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10歳の誕生日を迎え、無事に《ノーギフトノースキル》の称号を獲得した俺は、この先どうしようかと思い悩む日々を送っていた。――――嘘。実はあんまり悩んでなかった。


スキルを持たない人間という前代未聞の事態に両親は盛大に困惑したようだったが、個人的にはどうでもよかったのであまり問題視していなかった。


むしろ「何か問題ありますぅ?」と周囲を煽っていた。最初の内は「問題ありまくりだろ!」と激情に駆られていた周囲の人たちは、時間が経つにつれて冷静になり「……問題、あるかな?」と我に返っていく。


俺はスキルが使えないけれど、その代わりに魔法が使える。魔法なんてこの世界では皆使える物ではあるけれど、そもそもがして俺ほど魔法を扱える奴なんてこの世界にほぼいない。


他の人間がスキルで扱っている技を、俺は魔法で再現可能なので、そこら辺を考慮してみると「何も問題ないな……」と言う結論に行き当たる。

いや、宗教界隈で『スキルを与えられなかった者は人に非ず』とか認定されると面倒なので、そっち方面の影響はあるかもしれない。

そうなると《ノースキル》が人の上に立つというのは貴族の体面的にも問題がありそうだ。やめるか、貴族。


早々にそういう結論に達していた俺に対して、肝心の両親は俺をどうするか中々決めきれず、スキルを持たない人間について情報を集め、そんなもんいねえと言う歴史を突きつけられ憔悴していった。


両親が弱っていく姿を見せられるのは実に心苦しかった。

俺のように、気軽に神に中指突き立てるぐらいのメンタルだったらよかったのに。


その内、隣領地の領主殿がやって来て、俺と婚約者の婚約を解消すると告げてきた。弟との婚約はそのままなので、家同士の付き合いは今まで通りでやっていくつもりらしい。


領主殿が言うには、いつの間にか中央でも俺が《ノースキル》であるという噂が流れ始めているらしく、それに付随して不穏な動きが見られるらしい。


「初動を間違えましたな」と領主殿は両親に告げていた。

前代未聞の《ノースキル》に動揺したのは仕方がないが、もっと早くに何らかの手段を講じていればこうはならなかったと言いたいらしい。


「なんてことを言うのだ爺!」と俺は憤り、「クソガキめが」と爺は吐き捨てる。


何らかの手段も何も、我が家は辺境の田舎貴族で中央への伝手はない。どこかの派閥に属しているわけでもなく、そういう政治的な駆け引きとは縁遠い家なのだ。


俺の《ノースキル》が漏れたのだとすれば恐らく使用人からだろう。スパイと言うか他家と繋がっている人間は何人もいて、その内のどれかが何らかの思惑で噂を流しているらしい。


今のところ神殿を中心にして「《ノースキル》なんてありえません。それは神に見捨てられたも同然なのですから」と言う主張が大勢を占めている。このままでは俺個人の話に収まらず家族にも危害が及ぶかもしれないので、それを防ぐためにやることと言えば一つしかなかった。


「これでお前は追放だ。晴れて貴族ではなくなる。……望む結果が得られて満足だろう?」


爺は渋い面持ちでそう言って、俺は神妙な面持ちでこう言った。


「なんか白髪増えてない? 大丈夫?」


「そこに触れるな」


「遺伝的に禿げる家系ですか?」


「触れるなと言った」


「またマジックローズ送ろうか?」


「殺すぞ」


マジックローズとは、薔薇の花に魔力をこれでもかと注ぎ込んで作った物のことで、自然界では限られた場所にのみ自生する花のことだ。

手に入れるには人間の生存圏の外に行かなくてはいけないので、実質的に幻の花と言われている。


そんなものを、婚約者――元婚約者の誕生パーティで手渡したものだから騒ぎになった。

未だに根に持っているらしい。問い合わせとか大変だったらしいし。

実は領主殿の誕生日に花束で送る計画があったのだが、こうなってしまっては見ることが出来ない。残念だ。イリスにでも渡しとこ。


「ところで領主様。娘御の婚約話が白紙になったということで一つご提案があるのですが」


揉み手をしながら笑顔で近づく俺と後ずさる領主殿。一進一退の攻防が繰り広げられる。


「わたくしにソラと言う名前の弟がいるのですが、これが中々良い男なのです。いえ。もちろん領主様には敵いませんが」


「きも」


俺の笑顔への罵倒は聞かなかったことして、ここぞとばかりに弟をプッシュする。押して押して押しまくる。


「顔がよく、頭もよくて、魔法の才能があります。少しばかり運動が苦手ですが、まだ7歳なので将来性に期待です。ちょっとだけ黒く染まっていますが、そこもまた魅力的。いかがです? 良物件ですよ?」


「……何が言いたい? ソラ君はイリスの婚約者で――――」


「人数なんて気にするな! ソラとノエルを婚約させよう! 一人よりも二人! 二人よりも三人だ!」


三人いれば十人も二十人も変わらない♪

そーれ☆婚約婚約☆


盆踊りのような動きをし始めた俺を冷めた目で見つめる領主殿。ため息交じりに反論してくる。


「馬鹿を言うな。婚約者を二人など……愛人ならともかく」


「でも、俺が追放なら弟は婿じゃなくて実家継ぐことになるし。そうなるとそっちの家継ぐのはノエルの夫でしょ? 誰か信用できる奴いる?」


《予知》と言うスキルを持ったノエルは、そのスキルの貴重性から度々命を狙われ、更には誘拐されかけている。領主殿自身も何度か命を狙われており、自らが手配した警護と俺が用意した防犯用具で難を逃れてきた。


俺が追放されるからと言ってそれらが使えなくなるわけではないが、安全性は格段に落ちる。何せ俺はもう側にいられない。俺の側にいるのが一番の防犯なのだ。


「……」


「ほら、そう言うことならさ? 一時的にね? 信用できる我が家のソラとね? 婚約しといてね? とりあえずね? 虫が寄り付かないようにね? しといてね?」


「……だが」


「それと家の防犯網の管理権限はソラに渡しとく。あいつ魔法得意だから、最低限維持は出来ると思うよ」


屋敷をぐるりと囲うように敷かれた結界とか、土中で待機して領内を見守っているゴーレムとか、広範囲に敷かれた索敵網とか。

そういった物の維持管理は弟に任せることにする。前々から準備はしてきたから、魔法関連なら十分扱えるだろう。

逆に呪術や風水系はどうしようもないだろうから、これは黙っておく。弄らなければ効果が消えることはあっても悪化することはないさ。いざと言う時に「なにこれ知らない!?」ってなるかもしれないけど。


「そっちの家に敷いてあるのも大元の権限はソラが持つことになるよ。やったね! ソラと仲良くする理由が増えたよ!」


こうして考えると弟の負担がかなり増える。まだスキルを手に入れたばかりだと言うのに。スキルの練習もしないといけないのに。お労しや……。


まあ、ハーレムを作った後のことを考えればこの程度の苦労は苦労ではない。

女の争いに巻き込まれる弟が見れる。その野望に一歩近づくことが出来る。

渇望を抑えきれない。俺は欲望で濁った笑顔を浮かべて領主殿にささやいた。


「家族になろうよ……」


「きも……」


結局、婚約について領主殿はその場で明確に答えは出さなかった。弟に任せるのが一番安心だと思うんだけどなー。


その後、両親は領主殿と改めて話し合い、中央での噂や不穏な動き、更には神殿の内部抗争など、様々な要因が噛み合っていることを知り、俺を家から追放することに決めた。


色々と準備もあったため、その場で即追放と言うわけにはいかず、半年ほどの時間を頂戴することになった。

その間に防犯網を弟に引き継ぎ、ノエルの身の安全を出来る限り確保して、イリスにマジックローズの花束を託した。来たる領主殿の誕生日に送るように頼んで。


それから半年後、正式に俺は追放された。

追放後の足跡についてはこの場では語らない。


ただ、決定してから実際に追放されるまでの半年の間に一つ事件があったので、最後にそのことについて語ろうと思う。

――――蛇竜によって一国が滅ぼされた話だ。

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