい」


 騎士団への差し入れは、兄たちが成人前に色々とやらかして騎士団にまで迷惑をかけたお詫びから始まっている。成人後には迷惑をかけることはなくなったのだが、何となく喜んでもらえているということで長兄宛に差し入れをするのだ。


「わたくしが代わりに行くわ」

「デリック様に相談するのですか?」

「ええ。こういう荒事はお兄さまに相談が一番いいでしょう」


 ヴィオレッタがどんなに考えたところで、ふわっとした気分的なものしかわからない。こういうことは専門にしている人の方がいいはず。


「それでは奥さまにお話ししてきます」

「よろしくね。あと、今の話、お母さまにはナイショよ」

「……わかりました」


 なんとなく納得していない様子を見せたが、アニーは少しの間を置いて頷いた。

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