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将来、弟にハーレムを作らせるにあたり、もっとも必要なものは一体なんだろうか。……答えは明白である。教育だ。

貴族としての教育ではない。この俺が直々に英才教育を施し、最高の男に育て上げるのだ。そうしなければハーレムなど夢のまた夢。目指すは魅力的な男。最高の男の子。


魅力的と言うのは何も異性にばかり好かれると言う意味ではない。老若男女問わずに心惹かれ、あいつは凄い奴だと心許してしまう存在。それこそが本当の魅力。

そう言う奴が作り出す修羅場は格別の愉悦を醸し出すだろう。何より敵視されやすいハーレムも理解されやすくなる。

ていうか、一人ぐらい同性の友達がいないと早晩潰れるだろうから、そこは配慮だ。長く険しいハーレム街道。修羅の道に友は必要だ。折角だしその友達もハーレムを作ってくれれば……。複数のハーレムと言うのも味わい深い。複数のハーレムに複数の修羅場。考えるだけで最高です。

何ならハーレムに男が混じっていてもいいぐらいに思ってる。同性だからこその気安さに嫉妬する女たち。そんな修羅場も大好物さ。


俺の思い描く、最高の男像を構築する。

女性に優しく、いつ何時も紳士であり、初心なところも持ち合わせ、ちょっとした触れ合いで顔を赤くする可愛い男の子。

それでいて逞しく、男らしさを背中で語る。弱きを守り、強きを挫く正義感。どんな強敵と対しようと決して引かず、信じる所を貫いて、例え世界から悪に仕立て上げられようとも挫けない心を持った、主人公のような男。


そんな最高の男に育てるためには、最高の教育を施さなければならない。

まず必要なのは強さだ。強い男になるのだ弟よ。


そういう理由から、弟に魔法と剣を教えた。

将来のハーレムと修羅場を夢見た俺は心を鬼にして、「雑魚がよ……」とか言いながら教えた。「そんなことじゃお兄ちゃんには勝てないぞー☆」とも言った。


弟は純粋無垢で何事も信じやすい性質で、俺の異様さなど気にも留めずに、毎日積極的に魔法をぶち込んできた。どうやら剣よりも魔法の方に才能があったらしい。得意分野を伸ばすのは大事なことだ。でも身体は鍛えてね。体力がないとハーレム作った後が大変だぞ☆


おかげで弟は大分強くなった。身体の出来はまだまだだが、魔法の出来は人一倍だ。気兼ねなく人に魔法が打てるって環境は成長を促進させる効果があるらしい。

剣の方はあまり上達しなかったのが残念でならない。まあ、まだ子供だし。あまり無理に鍛えても体に悪影響がある。やりたいほうをやればいい。教育方針は褒めて伸ばすタイプ。


弟が一生懸命練習した魔法にあえて直撃し、土煙の中から無傷で現れ、「いい魔法だったぞ」とか言いながら反撃する悪役劇場は気分が良かった。

悪役は十八番です。前世の功をご覧あれ。

そんな俺を反面教師にすれば正義感が育つだろうと思っていた。実際育ったかどうかはよくわからない。悪影響の方が大きかった気もする。要検証。


弟の英才教育期間と婚約者のスキル練習期間が重なったため、都合よく我が家に滞在していた婚約者にも協力してもらった。

と言うか「何してるんですか」と聞かれたから、女性の意見も大事だなと思って協力してもらった。立派な貴族に育てたいとか嘯いて。


手始めに、婚約者に好みの男の子を聞いてみた所「言うことを聞いてくれる人が好きです」と答えたので、その意見を積極的に取り入れた。

「(私の)言うことを(なんでも)聞いてくれる(都合のいい)人が(扱いやすくて)好きです」って言う意味だろう。こいつもハーレムに入れる予定ではあるけど、ちょっとだけ弟がかわいそうになった。


この頃の弟は純粋無垢で可愛かったので、自分好みの男を育てる喜びを知ってもらいたくて、なるべく婚約者と弟を一緒に行動させた。

最初の頃は目隠ししている婚約者の補助に弟をつけ、ついでにスキルの練習を兼ねて二人で訓練させた。


そうすると次第に仲が深まっていくのも当然で、日に日に距離の近づく二人の様子をしめしめと見守っていた。

やはり一つ屋根の下と言うのは強い。幼馴染としての関係も深まる。絆が深まり、関係が深まり、恋が芽生える。カモン、初恋! 幼い子供たちのファーストラブ!! 絶対叶えるフォールインラブ!!

 

期待に心と鼻孔を膨らませ、その生活が一年も過ぎた頃には――――弟が腹黒くなっていた。


「兄さん」


「はい」


「義姉さんと新しい魔法理論を考えたんだ。まだ開発中なんだけど、折角だし兄さんの意見も聞きたくて」


「はい」


「すぐどこかに行っちゃう人の居場所を突き止める魔法なんだけどね。その人にマーキングを施して、方位磁石みたいに魔力を辿って追い詰めるものなんだ。方向しかわからないんだけど、狩猟とかには使えるよ。複数箇所から方向を探れば、大体の場所も分かるしね。だから一人で狩るんじゃなくてみんなで狩る用の魔法かな」


「はい」


「……ところで、最近兄さん家からいなくなることが多いけど、勝手にどこに行ってるの? みんな心配してるんだよ?」


「はい」


「いや、はいじゃなくて……。困ったなあ……それしか言えないの? 義姉さんが再生魔法って言うのを覚えたから、見てもらって来れば?」


「それ教えたの俺――――いえなんでもありません。はい」


3つ下の弟に気圧された俺は独りごちる。……なんでこうなったの?


純粋無垢で初々しく、異性に慣れていない男の子を目指して教育していたはずなのに、どうしてこれほどまでに太々しい男の子が出来上がったのか。


弟の言う狩るっていうのが何を指しているのか。いなくなる人っていうのが誰のことなのか。

言外に臭わして恐怖を煽る手法は間違いなく婚約者の手管(てくだ)。誰がそんなもの教えてくれって言った。


……弟よ。お前はまだ7歳だ。7歳で新しい魔法を開発できる才能は凄いし、7歳にしては理路整然としているところなんかもっと凄い。けれども染まらないでいいんだ。腹黒なんかに負けるな。負けてどうする。お前その調子だと仮にハーレム築いたとしても勝つだろ。修羅場起こらないだろ。全部掌の上でコントロールしちゃうだろ。


まずい……方向修正を……何としてもハーレムを……修羅場が見たいんだ俺は!


弟の教育に失敗したことを嘆き、何とか元に戻せないかと悪戦苦闘する俺の前に、眼鏡をかけた婚約者が現れた。馬鹿を見る目で俺を見て、眼鏡の位置を調整して告げる。


「仮にも貴族なのですから、あなたの望むようなお花畑などダメに決まっているではないですか。よりにもよって女の子に弱いなんて言語道断ですよ。家を継ぐのですよ? 分かってます? お花畑はあなただけにしてくださいね」


……辛辣だった。敗北感に打ちひしがれたが、しかし言われてみればその通りだった。

貴族とは政治に携わる者たちだ。悪逆非道が当たり前の罪深い世界なのだから、多少の悪辣さは持ち合わせていないといけない。

それを考えると、俺の理想とする男の子は夢見勝ち過ぎた。お花畑と言う婚約者の言葉が的を得ている。女に免疫がないとか、ハニートラップしてくださいと言っているようなものだ。どこの領地もそんな当主は嫌だろう。


これは俺の考えが足りなかった。最初からこの計画には無理があったのだ。

反省しないといけない。もはや取り返しはつかないけれど……でも俺は修羅場を諦めていない。

腹黒いイケメンとか結構魅力的だと思う。老若男女全ての人間に魅力的、とはいかないかもしれないが、魅力的であることに間違いはない。


まだいける、ハーレム。

しかし、今の弟は中々の精神的強者へと育ちつつある。修羅場を作るにはこの弟を凌駕するほどの癖のある女の子を集めなければならない。


そんな女の子の集団とか想像するだけで楽しくなる。蠱毒をしようとしたら全員強者かつ不死身で収拾がつかないみたいな、そんな地獄絵図。


実は候補はもう挙がってるぜぇ……ここのところ無断外泊していた理由の一つだ……俺の諦めの悪さは世界一だと知れ。


弟よ、覚悟して待て。

ハーレムを、そして修羅場を。俺は全身全霊をかけてお前に作らせる。

……一緒に人生を楽しもうな。

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