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俺には婚約者がいた。

今現在俺は実家を追放されて縁切り状態なので、あくまでも過去の話だ。


お相手は隣領地のご令嬢だった。

隣の家は田舎の弱小領主の我が家と違い、これぞ貴族と言う本物の貴族だった。

歴史があり、権力があり、名声があり、中央に影響力がある。人を呼べばたくさんの子分が集まって、子供の誕生日会をやると言ったら王様が祝辞を送るほど。

ちょっと前の戦争で活躍したとか、長年国境を守ってきたとか、何代前の当主は大臣だったとか、歴史を語れば枚挙に暇がなく、辺境伯的な扱いを受ける実績と信頼のおける古豪であった。


領地の大きさも我が家の数倍あり、屋敷の大きさからしてすでに比べようもなかったが、家格になると更に比べようがない。そんなところから、我が家に婚約の話が来たのはどういう理由だったろうか。


聞いた話としては単純なものであり、「家族になろうよ! そうしたら俺たち親戚だよな? つまり君の家は俺の傘下だよな?」と言う思惑だと母は語った。


最初はただの笑い話だったらしい。向こうの子供は女の子が二人で男児がいない。比べて我が家は男が二人で丁度いいよねと言う冗句だった。それがいつの間にかマジになった。

長男の俺は家を継ぐため嫁を貰い(両親が勝手に言ってるだけ)、次男の弟が婿に行くプラン(お前が全部継ぐんだよぉ)。


以上が当時5歳だった俺に両親が語った詳細。

それ以上のより詳しい話をすると、我が母上殿と向こうの当主殿は若干の面識があり、その女傑っぷりを知っていたのに加え、俺と言うおかしな存在が出てきたため、早めに唾をつけたと言うことだった。


俺の5歳の誕生日パーティに当主殿がいらしゃったかと思えば、その日の内に婚約話を持ち掛けたと言うのだから大した目利きである。

慧眼すぎて何かそういうスキルでもあるのかなと思っちゃうよね。それとも俺から溢れ出る何かを察しちゃったのかな? イヤだわ……俺ってばモテる……。

――――余談だが、弟にハーレムを作らせて修羅場を堪能する計画は追放された今でも生きているのでよろしく。


婚約者と初めて会ったのは件の誕生日パーティで、仲良くしましょうねと言う話が、次の日にはよろしくお願いします未来の旦那様になっていたから驚きだ。


何を言われてもニコニコしている外面と言い、馬鹿丁寧だけどちょっと毒気のある言葉遣いと言い、裏で色々操ってやるぜと言う腹黒い意思を感じざるを得なかった。

目指す所は我が母上だろうか。豪胆さと陰湿さで若干の違いはあるけど、仲良く出来そうだね君たち(震え声)、と嫁姑バトルの予感に戦々恐々としていた。……俺の求める修羅場とちょっと方向性が違う。あとこれ俺渦中じゃん。駄目だよそれは。


そんな調子で、「うふふ(腹黒)」「あはは(逃走)」と腹を探り合いながら時折顔を合わせ(捕縛)、仲を深めていた俺たちだったが、関係が変わったのは俺たちが7歳の時。貴族なら誰もが経験するギブミースキルの儀式。神様の野郎が「お前スキルいらねえだろ」って感じで確認してきたあの頃だった。


ご周知の通り、俺はスキルを貰うのに失敗……というか拒否したわけだが、そのせいで一生スキルを貰えなくなったわけだが、相手方は当然のごとく成功した。しかし貰ったスキルがこれまた面倒くさいスキルだったらしく、わざわざ当主殿が俺の所までやって来て「何とか出来んかクソガキ」と助力を請うたほどのスキルだった。……何とかしてほしいなら頭下げろや。


スキルの名前は《予知》

読んで字の通り、効果は未来を知ること。厄介この上ないスキルだ。


その目で見た人物の未来を、見れば見るほど何百通りと知ることが出来るスキルだが、肝心のオンオフが出来ない。その気がなくても見た瞬間に勝手に流れ込んでくる。目を開けなければ問題ないけれど、それでは生活出来ない。

出来ることと出来ないことの帳尻があっていない。厄介すぎて誰に命を狙われるか分からず、誘拐の危険もあれば懐柔の危険もある。人の欲望をこれでもかと引き寄せる面倒くさいスキルだった。


直接相手の顔を見なければ発動しないらしく、例えば鏡などを通せば無問題。と言うことは自分の未来を見ることは出来ない。

コンタクトを作る技術はこの世界になく、魔法で目玉覆えよと言うのも無理な話なので、となれば眼鏡かなあということで、最悪目を潰すことを提案した。だって危ないんだもんこのスキル。


「傷物にする意味わかってんのか? 責任とれんのか? あ?」


「うるせえジジイ」


父親然として反対する当主殿。そこに俺の両親も加わって、さすがにやり過ぎじゃないかという流れになり、目を潰すのは最後の最後の最後の手段で取っておくことにした。

俺としては早い内に潰した方が良いと思ったけど、ここぞとばかりに父親面するジジイと本人の意向を尊重してそうなった。


そう言うことなら、誰にもスキルのことを言うなよと婚約者には念を押した。

敵にすれば一番に潰されて、味方にしても最終的には殺されそうなスキルだ。私利私欲に走りまくる欲深い人間にとっては目障りで仕方ないだろう。

本当に信用できる人間以外には明かしてはならない。不可抗力であっても知った奴は殺せ。まあ、その時にはもう漏れてそうだったけど。


当面の対応は決まり、話は変わって俺のこと。


「そう言えば、お前スキル貰えなかったらしいな」


「だからなに?」


「婚約は一旦考え直させてもらう」


「別にいいけど、もしあいつを政争の道具にしたら正義のチョップでお前の領地かち割るから」


「こわ……」


その後、スキルの練習に付き合うためしばらく婚約者を我が家に滞在させて、オンオフは出来ないまでも、最低限見える未来の数を減らすことに尽力した。

一瞬見ただけで何十通りと未来を見るのは無駄がありすぎる。折角見たのに大半は認識も出来ない。濁流が暴れ回るかの如く、一瞬で脳に流れ込むため負担も大きい。

人を見るたびに鼻血なんか出してられないし、そんなことしてたら間違いなく寿命が縮む。だからしばらくは目隠しをして魔力の制御に努めさせた。


目に流れ込む魔力を少なくして未来の数を減らすことが出来るようだ。

スキルを持たない俺には一切分からないことだが、発動したが最後完全自動化されているらしく、誰しもがスキルの調整には苦労するらしい。

何とも押しつけがましい。神様のご慈悲(笑)


眼鏡が出来るまでしばらく時間がかかったので、その間は布で目隠しして生活させた。

ついでに周囲の状況を視力に頼らず把握する術も伝授した。いつか目を潰した時に役立つだろう。俺は未だに目を潰すことを諦めてないからな。


大方の流れとしてはこんなところだろう。……そう言えば、あいつを滞在させている最中、風呂のことで一悶着あった。


婚約者が7歳のくせに一人で風呂に入れないと言うので、誰が一緒に入るかと言う問題が起こった。使用人とでも一緒に入っとけやと俺は我関せずだったが、母が俺に向けた一言で喧嘩になった。


「あんた一緒に入れば?」


「お? 喧嘩するか?」


ボクシングポーズを取る俺と蹴る素振りを見せる母。

お互い割と本気で喧嘩した結果、俺と弟と母と婚約者の四人で入ることになった。誰が勝って誰が負けたとかはない。家族の喧嘩だ。勝敗は決めない方が良い。言い訳ではない。

ちなみに、父が除かれたのはスケベだかららしい。……やはり昔何かあったのでは?


皆と一緒に風呂に入った婚約者は、スキルの関係で目隠しこそされていたが楽しそうだった。

「意外と楽しいものですね」といつにない素朴を笑みを漏らしていたから、まあ楽しかったのだろう。


腹黒にも可愛いところはある。

そんなことを思って婚約者を見てから弟を見る。


大人数で風呂に入ると言うイベントを心の底から楽しんでいる弟。

見た目通り子供そのものだが、こう見えてこいつにはすでに婚約者がいる。


将来のことを考えるなら、俺の婚約者にも信頼できるパートナーが必要だ。

俺はどうなるか分からないから、今の内に新しく調達しないといけない。身近で済ませられるなら、それで済ませたいところだ。


もう一度婚約者と弟を見比べる。

両方とも整った顔立ちをしている。弟の婚約者、つまり俺の婚約者の妹も幼いながら将来性抜群の顔立ちだった。姉妹らしく性格に難はあるかもしれないがそこは大した問題じゃない。むしろそれがいいじゃない。修羅場が激しくなる。


美男美女……ハーレム……。閃いた。


――――婚約者が二人いても問題ないよね!


その方向で行ってみようと思った。

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