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王女との茶会2


 婚約した時を思い出し、そこから二人で落としどころを付けたことを思い出し。

 アントニーは王族らしく気持ちを露にしない人だから、我慢したところもあっただろう。だが、それはヴィオレッタも同じ。納得できないことも多く抱えながら、自分の役割を果たしてきた。


「わたくしだって、色々と我慢しているのに」


 ついイラッとして、本心が零れた。貴族なんてそういうものであるし、王族だって自由になるところなど少ない。お互い様だと思えたからこそ、二人の関係は上手くいっていた。


 それなのに、恋に浮かれたのか、アントニーはヴィオレッタの評判を気にすることなく、浮気令嬢と逢瀬を重ねている。時間が経てば冷静になるだろうと思っていたのに。日に日に加速していく醜聞。


「あなたはがっちりとした男臭い男性が好きだものね。ひょろひょろのお異母兄さまは本来対象外よね」


 揶揄うように言われて、顔を赤くする。


「な、何を言って」

「騎士服。好きよね?」

「すごくカッコイイですもの。憧れてしまうのは仕方がないと思わない?」


 ヴィオレッタの家は公爵家である。跡取り娘ではあったが、実は兄が三人もいる。三人とも脳筋で、長男は騎士に、次男三男は自由を求めて?冒険者になっていた。三人が三人とも頭よりも筋肉の方が素晴らしい人たちである。


 両親も最初は高位貴族の振る舞いができるように躾を頑張っていたようだが、失敗の連続。そんな中、生まれたヴィオレッタ。兄三人は幼いヴィオレッタが当主に相応しい振る舞いができると判断するとすぐに継承権を放棄してしまった。


「ヴィオレッタのお兄さまたちは皆素敵ですもの。あなたの基準が体格のいい男性になってしまうのは仕方がないと思うわ」

「理解してくれてありがとう。ついでに厳つい顔つきが素敵だわ」

「厳つい顔……今人気の男性と本当に正反対よね」

「なんとでも言ってちょうだい。心のオアシスぐらい持っていてもいいでしょう?」


 突き放すような口調で言いながらも、心では凹んでいた。


 ヴィオレッタは心のオアシスに思いを馳せた。出会ったのはヴィオレッタが十六歳の時。騎士団に入った長兄に、上司に当たる友人だと夜会で紹介されたのがきっかけだ。


 好みのど真ん中だった。

 筋肉がしっかりついた大きな体、唇を引き締め、厳しそうな顔をしている男性。短い黒い短髪は凛々しく、挨拶した時の柔らかな瞳に胸がきゅんとした。仄かに口の端を持ち上げた笑顔も素敵すぎて。嫌なことがあるたびにあの笑顔を思い出して過ごしている。


「オーブリー叔父様」


 ぴくりとヴィオレッタの体が揺れた。だがすぐに動揺を隠す。


「いきなり……副団長さまがどうしたの?」

「ヴィオレッタの好みのど真ん中でしょう? 騎士服と筋肉ならどこにでも転がっているけれども、魅力的な厳つさは叔父さましかいないもの」


 探るような目を向けられても、ヴィオレッタは微笑みを崩さなかった。冷静な様子に、クラリスが唇を尖らせた。


「もう! わたくしには素直に教えてくれてもいいのに」

「まあ、ご冗談を。もしわたくしの心に誰かが住み着いていても、絶対に教えませんわ」


 夢を語るようなことはしない。ヴィオレッタの気持ちが漏れたことで、彼に迷惑がかかる。


 王妃の弟で、現辺境伯の二男、さらには実力のある騎士団の副団長を務める彼にアントニーがどうこうできるとは思わないが、それでも。


 ヴィオレッタのことで変な噂を立てられてしまうのは許せない。


「あのね、ヴィオレッタ。わたくし、お異母兄さまがあんな風に振る舞っているのには理由があると思っているの」

「もしかしてわたくしが心の浮気をしているから、と?」

「違う違う。そうじゃなくて、ヴィオレッタの気持ちを知って、自分が泥をかぶって婚約破棄に持ち込もうとしているのだと考えているの」

「……どうやって殿下がわたくしの心を知ることができるというのよ」

「例えば、視線とか?」


 心当たりがあり過ぎて、青ざめた。


「え、そんな」

「心配しなくても、ヴィオレッタに隙はなかったわよ。でも、親しいわたくしは見ていてわかったわ。ということは、あの利己的お異母兄さまも気が付いた可能性が高い」

「気が付いたからって……そんな回りくどいことをしなくても」


 普通に婚約破棄を国王に願えば通るだろう。なんせ、アントニーが願った婚約で、特に政略的なことなど何もない。


「普通はね。でも、それだとお異母兄さまはあの男爵令嬢と結婚できないじゃない」

「泥をかぶっても、そもそも無理でしょうに」


 格下の男爵令嬢との結婚など、アントニーの母である寵姫が許すわけがない。そう言外に含めれば、クラリスはだからよ、と強く言う。


「地位も将来も、すべてを投げ打ってまで、愛する人がいるというアピールは同情を誘うわ。それにヴィオレッタにも傷が残らない。すべてが丸く収まるじゃない」

「そんなにうまくいく話かしら……」


 いい話のように言っているけれども、現実はもっと厳しいはず。

 クラリスはヴィオレッタの疑問に満面の笑みを浮かべた。


「まあ、見ていなさいよ。きっとわたくしの推理通りになるから」


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