いつの間にかお客さんが来ていた
一部修正しています。
巨大狼を倒し緑が広がってから、半年程が過ぎたある日の朝。
気が付くと、知らない女の人が僕の枝に座り、幹に体を預けて眠っていた。
今の僕は五十メートル位まで成長してる。
ここに来た当初と比べてか三十メートル程成長している。
かなりの高さがあるにもかかわらず、この人はここまで登ってきたということだろう。
よく登ってこれたな。
でもこの世界に来てから初めて会った人だ。
話しかけたいけどよく寝てるようだし、目が覚めた時にお話しできたらいいなと思う。
そういえばこの世界は夜になると月が二つ昇る。
ただ地球の月と違って、紅く輝く月と金色に輝く月。
転生した日の夜、地球ありえない夜の姿にここは異世界であることを実感した。
いまでは もう慣れてるし、この幻想的な美しい光景が僕は好きだ。
異世界に来てからずっと雨が降ってない。
雨が降ってないんだからこの地は荒れ果てた大地になっていたし、この辺りには川も池もなく、おそらく地下水もないだろう。
雨が降らないから水不足のはずなのに、『植物創造』で作り出した植物は一本も枯れることなく、それどころか元気にすくすく成長し一回以上り大きくなっている。
『アースチェンジ』で土壌が綺麗になり、栄養が含まれているのも影響だろうか。
ちゃんと『アースチェンジ』を定期的にかけて、良い土の状態を維持している。
そして森の範囲を少しずつ拡げ、今では僕を中心に400メートルは拡大してる。
どうやら、僕が感知できるマナの範囲まで森を拡げれることが分かってる。
いつか僕の作り出したこの森に動物や人が来てくれたらいいな、と思っている。
そして願っていた人が初めて来てくれた。僕の枝で寝てるけど。
僕は嬉しくなった。
前世で僕はそこにいるだけで誰かを休ませてあげられる存在になりたいと願った。
それが今実現している。それだけですごく嬉しい。
そう思っていると、東の空に一つ目の太陽が顔を覗かせようとしていて夜が明けようとしていた。
日の出が綺麗なのはどの世界も一緒なのかもしれない。
二つの太陽が完全に顔を出す朝の美しい光景をいつものように見ていた。
そして、僕の枝で休んでいた人が目を覚ました。
《おはよう。よく眠れたようだね》
早く話しかけたかったから急いて念話を使って声をかけてしまった。
寝起きで大きく伸びをしていた女の人はビクッと体を震わせ、立ち上がり、回りをキョロキョロ見てる。
立ち上がったその女の人は背中まで伸ばした鮮やかな紅色の髪、紅い瞳、腕は鳥の様な紅くて綺麗な立派な翼になっていて、翼の先に人と同じ様な手があり鋭い爪が伸び、足は鳥の様な足をしてる。
ハーピィというやつか?
大きな胸と腰回りは赤い羽根と白い羽を重ねって作ったであろう服を身に着けている。
急に声が聞こえてびっくりしたのか、それとも念話は通じなくて別の理由があるのか。
辺りをキョロキョロしている女性にもう一度念話で声かける。
《おはよう。僕は今君乗ってる木だよ。念話で君に話しかけてるんだ。僕の言葉が聞こえてる?》
すると女の人は恐る恐る僕の幹を見てくる。
そしてゆっくりと口を開き、
「……あっ、はい!聞こえてます!お、おはよう、ございます……」
驚いたように大きな声で返事をし、恐る恐る警戒してるのか少しずつ小さくなる声で挨拶を返してくれた。
《挨拶を返してくれてありがとう。いきなり声かけたせいで驚かせたね。ごめんな》
「はい。本当に驚きました。誰もいないはずの場所で急に声が聞こましたから。幻聴かと思いました」
《そうか。いきなりですまなかった。初めてのお客さんだったから嬉しくてな》
「そうだったんですか。それにしても喋る木なんてあるんですね。今まで森で生活してましたが、木に話しかけられるなんて初めての経験です」
女の人は可愛らしく「ふふっ」と少し笑った。
そういえば、名前をまだ聞いてなかった。
《そうだ。君の名前を聞いてもいい?》
っと、いきなり名前を聞いて失礼だったかな?
「あ、はい。私はカルラ・ウィンブラッディアといいます」
と普通に教えてくれたよ。
《カルラ・ウィンブラッディア…いい名前だね。カルラって呼んでいいかい?》
「ありがとうございます。名前を褒めてもらったの初めてです。はい。カルラって気軽によんでください。……あの、あなたの名前も教えて頂いても?」
まさか僕の名前を聞かれるとは思わなかった。
僕からカルラの名前を聞いといて、僕は答えないというのは良くないよね。
でもどうする?神桜大樹と答えていいのか?
トレントなのに名前があると知られたら怪しまれるかも。
よし名前はないことにしておこう。
《僕に名前はないんだ。だから好きなように呼んでもらって構わないよ》
「好きなように……………すぐには思いつかないですね」
とカルラは困ったように言う。
ですよね~。いきなり好きに呼んでいいと言われても困るよね~。
「少し考えさせてください」
《うん。分かった。それじゃゆっくり考えてよ》
はて、どんな風に呼んでくれるのか楽しみだな。
「気になってたのですが、貴方は木なのにどうして念話が使えてお話ができるんですか?」
とずっと気になってた様で問いかけてきた。
《どうして、と聞かれてももよく分からないんだ。僕が魔樹でトレントだから?》
「トレント!?あなた……トレント……なのですか?確かトレントは四百年前に絶滅したはずの魔獣ですよ?生き残りがいたなんて聞いたことないです」
とカルラがすごく驚いた様子で見てくる。
《絶滅っ!?》
衝撃的な事実が発覚しました。
なんと……トレントは絶滅してたそうです。