神獣と帰宅しました。
一部修正しております。
僕はアリアの背に乗り、森に帰っていた。
アリアの背には全部で六匹の犬に似た魔獣…じゃなくて神獣もいる。
「人間達から助けてくれて本当にありがとう。私と子供達が無事だったのは貴方達のお陰。この恩はいつか返すわ」
と親神獣が言う。
「気にしないでくれ。散歩中に見かけてほっとけなかっただけだから」
僕は人形の姿のまま『発声』のスキルで声を発し神獣に言う。
念話よりも使いやすい。やっぱり、声を発することができるのはいいなぁ、と実感する。
でも声帯がないのに声が出るのはなぜなのか?
ふっ。気にしたらダメだな。スキルのお陰だということにしよう。そうしよう。うん。
「それでも助かったのは事実。何かしらさせてもらうわ」
とのことだ。子供神獣もキャンキャン吠え、親神獣に同意しているようだった。
「そっか。分かったよ」
と僕は折れることにした。
「そういえばお前達に名前はあるのか?」
名前があるなら聞いておきたい。
「私達に名前はないわ。とりあえず神獣フェネックとも呼んでくれたらいいわ」
神獣フェネックか。
よく観察すると犬のような姿ではあるが、狐のような大きな耳に、チワワのような大きな目、そして猫のような可愛らしさがある。
「神獣フェネック。愛称でフェンネって呼んでもいいだろうか?」
「フェンネ。えぇ、可愛い名前ね。それでいいわ」
「じゃあ、フェンネ。これからしばらくよろしくな」
フェンネは頷き、子供達はじゃれてくる。
君達、ここは空の上なんだから落ち着きなさい、と思う物の口にはできなかった。
森の村に着くまでに、住人はまだほとんどおらず、これから住人を増やしていくこと。
セレス大樹海に住んでた者達の生き残りや子孫、亜人達を探し出し、この森で一緒に生活したいと考えていることを伝えておいた。
そうこう話しているうちに村に到着し、カルラとヒイ達が出迎えてくれた。
「お帰り、トレントさん。今日は帰りが遅かったのね」
「ただいまカルラ。ちょっと色々あってさ」
もう夕方で、日が暮れかかっていた。
「えっ!?トレントさんがしゃべってる!?念話じゃない!私の耳がおかしくなった!?」
と相変わらず酷いこと言うよね、カルラ。
「新しいスキルを作ったから喋れるようになったんだ」
「そうなんだ。トレントさんってやっぱり不思議よね」
「それより、お客さんを連れてきたんだ」
とフェンネ達をアリアから降ろし、
「神獣フェネックのフェンネとその子供達だ。今日からしばらく一緒に住むから仲良くしてあげてくれ」
「神獣フェネックのフェンネよ。危ないところをこのトレントに助けてもらったの。子供達共々しばらく厄介になるわ」
みんなにフェンネのことを紹介すると、フェンネもみんなに一言挨拶をした。
「神獣フェネックってあの?」
「?あのって何?」
「え?トレントさん知らないの?」
僕はカルラの言ってることがよく分からず?が浮かんでいた。
「神獣フェネックは神の使いとも呼ばれ、神様の言葉を届けてくれることがあると言われてるわ」
「へー、そうなんだ」
そんなすごいんだ。
「トレントさん、信じてないでしょ」
カルラがジト目で見てくる。
「いや、信じてる信じてる」
ここは異世界だから何があっても不思議じゃないし。
「ならいいけど。でも何があったの?危ないところを助けたって言ってたけど」
そうだな。何があったのか話しておかないとな。
「アリアと西の方に行ってきたんだけど、人間が三十人くらい集まっててさ――」
と一通り説明が終わると、
「罰当たりな連中がいたものね。そんなことしたら、神獣からの守護も神様からの信託も途絶えるかもしれないというのに」
うんうん。カルラの言うとおりだ。
《あの時のトレント様は凄かったですよ~。人間達が大穴に落ちていく様は爽快でした~!派手な色をした髪の人間に放った殺気と脅しもすごかったですしね~》
「えっ!?なにその話もっと詳しく!」
とカルラがアリアに説明を求めようとするが、それよりも話しておかなければいけないことがある。
「カルラ、アリア。その話はまた後でしてもらえるか?今はそのことよりも…」
「どうしたのトレントさん?」
「フェネックを襲っていた連中の依頼者はマーキュリー共和国で奴隷商をしているというディール・グリードと言っていた。こいつはこれまでにも亜人や魔獣を捕まえて奴隷にし、他国に売っていたと言っていた」
「!それは本当なのトレントさん?」
「ああ、本当だ。奴から直接聞きだしたからな」
《私も聞きましたから間違いないですよ~》
アリアの証言もあり、カルラは信じたようだ。
「でだ。奴には他国に売った亜人や魔獣のリストを作っておくように言っておいた。四日後に取りに行くこともな」
そのリストがあれば奴隷にされている亜人達を見つけやすくなるだろう。
「でも本当にしてくれるのかしら。もしリストを作らず、貴方に仕返しをする為に罠を仕掛けることもあるんじゃ……?」
「その点は大丈夫だよ。僕の分体をつけてるから、何かしてもすぐに分かる。それに僕の分体は小さくしてるからばれないと思うよ」
もしばれたとしてもどうとでもなるからな。
「ならいいのだけど」
《あるじー。つかまってるこたちはたすけたらいっしょにすむのー?》
ヒイはこの村に住人が増えるかどうか気になってるようだ。
「そのつもりだよ。ただ、帰る場所があって、そっちに帰るのなら、その意志を尊重し、叶えるつもりだよ」
《わかったー。はやくみつけてあげて、たすけてあげようねー》
僕は頷いた。
「とまあ、こんなわけだから、四日後にまた行ってくるよ」
「分かったわ。でも明日アルファ達が集落の代表者を連れてくるんでしょ?その人達がいつまでここに滞在するのは分からないのに」
「それなら大丈夫」
僕は本体の木とも意識をつなげ、『分裂思考』を使う。
「「ほら、こんな感じで」」
トレントドール二号とトレント本体の木からの二方向から声を発したことで、僕以外のみんなが驚いた。
「「意識を分裂させておくことができるようになったから。本体はこっちにあるし、向こうに行くのはトレントドール2号のほうだから」」
「トレント、今のは?」
「もう驚かないようにしようと思ってたけど無理ね」
《トレント様が二人います~》
《すごいねあるじー》
フェンネは困惑し、カルラは呆れ、アリアは驚き、ヒイは目をキラキラさせてる。
「さて!今日はだいぶ遅くなってきたから、今日はもう休むとしよう」
日は完全に暮れていた。
「そうね。最後の最後でトレントさんのせいで疲れてしまったし、お風呂に入って寝ることにするわ」
「じゃあ、フェンネ達もお風呂に入れてやってくれ」
「分かったわ」
そうだ。フェンネの家を作っておかないと、と思っていると、
《あるじー。きょうはフェンおねえちゃんたちといっしょにねたい。だめー?》
「僕は構わないと思うが、あとでフェンネ達に聞いてみような」
《うん。わかったー》
お風呂から出てきたフェンネ一家は大変満足したようだった。
今夜はヒイの希望通り、フェンネ一家はヒイ達の家で寝ることになった。
明日からまた忙しくなるなと思いながら、夜は更けていくのであった。




