蝉的周期
俺は彼女ー水底絹が死んでから初めての夏を迎えていた。
そういえば、彼女はこのくそ暑い、アスファルトを焼くような太陽の下で、交通事故で死んだ。ちなみに彼女の死体はアスファルトに焼かれることはなく、火葬場で焼かれた。
今日は彼女の命日の1週間前である。俺はずっと前から、今日、彼女の、親のいない一人暮らし、否、もう誰もいない実家を掃除し、1週間感傷に浸りながらそこで過ごすと決めていた。
というわけで掃除も終わり、少し散歩するかと外に出た。ここは田舎で、蝉の鳴く声だけが耳を刺す。
しばらく歩いていると、俺の眼前を1匹の蝉が横切った、かと思えば、俺の目の前で飛行をし始め、どこかに行く素振りも見せない。
俺は虫は割りと好きな方だし、素手掴みもいける。だから、俺のそばを離れないそいつを手で優しく掴み、持って帰った。
たまたま置いてあった虫かごに掴まえた蝉を放り、そのまま5日放置していた。(ある程度の餌は与えた)そして、6日目。そいつは明らかに様子がおかしくなり、暴れ始めた。虫籠が揺れるほど。
7日目、そいつは死んだ。まあ蝉だからな、と1人納得していた俺だが、虫籠の中を見て目を疑った。小人のように小さな胎児が、死骸から這い出ている。
そいつは、俺に、こう言った。「私、絹」
その時の俺の心情。はっきりと覚えている。
恐怖を覚えながらもどこかに安心感を同居させていた。