表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/35

大団円

 震える足を懸命に動かし、イザベラは森のオアシスに着いた。

 およそ一年振りに訪れるオアシスを目の当たりにしたイザベラは懐かしさで気持ちが高揚したが、すぐに周囲を見回した。

 …誰もいない。

 イザベラは荒い息遣いを繰り返しながらひたすらオアシス全体を見回したが、誰かがいる様子もなければ来るような気配も感じられなかった。

 やはり、さっきの咆哮は森を住処にする野生生物が発したもので、それがたまたま風に乗って聞こえてきただけに過ぎなかったに違いない。大地が揺れたような気がしたのもきっと錯覚だったのだろう。

 そう悟ったイザベラは、淡い望みに期待した自分を嘲笑した。

 諦めたイザベラは来た道を引き返そうと踵を返した。

 そのとき、背中を撫でるような優しい風が吹いた。

 イザベラがハッと振り返ると、池の水がかすかなさざなみを立てていた。オアシスに吹くそよ風は、水面を波立たせられるほどとは到底思えないほど優しいにも関わらずである。

 やがて、池の水からゆっくりと現れた存在を目の当たりにしたイザベラは目を見張った。

 地面に足を着いたグリフォンはキョロキョロとオアシスを見回すと、呆然と立ち尽くしているイザベラを捉え、じっと彼女を見つめた。

 イザベラもポカンと口を開けたまま見つめた。

 イザベラとグリフォンは、互いに見つめ合ったまま身動き一つしなかった。

 やがて、イザベラの心に声が聞こえた。

〈会いたかったよ、イザベラ〉

 濁りのない透き通った水のようで、心地好い爽やかな風のような響きを備えたきれいな声だった。

 呆然と立ち尽くしていたイザベラは思わず叫んだ。

〈ルミウスッ!〉

 池の中から現れたのは、紛れもなくイザベラが生涯で初めて愛したグリフォンのルミウスだった。

 イザベラは駆け出すと、白い羽で覆われたルミウスのフサフサの顔に正面から抱き着いた。

 自然と瞳からボロボロと涙が零れていたが、イザベラは夢中で懐かしい香りのする「彼」の顔を抱き締めた。

「もう二度と会えないと諦めていたわ…」

〈私もだよ、イザベラ。だが、こうして帰ってきた〉

「…おかえりなさい、ルミウス」

〈ただいま、イザベラ〉

 ルミウスは大きな翼を広げ、白い羽が抜けそうなほどギュッと握るイザベラの背中を優しくさすった。

 しばらくして、イザベラは涙を拭いながら、

「でも一体、どうして? ここへはもう来れないはずじゃーー」

 と、不安そうに言うイザベラにルミウスは微笑み、

〈これからゆっくり説明するよ〉

 と、囁くと岩のそばまで行きゆっくりと体を伏せた。

 長い話になるような気がしたイザベラも「彼」のそばに寄ると地面に座った。

 真剣な眼差しで身構えるイザベラを前に、ルミウスは物語を聞かせるように語りかけた。

〈君と別れたあの日、私は激しい戦争によって大きな爪痕を残した里を目の当たりにして呆然としてしまった。魔法軍によってもたらされた被害は想像以上に深刻かつ甚大で、戦争に出向いた人間のみならず、魔物たちの命も数多く奪われてしまった。幸い、我々の一族には死亡者が出なかったものの、魔法軍相手に立ち向かった勇敢な仲間の何頭かは、瀕死の重傷を負って生死の境をさまよっていた。里の自然も魔導士たちの放った魔力によって大部分が焼き尽くされ、酷い有り様になっていた。今でも思い出すだけで怒りが込み上げてくる…〉

 ルミウスは悔しそうに目を閉じると、込み上げてくる怒りを鎮めるかのように歯を食い縛った。

 イザベラは「彼」の故郷で起きた惨事を想像し固唾を飲んだ。

 目を開いたルミウスは再び口を開いた。

〈私は人間たちへの報復を決意した。我々の大切な故郷を荒地にした人間たちに…。しかし、神は新たな悲劇を招く危険が生じるとして、人間への私的な報復は控えるべきだと私におっしゃった。長も里を守るためならまだしも、個人の憎しみから人間を攻撃してはならないと私を諭した。だが、あのときの私はそれを無視してでも仲間たちを傷付け、里を穢した人間たちに復讐してやるつもりだった。…そんなとき、君が私に言った言葉を思い出したんだ〉

「私が言ったこと?」

〈そう。どちらの世界にも、平和な世の中を切に願っている人間がいるという君の言葉をね。もし、私が怒りに任せて人間たちへの報復を開始すれば、その平和を願う人間たちの心を、そしてなにより君を裏切ることになってしまう。そう思った途端、私の心に宿っていた復讐心は鎮まった。君が私に言った言葉のおかげで、私は自制心を保つことが出来たんだ。感謝しているよ〉

 と、淡々と語っていたルミウスはイザベラを見て頭を下げた。

「そんな、やめてちょうだい。なんだか、あなたらしくなくて落ち着かないわ」

 と、イザベラは恥ずかしそうに顔を赤くした。

 しかし、ルミウスは真剣な眼差しのまま、

〈いや、本当に感謝しているんだ。無意識に込み上げてくる憎しみから復讐心を燃やした私が、軽はずみな行動を起こして一族を危機に陥れずに済んだのも、君の言葉があったおかげだからね。…話の続きになるが、落ち着きを取り戻した私は、里を追放される前に重傷を負った仲間たちの手当てを長たちと行った。我々には傷を癒やす魔法も備わっているんだが、魔導士たちの放つ魔力によって受けた傷を完全に癒やすほどの力までは備わっていなかった。我々は必死になって仲間の治療に全力を注いだが、それも限界に近付き絶望感だけが我々を支配した。そんなときだ、あの子が卵から孵ったのは〉

「えっ」

 ルミウスの話に耳を傾けていたイザベラの表情が驚きに満ちた。

〈言うのが遅れてしまってすまない。君が心の底から大切にしていた私たちの子は、無事に我々の世界で孵ったんだよ〉

 と、ルミウスは嬉しそうに言った後、彼女の前で突然大きな雄叫びを上げた。ロッジで聞いたときのような大地を揺るがすほどの凄まじい咆哮に、イザベラは圧倒された。

 すると、ルミウスが現れたときと同じく池がさざなみ始めると、水の中から一頭の可愛らしいグリフォンがのっそりと地面に上がってきた。

 ルミウスのような凛々しいハクトウワシの顔ではないが、丸みを帯びた小さな顔から伸びた可愛らしい嘴を付けたグリフォンの赤子は、興味津々な様子でオアシスを見回した。

 ルミウスが地面すれすれまで頭を下げると、グリフォンの赤子ははしゃぐように近寄った。

 無邪気にルミウスの頬に自らの頬をこすり付けながら、甘えるような可愛らしい鳴き声を上げた。

 ルミウスがなにかを囁くと、グリフォンの赤子はイザベラに体の向きを変えた。

 呆然と眺めていたイザベラは思わず体を強張らせた。

〈イザベラ。君がその体で献身的に温めた卵から孵化した私と君の子だよ〉

 と、ルミウスは緊張しているイザベラの気持ちをほぐすかのように優しい声で言った。

 なおも固まっているイザベラをグリフォンの赤子は不思議そうに首を傾げて眺めていた。

 生まれて間もないのだろう、ルミウスたち大人のグリフォンよりも遥かに小さく、イザベラが抱卵していたときのサイズよりも若干成長した程度の大きさだった。

 グリフォンの赤子は恐る恐るイザベラに近寄ると、その小さな嘴を大きく開いてピーッと鳴いた。

 途端に、イザベラに宿っていた母性本能がくすぐられ、彼女は両手をゆっくりと前に差し出し、

「おいで」

 と、微笑みを浮かべて言った。

 グリフォンの赤子は再び鳴くと、両手を広げていたイザベラの胸に飛び込んだ。

 イザベラはゆっくりと、そして優しくルミウスとの間に授かった子どもを抱擁した。

 小さな顔に幼く無邪気な色を備えた瞳、まだ飛べるかどうかも分からない可愛らしい翼、そして母性本能をくすぐる甘えるような鳴き声、イザベラにとって全てが愛おしかった。

〈まだ幼いから私みたいに空を飛ぶことは出来ない。見た目は正真正銘のグリフォンの幼体で、とても人とグリフォンの間に産まれたようには見えないが、その子は紛れもなく私と君の子だよ〉

「ええ、分かるわ。この子は間違いなく私たちの子ね」

〈実は、私がまたこの世界に戻って来られたのもそれが関係しているんだ〉

「えっ、どういうこと?」

 顔を上げたイザベラにルミウスは再び語り聞かせた。

〈戦争で深い傷を負った仲間たちの治療に専念しながら、私はその子を育てていた。まだ孵って間もないから巣に置き去りにするのははなはだ危険だと思った私は、その子も一緒に長たちの元へと連れて行ったんだが、私が一頭の仲間に治癒魔法を施していたときだ。傷口が塞がれずもはや絶望的と思われていたとき、その子が負傷した仲間に近寄って来た。イタズラをするのかと思って私は慌てたが、その子は突然傷口に向かって治癒魔法を施したんだ。その瞬間、私がいくら手を尽くしても治らなかった傷が一瞬のうちに癒えてしまった。我々の力を遥かに凌ぐ治癒力を目の当たりにした私も長も目を丸くした。それから、長は試しに他の仲間たちの所へもその子を連れて行き、同じことをさせた。すると、次々と彼らは回復し、元気を取り戻したんだ。彼らは皆、もはや死を待つしか術がないと諦めていた者たちばかりだった〉

「この子に、あなたたちが想像も出来ない不思議な力が備わっていたというの?」

〈長もそう推測したんだろう。しばらくこの子をそばに置いてもらえないか、と私に頼んできた。私は長がなにをするつもりなのかは分からなかったが、少なくとも一族を守るためだと信じ、一時的にその子を長に託した。それから間もなくして、戦争によって焼き尽くされた里の自然がみるみる元通りに甦り、私たちは驚愕した。どうやら、長の推測通りその子には我々以上に強力な魔力が秘められていたらしい〉

「でも、どうして?」

〈長は一つの説を唱えた。人間の血を引いた唯一の存在だから、とね〉

「つまり、私とあなたの子だから?」

 ルミウスは頷いた。

〈君にも話しただろう? 人とグリフォンが結ばれ、子を成したのは私たちだけだと。それまで我々は、人とグリフォンの間から産まれた子が、私たちのようなグリフォン同士から産まれた純粋な種族以上の魔力を秘めているなど知る由も無かった。だが今回、仲間たちで施した治癒魔法でも治らなかった傷を、その子は私たちの前で完治させた。それで長は、人間とグリフォンという異なる種族の血を引いているのが、我々の想像の域を超える魔力を有する理由ではないかと読まれたようだ。つまり、君と番になりこの子を授かったことで、我々は先祖代々守り続けたグリフォンの里を元の自然豊かな故郷に甦らせることが出来たんだ〉

 イザベラは呆然と「彼」の話を聞いていた。そんな彼女の胸元では、グリフォンの赤子が眠たそうに大きな欠伸をし、肩から垂れたイザベラのブロンドの髪に顔を埋めていた。恐らく、母親の羽とでも思っているのだろう。

 その様子をイザベラは微笑みながら見ていたが、すぐにあることを思い出してハッとした。

「もしかして、森で怪我をしていたあなたの傷が治ったのも…?」

 ルミウスがフッと笑った。

〈分かったようだね。私が受けた傷も、仲間たちを生死の境にさまよわせた傷と同じだった。もはや死を待つしか術がなかった私を見付けた君が手当てをした途端、傷口は完全に塞がれた。そのときに私は気付くべきだったんだ。人間が我々には到底理解の及ばない不思議な力を宿しているのだと。そして、その特殊な力を秘めた人間である君と私が結ばれ子が産まれた。必然的に、産まれた子にも君の持つ秘められた力が引き継がれたというわけさ〉

「私…いえ、人間にあなたたちが想像も付かないような神秘的な力が備わっていたなんて…」

〈少なくとも長はそう判断されたらしい。それ以外で道理に適う説明がなかったんだろう〉

「とても信じられないわ。私たち人間に、そんな力が秘められていたなんて」

〈だが、私は人間全てに神秘的な力が秘められているわけではないと思っている。人と魔物、存在するあらゆる生物に対して平等に慈しむ心を持つ者だけに、神はその力を授けたのだと〉

「それが私?」

〈君と、君のように慈悲深く思いやりの心を持つ人間。…そう、例えばウラベという勇者だ。彼にもきっと、君と同じ力が宿っていると私は信じている。その勇者ウラベだが、私は長に彼のことを話したよ。長はとても驚かれていた。グリフォンの里を滅ぼす手前まで戦争の痕跡を残した人間と同種族の勇者が、自らのためではなく第三者のために命懸けで戦ったことに対してね。そして、私は長の口から初めてこの言葉を聞いた。『我々が抱いていた人間に対する認識に誤解があったのではないか?』とね。その瞬間、初めて祖先の代から伝えられてきた人間への認識に偏見が混じっていたのではないか、という考えがグリフォン一族の間で広まったんだ。その結果、長はある行動を起こした〉

「なにをしたの?」

〈人間への偏見に気付いた長は、私たちの子を連れて里の領域を我が物にしようとした国王の元へ向かったんだ〉

「大丈夫だったの?」

 と、不安そうにイザベラが聞いた。

〈私も危険だとは思った。我々が偏見に気付いたとは言っても、彼らがグリフォンを危険な魔物と捉えていることは理解していたからね。だが、長は危険を承知で王国へ出向き、我々との戦争で深傷を負った兵士や魔導士たちに治癒魔法を施した。そして、敵対していたグリフォンの意外な行動に驚いた国王と民衆たちに、長は我々の子を示し人とグリフォンが番い生まれた存在であると打ち明けた。国民たちは信じられないという顔をしていたが、間もなくして彼らから魔物の討伐を反対する声が一斉に上がったようだ。国王はあくまで我々の策略の一環だとして慎重を期したが、民衆の声があまりにも激しかったため視野に入れていた里の占領計画を一時的に保留する方針を固めたらしい。そして長は、国王を含む全ての人間たちと魔物との平和的な共存が実現する未来を迎えるための使命を私に担うよう命じられた〉

「それってつまり…」

〈悟ったようだね。人間と魔物、互いに共存する平和な世に導く使命を受けた私は里からの追放処分を免れたんだ。そして、一年という歳月を得て、遂に人間と魔物が共存し互いに助け合う世界を実現することが出来たんだ〉

「まあ…。おめでとう!」

〈全て、君のおかげだよ〉

「私の?」

〈君の慈しむ心が、私たちが暮らす世界に多大な影響を与えてくれたんだ。それは長も充分理解している。ゆえに、長は私にこう尋ねられた。『今でもイザベラを愛しているのか?』と〉

 イザベラの鼓動が激しくなった。可愛い寝息を立てて眠っているイザベラとルミウスの子は、母親の激しい動悸にも起きる気配はなかった。

〈私の答えは決まっている。『例え、互いに異なる世界を生きていようとも、イザベラを愛しています』と、私は言った。長はこうおっしゃった。『ならば、我々の世界に平和をもたらした彼女に恩返しをしなさい』と。我々の世界を平和に導いてくれた君への恩返しとして、この世界にも同じく争いの無い平和な世が訪れるための力を貸すようにと、長はおっしゃられた〉

「それって…」

 イザベラは体を震わせた。

 寒くはない、怖いわけでもない。感動による震えだった。

〈一年という長い期間待たせてしまったが、この場でハッキリ言うよ。…結婚しよう、イザベラ。今度は私が、君の暮らすこの世界から争いが無くなるための力となるよ〉

「で、でも、里の掟だとあなたはもうここへ来てはならないんじゃ…?」

〈前まではね。しかし、今は違う。私は双方の世界に平和をもたらすだけでなく、夫として妻の君を支えていく指名も長から委ねられた。それがいずれ、私と君の暮らすそれぞれの世界の均衡を保つ架け橋となることを長は望んでいらっしゃるんだろう。だから…〉

 ルミウスは立ち上がりキョロキョロと周囲を見回すと、近くに生えていた花をくわえ、

〈この世界の人間は愛する者に花を送り、生涯の伴侶になることを誓うのだと祖先から聞かされた。君と同じ人間ではないし、どういう未来が待ち受けているか不明瞭で不安があるのは事実だ。だが、私は必ず君を幸せにしてみせる。誓うよ〉

 と、イザベラの前へ差し出した。

 ルミウスから誠意のこもったプロポーズを目の当たりにしたイザベラは俯き、上下に肩を揺らすと手の甲で顔を拭った。

 ルミウスが顔を上げた。

〈…イザベラ?〉

 イザベラも鼻をすすりながら顔を上げた。

「ねえ、ルミウス。私の名前の意味を知ってる?」

〈え?〉

 ルミウスが困惑していると、イザベラは眠っているグリフォンの赤子を抱えたまま立ち上がり、「彼」がくわえている一輪の花を手に取った。

 それから、そっと「彼」の嘴にキスをした。

 今度はハッキリとルミウスの頬に赤みがさした。

「教えてあげる。『誓い』よ」

〈それじゃあ…〉

「私もあなたを幸せにすると誓うわ」

 と、イザベラはルミウスの瞳を真っ直ぐ見つめて言った。

 イザベラとルミウス、決して交わることのない人間とグリフォンによる誓いの儀式が神秘の力で守護された森のオアシスにて行われ、一人と一頭は正式な夫婦として契りを結んだ。

 さっきまで眠っていたグリフォンの赤子が、イザベラとルミウスを交互に見ながら鳴いた。

「フフッ、祝福してくれているのかしら?」

〈ああ、かもしれないね〉

「あなたと一緒で美しい羽をしているわ」

〈瞳は君に似ているよ〉

 と、互いに笑みを浮かべた。

「そういえば、名前は決めてあるの?」

〈いや、君と再会してから決めようと思っていたんだ〉

「…ねえ、あなた。名付け親に付けてもらうのはどうかしら?」

〈誰に?〉

「もちろん、私たちの勇者によ」

〈名案だ。それなら、私がニホンという国まで飛んで行かなくてはいけないね〉

 と、ルミウスが冗談交じりに言った。

 イザベラはクスッとし、

「浦辺さんに宛てた手紙を書いたから、そのことも一緒に補足しておくわ。私たちが結婚したことも含めてね」

〈私がまた会いたがっていたとも書いてくれるかい?〉

「ええ、もちろん。…あっ、それから私のパパもあなたに紹介しなくっちゃ」

〈では、私にとっては義父だね。…しかし、君の父親は私を認めてくれるだろうか?〉

 と、不安そうな面持ちを浮かべたルミウスに、

「心配しないで。むしろ会いたがっていたから」

〈本当に?〉

「本当よ。こんな素敵な夫を紹介したら、パパったらきっと感激して泣くかもしれないわ」

〈それはよかった。ぜひ、君たちに私たちの故郷を見てもらいたいと思っていたからね〉

「グリフォンの里を?」

〈そうだ。長に妻である君を紹介したいのもあるが、理由はまだある。我々の故郷は戦争によって大きな被害を受けたが、私たちの子のおかげでグリフォンの里は元の自然を取り戻すことができた。その力の結晶を、母親としてぜひ見てあげてほしいんだ。そうすればきっと、この子も喜んでくれるに違いない〉

 と、ルミウスはイザベラの腕に抱かれたグリフォンの赤子に顔を近付けた。

 グリフォンの赤子が甘えるような鳴き声を上げながら父親に頬ずりした。

 互いに目を閉じて頬を寄せ合う二匹を見ながらイザベラは微笑みを浮かべ、

「ありがとう、ルミウス」

 と、グリフォンの夫に言った。

 母親の笑顔を見たグリフォンの赤子が嬉しそうに鳴いた。

「ねえ、ルミウス」

〈なんだい?〉

「また空に連れてってほしいわ。出会ったときみたいに」

 イザベラが言うと、ルミウスはクールにフッと笑い、ゆっくりと体を伏せてから翼を地面に下ろした。

 グリフォンの赤子が興奮した様子で羽をバタつかせた。

「よく見てなさい。これからあなたの父親がお手本を見せてくれるからね」

 と、イザベラは優しく頭を撫でた。

〈しっかり掴まって〉

 ルミウスは誇り高い優雅な翼を羽ばたかせながら助走を付けた。オアシスに旋風を巻き起こし、草木が激しく揺れた。

 やがて、助走を付けたルミウスが猛然と飛び上がると、オアシスを囲む木々が激しく揺れ、池の水が勢いよくさざなみを立てた。

 一頭のグリフォンであるルミウスは、太陽の光を浴びて神々しい光を放つブロンドの長い髪をなびかせる妻のイザベラと、彼女の胸に抱かれた我が子を乗せ空高く飛び立った。

 この先、どんな未来が待ち受けていようと決して崩れることのない絆を象徴するシルエットを浮かべて…。

お読み頂き、ありがとうございました。

ということで、「グリフォンの里」完結です!

本作は、グリフォンと結婚した女性が産まれたばかりの卵を持ってテレビのインタビューを受けている、という夢を見たのをきっかけに執筆にいたった経緯があります。夢ながら中々印象的で、なおかつ鮮明だったので小説として記録に残しておきたくなり、制作に取りかかりました。

主人公の浦辺道夫ですが、筆者が大のVシネマニアということから1990年代に東映Vシネマへの出演が精力的だった頃のアクション俳優、清水宏次朗氏をモデルにキャラを作りました。因みに、個人的にオススメの清水氏主演作は格闘アクション「極道ステーキ」シリーズです。VHS止まりの未DVD化ですが。。

なにはともあれ、初長編ゆえに自信作とは言い切れませんが、最後までお読み頂いた読者の方、本当にありがとうございました。

これからも執筆活動には取り組んでいく所存なので、今後とも志賀将治をよろしくお願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ