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第一部 謎の女性

 営業でせわしなく動き回るサラリーマン、渋滞に苛立ち無意味にクラクションを鳴らす車、スクランブル交差点を渡る人々の雑踏。

 そんなありふれた光景が広がる岐阜市の町中で、人々とは一際異なるオーラを発する女性がいた。

 彼女を一目見た誰もが、同じ国の人間と思わないだろう。

 その長い髪はまばゆい太陽の光を反射し周囲に光をもたらすほどに輝く金色で、身だしなみもそこかしこを行きかう人々とは明らかに違う西洋的で、かつミステリアスな印象を与えている。

 そして、端正でエキゾチックな顔立ちが、まさに外国人特有の清楚な美しさを表していた。

 彼女の横をすれ違う人々は、例え忙しく走り回っているサラリーマンでさえ思わず一瞥してしまう。それは、彼女が周囲の人間よりも異彩を放っていることにも起因するが、決してそれだけではなかった。

彼女、イザベラが布状の物で何重にも巻かれた不思議な丸い物体を、まるで虎の子のようにグッと抱えているからだ。

 イザベラは行きかう人々の好奇な視線に動ずることも、その物体を抱える両手の力を緩めることもなく足を進めていた。

 が、大きなスクランブル交差点を抜け歩道に出た瞬間、唐突に声をかけられイザベラは足を止めた。

「ねえねえ、君かわいいね」

 イザベラはギョッと表情を強張らせた。

 声のする方向を向くと、相手は一人だけではなく、三人はいた。

 この国へは初めて訪れたが、イザベラにもこの三人組が自身にとって害を与えかねない人間であることは直感的に察することができた。

 声をかけた男がイザベラに近寄ると、それに釣られたかのように背後の二人までも彼女に近付いた。三人組のうちの一人だけは、イザベラの美しく輝く金色の髪に近い色の毛髪をしていたが、何処か刺々しく大雑把で近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。

 イザベラが無視し通り過ぎようとすると、チャラチャラした様子で男たちがその行く手を阻んだ。

「…通して下さい」

 か細かったが、不快な感情を精一杯込めてイザベラは言った。しかし、それを聞いた男たちは逆に興奮し始めた。

「発音よすぎじゃね?」

「日本人には見えねえけど本当に外人か?」

「透き通るような声がたまんねえなぁ」

 三人組は勝手にはしゃいでは意味もなく下品な笑い声を上げていた。

 イザベラは思い切って目の前の二人の間を縫うように先を進もうとしたが、途端に背後から肩を掴まれた。

「ようよう、逃げるなよ」

 と、肩に手を乗せた金髪が強引にイザベラの体を回そうとした。

 あわや、抱えていた丸い物体を落としそうになり、イザベラは我慢の限界を越えた。

 振り向きざまに、肩を掴んだ男の頬に強烈な平手打ちをお見舞いしたのだ。

 頬を打たれた男が怯んだ隙を見、イザベラは小走りした。

 背後で喚く男たちの訳のわからない怒号が耳に入ってくるが、イザベラは無視して懸命に走った。その際も、丸い物体を落とさないよう両手に力を入れて…。

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