トレントが絶滅してたなんて。
一部修正してます。
知り合ったばかりの女性、カルラ・ウィンバレッディアから衝撃の事実を教えられた。
「トレントは絶滅してる」と。
僕はカルラにと聞いた。
《トレントが絶滅したってどうして?なんで今はいないんだ?》
「四百年前まではこの辺りにたくさんの珍しい植物がたくさんあったそうです。その中にはトレントもいて、緑豊かな森に湖や川もあったみたいなんです」
《そんな森がここにあったの?ここ、今では緑があるけど、少し前まで何もない荒野だったんだよ?とても信じられないや》
何もない荒野を知ってるから、昔森があったと言われてもとても信じられない。
「昔は広大な森があったそうです。ですが人間族同士がとあるニ本の木を手に入れる為、この森で戦争を起こしました」
《じゃあ、ここが荒野だったのはその時の名残なのか?》
「はい、かつての戦争終結してから今まで雑草も生えたこともありません。この地は雨が降ることがなく、植物が全くないことから枯れ果てた大地と言われてたんです。……なのに今は土がふわふわしてて。あれだけの荒野にこんな森が広がっていてびっくりしてるんです」
カルラは回りを見渡して本当に驚いたような顔をしてる。
「暗かったから分かりませんでした。こうして明るいところで見ると見たことのない植物がたくさんあるんですね」
「あれとかなんて植物なのでしょうか?」と指差しながら、言ってくる。
「どうしてここに森ができてるんですか?それにどうしてトレントの貴方がここにいるんですか?」
と質問された。
さて、どう答えたものか……。答えられる範囲で答えておくか。
《それがよく分からないんだ。ある日気が付いたらこの荒野にいたから。だからなんでここにいるのかって聞かれても分からない》
前世の記憶があることと異世界から来たことも黙っていよう。
信じてもらえないかもしれないし。
ごめんね、と心の中で謝る。
《この森は僕が創ったんだ》
「……森を……創った?」
カルラがきょとんと不思議そうに見てくる。
《うん。僕は自由に植物を創ることができるんだ》
「植物を創る?」
こてんと頭を傾げるカルラ。その仕草が可愛いんですが。
《うん、創る。こうやって》
と、近くの開けた場所にドラゴンツリーを一本作り出す。
瓶を逆さにしたような形の高さ20メートル程の木がポンッという音をたてそうな感じで現れる。
「!?なんですかあれは!?なんであんな所に急に木が現れるんですか?それに見たことない木ですよ!」
《あれはドラゴンツリーだよ。龍血樹とも呼ばれる木だよ》
「ドラゴン!?ドラゴンの木なんですか?」
カルラさん驚きすぎだと内心思いつつ、
《ドラゴンと名前についてるだけで、大した木じゃないよ》
と説明しながら、落ち着けーと宥める。
深呼吸してようやく落ち着くカルラ。
「すみません。取り乱しました。でも、荒れ果てた土地でこんなに植物が育つものなんですか?」
と気になることを聞いてくる。
《それも問題ないよ。僕は荒れた大地を植物が育つ状態に変えることができるし》
カルラが頭を押さえる。
「ここって雨降らないですよね?」
《多分ね。僕は一度も雨を見てないよ。でも問題ないよ。土を触ったら分かると思うけど、少し湿った感じがあるでしょ。水分が含まれてるんだ。だから枯れることはないし、元気にすくすく育ってるよ。成長が早いくらい》
「……そんなことができるなんて……」
とを話した後、しばらく頭を悩ませていた。
しばらくして、カルラが落ち着いたのを見て話を戻すことにした。
《それで話を戻すけど、『とあるニ本の木を手に入れる為の戦争があった』と言ってたけど、その『ニ本の木』って何?》
「それは世界樹ユグドラシルと巨大な桜の木です」
世界樹ユグドラシルってゲームや神話によく出てくる名前だな。そんな凄そうな木と桜の木ってすごく格差あるような気がするけど。
《世界樹ユグドラシルと桜の木って?そんな木がどうして狙われたの?》
「ここはかつて『セレス大樹海(世界樹と精霊の森)』と言われていました。世界樹ユグドラシルは生命樹とも言われいて、その葉はエリクサーの材料になるんです」
《エリクサー?エリクサーって?》
「エリクサーはどんな傷や病気にも効く薬と言われています」
《へー…すごいなぁ。そんな薬があるんだ》
「はい。と言っても昔のことで今となってはエリクサーは伝説の薬なんです」
《そっか》
「他にも世界樹ユグドラシルの木は防具として、枝は武器としてもすごいんです。世界樹ユグドラシルの素材は鉄よりも軽く丈夫な物だったそうです」
《世界樹ユグドラシルってすごいんだな》
「はい、本当にすごいですよね。そして、もう一本の巨大な桜の木には豊作を齎せてくれる精霊が宿っていたそうです。その精霊のお陰で、森はいつまでも緑豊かで豊作が続いたことでそこに住まう亜人は飢えに困ることがなく、穏やかで平和に暮らしていたそうです」
なるほど。本当にいい森だったんだな。
「亜人と生活を共にする魔獣もいたみたいですよ」
《誰もが頼りにしていた大切な木だったんだな。でもなんでそんなすごい木が戦争の動機になるんだ?》
なんで争いが起こってしまったんだろう。
カルラさんが「それは」と話し出す。
「人間族が世界樹と桜の木を奪おうと森に攻め込んできたんです」
《人間族がどうして?》
「あの時代の人間族は常に他の人間族と争い続けていたんです」
どこの世界も争いごとが絶えないんだな。
「ですがある時、この森に一番近かった国であったプランダラ王国の国王が欲をかき、世界樹と精霊の宿る桜の木を手に入れる為、軍隊や傭兵を率いて森に攻め込んできました。そのことを知った他の国々もプランダラ王国に遅れを取らせまいと、『セレス大樹海(世界樹と精霊の森)』に軍隊を率いてやってきました。そして集まった人間族は他の国に奪わせないため、森の中で戦争を始めました」
森の中で戦争って、回り全部木だぞ。火なんて使えばやばいことになるんじゃ。
その予想は当たり。
「森は焼け、そこで生きていた亜人や魔獣は住処を焼かれあちこちに追いやられました。広大な森のほとんどが焼け、人間族が世界樹と桜の木を手にかけようとした時、世界樹が自衛のために自らを枯らし消滅させ、桜の木は世界樹を追うように萎れていきました。世界樹のあった場所から、瘴気が立ち上り『セレス大樹海(世界樹と精霊の森)』全域に広がったそうです。瘴気が晴れた時には、そこは荒れた大地へと変わっていたそうです」
僕の予想は当たっていなかった。予想より遥かに酷い話だった。
《そこにいた人間族や亜人はどうなったの?》
「分かりません。森に赴いた人達は誰も帰ってこなかったと伝えられてますから。おそらく瘴気によって、何もかも溶かされたのではないかと言われています」
なんとも重い話だった。
でも、僕はそんな森があった場所にいたってことだよな。
なんで僕はこんなところで目覚めたんだろう。
まだ分からないことが多いな。




