生活するために
一部修正してます。
さてカルラがここに住むことになったのはいいが、解決しないといけないことがある。
「ねえ、トレントさん。水はないの?飲める水と生活に使うための水も必要よ?」
そう。カルラの言う通り、それは……水がない……ということだ。
食べる物は果実があるから何とかなってる。だが、最低限飲める水がないのは死活問題だ。
《そうなんだよな。水をどうするかだよな》
根を土の下で動かしながら考えている。
さてどうすべきが。
①水を生成する。
水を創れるなら最初から苦労してない。
折角スキルがあるんだ。こんな時に役立つスキルがあればいいんだけどな。
②雨が降るのを待つ。
現段階で雨が降らないから、無理だろう。
かつてここにセレス大樹海(世界樹と精霊の森)があった頃は、普通に雨も降ってたそうなんだが。
③川をここまで引いてくる。
川がどこにあるか分からない。
カルラに聞くと、十数キロ先に川があるということだ。
この森の大きさは直径約一.五キロ程となっている。
今後も毎日少しずつ森を増やしていかないとな。
そうすればいつかは……
《それじゃいっちょ森を拡げていきますか》
「そんなにすぐにはできないでしょ」
《まあ見ててよカルラ》
「……」
《……》
「……どうしたのトレントさん?」
《なあ、カルラ》
何?とカルラが僕を見る。
《川がある方角はどっち?》
そういや川のある場所が分からなかった。
ずるっと足を滑らせるカルラ。カルラ危ないよ?
「分かっててやろうとしてたんじゃないの?」
《いや~、ははは》
とりあえず笑ってごまかす。
「北東に十数キロ程行ったところよ」
《ありがと。北東だな。北東は川以外に何かあるのか?村か町があったりとか》
「村があるにはあるけど、かなり離れてるわ。川よりもっと向こうだったと思う」
《了解》
というわけで、森の北東の端に意識を集中させる。
試したいことがあった。
最近僕は自分の創った森の状態のことがある程度分かるようになってきた。
まず森の範囲が分かる。
そして森の異変があると不快さを感じられる。
例えば木々が窮屈してる事や、土の栄養が減ってることなど。
森の木々が窮屈している所は『アースチェンジ』を使って、木々の間隔を離してやる。
栄養が減ってる場合は『アースチェンジ』で土壌を良くしてやる。
そうすると、不快さは消える。
なんだか森全体が僕の体の一部になったような感覚だ。
更に意識を集中させると、森にある木であればどれでもリンクさせることが可能で、感覚共有できるようになっている。
そのおかげで視覚も共有することが可能となっていた。長時間は無理だけど。
だから僕を中心に森がどこまで広がってるのか分かるようになり、意識を集中させれば森のどこにでも僕がそこにいるような感覚を味わうことができる。
森の北東の端の背の高い杉の木に意識を集中しリンクさせる。
視覚を共有した僕は、北東に目を向ける。
そこはやはり荒れた大地がどこまでも広がっていた。視界に移る範囲は全て荒れていて、大きな岩もゴロゴロしてる。木どころか草も生えてない。
そして僕は『アースチェンジ』のスキルを使う準備に入る。
今までは僕を中心に少しずつスキルで森を広げていったが、一方向に向けてスキルを使用したことはない。
それに以前より意識せずとも大気中のマナを感じ取ることができるようにもなってきた。
今では意識せずとも常時発動中の『アブソーブ』でマナが回復され、大量に蓄積されてるので、マナ消費を意識してスキルを使用したことがない。
だが、空気中のマナを媒介に直接スキルを使ったことはない。
だから今回はいい機会だ。大気中のマナを媒介にスキルを使用できるか、そして円にではなく一方向にスキルを使えばどこまで届くのかを検証してみよう。
「ねえ、トレントさん。何をする気?」
《うーん。まだ秘密》
「?」
《まあ見ててよ》
カルラは僕が何をするのか分からず不思議そうに見てくる。
準備の整った僕は、北東の荒れた大地に目を向けたまま意識を集中させ、北東方面の大気中のマナもしっかりと感じ取る。
そしてスキルを発動。
『アースチェンジ』
大気中のマナが一瞬でなくなるのと同時に、荒れた大地にゴロゴロ転がった岩は砕け、罅割れた大地は土へと変わっていく。そして、いい感じに土壌化された土になった。
《よし!成功だ!》
「えっ、何!?」
カルラが驚いて飛び上がり、大きな翼で上昇し北東に目を向ける。
「今、あっちの方のマナがなくなったわ!」」
《あ。カルラ、マナが分かるんだ?》
「バカにしないで。亜人はみんなマナを感じられるのよ」
《そうなんだ》
僕は今では普通に感じ取れるけど、少し前まで意識しないと分からなかったのに……
「それより今の何!?マナが消えたのと同時にあれだけの荒野が綺麗な土地になったわ」
《うん。この森を創った時のように、マナを使って荒れた大地を土に変えたんだ》
としれっと返すと
「は?なんて?」って顔をされた。
《さてお次はっと》
北東方面のマナは使い切ったから、今度は僕のストックしているマナを使い『植物創造』で色んな種類の木を創る。
七~八メートル程の高さの木々が一瞬にして現れる。
今作った森の端に意識を飛ばして、大体の距離を測る。約4キロ程森を伸ばすことに成功したようだ。
《よしよし。この調子ならすぐに川まで森を伸ばせるだろう。そうすればここまで川を引くことができるだろう》
「……」
カルラは北東を見つめたまま口を開けて固まってる。
《カルラ?》
反応なし
《カルラ?おーい》
細めの枝をカルラの目の前で振る。
すると、はっと意識を戻し僕に目を向ける。
「今の何?いったい何が起こったのよ!?」
と問い詰めるように聞いてくる。
《前に言っただろ?この土地を荒れた状態から、森を創ったって。それと同じことをしただけだよ》
「いやいや。聞いたけどそれだけで納得できないわよ!」
北東を指差し訴えてくるカルラ。
「森ができるところをこの目で見たけど、突然すぎて混乱してるわ!ちゃんと説明してよ!」
と怒られた。
《仕方ない。あまり言いたくなかったんだけど、僕は『アースチェンジ』と『植物創造』のスキルを持ってるんだ。でそのスキルを使って森を創ったんだよ》
「そんなスキル聞いたことがないわ」
《どっちもマナを消費するスキルするんだけど、『アースチェンジ』でどんな土地も土に変えたりできて、『植物創造』でどんな植物も作り出せるんだ》
「そんなことができるなんて」
《さっきもこの『植物創造』で君の家を創ったんだよ》
「……もう滅茶苦茶過ぎる。理解が追い付かない。なんだか頭が痛くなってきたわ」
と頭を押さえて、呻くカルラ。
《大丈夫?》
カルラが心配になり聞いてみると
「大丈夫じゃない。ちょっと頭の中整理してくるわね」
と言って、一度家に戻るカルラ。
そんなカルラを見送った僕は、暇になった。
根を土の中で伸ばして縮めて、上下左右に動動かす練習をした。
すると根の一本が、地中に空洞を発見する。
そこに冷たい液体があるのが分かった。
もしや地下水かと思い、『アースチェンジ』を使い、地下の液体があるところまで大きな穴を作る。
するとそこには予想通り地下水があり、綺麗な水だと一目で分かるくらい澄んでいた。
折角、川があるところまで森を拡げようとしてたのに。
そう思いながら、水を発見したことを素直に喜ぶことにした。