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1ー8 クラブ活動

 放課後、ヒッキーが俺たちのクラブに参加したいと言い出した。

 そういえば、ヒッキーの家にお邪魔した時にお母さんにファンタジー研究会、略してファン研にヒッキーを誘うとか話したもんね。

「お願いするでやんす。私もファン研に入りたいですやんす!」

 ヒッキーはお金持ちの内気なお嬢様なんだが、この話し方ですべてが台無しである。

「あたしは別に構わないわよ」

 さっそく京子は同意してくる。隆二も「俺もかまへんで。確か、ファン研に誘うとかセイヤが言うとったけどな〜」とか言ってこちらをチラ見してくる。

「あー分かったよ。ただしヒッキーがクラブの秘密を守れるのが条件だ」

 俺がそう言ってヒッキーを眺めると、ヒッキーはコクコクと頷いていた。


 そこから焼けた校舎の俺たちの部室に移動すると、ファン研の部室を見て、やや腰のひけたヒッキーが目を見開いている。

「こ、こ、ここは、も、も、もしや、私が異世界の試練を受けた部屋では?」

 どもりながら俺たちを見上げてくるヒッキーに俺たちは頷くと、俺は聖鎧をまとい、京子は獣人に、敏夫はゴーレム装備を、隆二はエルダーリッチの姿に変身した。

「さっき言った秘密ってこれの事な。俺たちは別々の異世界から帰ってきた勇者なんだ。でも、学校では普通の生徒として過ごしている」

 ヒッキーは変身した俺たちの姿を見て、しばらくあぜんとしていたが、目に正気が戻ると「やったー!」と突然叫んだ。

「わたし、もしかしてあの出来事は夢だったんじゃないかと思ってたんです! 異世界は存在するって信じてたけど、心のどこかで異世界なんか存在しないって気持ちもあって……。でもやっぱり存在するんですね! やったでやんす〜」

「え〜と、興奮してるところ何だけど、これが我がファン研の秘密なんだけど……」

「もちろん誰にも言わないでやんす! こんなすごい秘密を共有できるなんて、凄いでやんす。感謝感激雨あられでやんすー!」

「……まあ、それならヒッキーの入部を認めるか」

 周りを見ると全員頷いて同意している。


 喜んでるヒッキーの様子を見ていたら、良かったなという気持ちが込み上げてくるから不思議だ。

 するとヒッキーが我に返って「ところで、ファン研は具体的に何をするクラブでヤンスか? やっぱり魔物退治とか?」と聴いてきた。

「そう言えば、ファン研での活動なんて、この部室を作ったことと、中間テストの勉強くらいしかしてないね」

 京子に言われてみれば、確かにそのとおり。ファン研らしい事など何一つしておらず、その事にはじめて気がつき顔を見合わせる。

「もしかして、何をするのか決まってないのでヤンスか?」

「いやいや、そんなはずは無いでしょう。そりゃあ、ねぇ?」

 俺がそう言って隆二を見ると、隆二はサッとガイコツの目をふせる。

 次に敏夫に目を向けると、ゴーレム装備で、どこを見てるか分からないため、目が合ってるのかどうか分からないまま沈黙が続く。


「ハイ時間切れ。ヒッキーゴメンね。ファン研に誘っといて何だけど、何も決めてないんだわ」

 何も答えられない俺たちに代わり、京子が申し訳なさそうに答える。

「そうでヤンスか……、それならこれからそれを決めてはどうでヤンスか」

「そうやな。時間はたっぷりあるんやから、皆んなで考えようや」

 という訳で、ファン研の活動方針を決定する事になった。


「ハイ! 皆さんの能力を活用して、魔物退治がいいと思うでヤンス」

「いやいや、俺たちの能力は秘密なんだから、それをアピールするのはダメでしょう」

「そうやな、俺なんかエルダーリッチの見た目やし」

「……そもそも魔物がいないと思うけど……」

 敏夫のつぶやきで、みな「あ〜」と納得した。


「せっかくこちらの世界に帰ってきたんだから、異世界の冒険者の仕事みたいなのするのイヤよ。あたしはもっと今を楽しみたいの!」

「そうやな。学生らしくキャンプとか、海水浴、合宿なんてええなぁ」

 京子や隆二の言うことももっともだが。

「楽しむったって、楽しむための予算がないからなぁ」

 話は振り出しに戻った。


「それなら、お金は私がなんとかできると思うでヤンス」

「ヒッキー、ダメよ。私たちは友達でしょ? 友達は割り勘が当然なんだから。それにクラブの問題は部員全員でなんとかしなくちゃ」

 京子の言うのも当然だが、金銭問題は学生の俺たちで解決するのは難しい。

「しかしキョウコ、異世界では金持ちの貴族がお金で解決するなんて、割とよくある話だぜ」

「そうやな。それでもええんちゃう?」

 俺と隆二の意見が一致したところで、京子の獣人の拳がみぞおちにめり込んだ。

『ドスっ、ゴキ、ゴーン』


 俺と隆二が部室の床に突っ伏し、敏夫はゴーレムを装備していた。

「もう一度言ったら、つぶす」


「それじゃあ、お金は各人がバイトとかでなんとかするとして、肝心な活動はどうするの?」

「あ、あの、ファンタジーな小説を書いてコミケとかに出品するとか、どうかな?」

 敏夫が恐るおそる話しだす。

「僕たち異世界の経験がある訳だし、リアルな話が書けると思うんだけど……」

「それいいじゃん」

「私もいいと思うでヤンス。あ、それだと私だけ異世界の経験が無いから、教えてもらえるとうれしいでヤンス」

「それええな。夏休みに小説書くための合宿するとか、盛り上がるんちゃう?」

 皆んな「それいい」とか言って盛り上がってるのはよかったが、これだけは言わざるを得まい。


「皆んな盛り上がってるところ悪いけど、肝心な事を忘れていませんか?」

 俺の言葉に全員が怪訝けげんな表情となる。

「君らは、ファンタジー小説をなめてるんじゃない? あの有名な『小説家になろう』でも、どれだけたくさんの底辺小説家が涙で枕を濡らしたことか」

「つまり何が言いたいの?」

「僕らがどんなにリアルな異世界ファンタジー小説を書いても、無名の小説家の小説なんて誰も読まないって事さ! それはガチにリアルな現実だ」

 俺が皆んなを指差して決めポーズをとると、皆んなが静まり返った。


「……じゃあ諦めろって事?」

「いいや。つまり小説を読んでもらうためには、やり方があるって事さ。君たちは神絵師って聞いたことがないかい?」

「それ知ってるでヤンす。ラノベの本の売上は、表紙の絵の良し悪しで決まるとか」

「そう、そのとおり! ヒッキーの言うとおり、ラノベの売上は99.9パーセント表紙絵で決まる。そして、どんな小説でもベストセラーに押し上げてくれるイラストレーターが神絵師だ!」


 京子が「99.9パーセントって、小説関係ないじゃん」とボソリと言う。

「そこ、うるさい! つまり、コミケで小説を売るためには、まずは神絵師をゲットする必要があるってことだ」

「そやけど、神絵師に依頼するなら、お金がかかるんちゃう?」

「そのとおり。そこで本題だが、誰か格安で頼める神絵師にツテのある人はいないか?」

 俺が全員を見回すが、どうも心当たりは無さそうである。するとヒッキーが手を上げた。

「あの〜、お金の問題もありますので、うちの学校の美術部に頼むとか、ダメでヤンスか?」

「ほお〜、なるほど。意外に問題解決の糸口は足元にあったかもだな。よし、明日にも皆んなで美術部の部長に頼みに行こう!」


………


 2年7組の美術部部長の神谷恵美は、授業合間の休み時間に、机に突っ伏して睡眠を取っていた。

「あのぉ、美術部のカミヤ部長さん? ちょっとお話があるんですが?」

 皆んなを代表して俺が神谷部長の横に立ってそう言うが、神谷部長はピクリとも動かない。

 そこで「キリーっ」と号令をかけてみると、神谷部長は「ふんがっ」と女子高生が出してはいけない声を上げて立ち上がった。

「あっ、起きた。カミヤ部長すみません。5組のスズキと言いますが、ちょっと話を聞いてもらいたいんです」

 俺がそう言うと、目の下にクマのある顔で、ギロリとにらまれた。

「私の貴重な睡眠時間を……、しょうもない話だったらぶっ飛ばす!」

 俺たちは、女子高生のすごんだ顔くらいでは何ともないが、ヒッキーは京子の背中にあわてて隠れた。


「いやいや、お互いに利益のある話ですので大丈夫です。放課後に時間あります?」

「無い」

「いやいや、話しくらいいいじゃないですか」

「本当に時間がない。どうしても話したいなら、下校の帰り道くらいしかない」

「えっ、美術部の部活は?」

「部室が燃えたから、現在休部中。そして私はバイトに行かなきゃいけないの。分かった?」

 どうやらバイトへ行く下校時になら、話を聞くという事らしい。

「分かりました。それで結構です」


………


 下校時に、俺たちは神谷部長と並んで歩きながら、コミケに出品する作品の表紙絵を頼みたい旨を手短に説明していく。

「まあ事情は分かったけど、多分無理ね」

「それはどうして?」

「まず、美術部でコミケに出せるような絵を描けるのは、私くらいってこと。そして私は火事で燃えた絵具を購入するためバイトで忙しい。だから、あなた達の絵を描く時間がない」

 俺は「また金かぁ」とため息をついた。


「でも、無理とは思うけど、私の悩みを解消してくれたら考えないでもないけど……」

「えっ? その悩みとやらは何?」

「うーん、でもあなた達ではどうしようもないから、言うだけ無駄かな」

「いやいや、そこまで言ったなら聞かずにはいられないよ。お願い、その悩みとやらを聞かせて」

 俺が無理やり頼み込むと、神谷部長は、ようやく重い口を開いた。

 神谷部長の話によると、これから向かうバイトとはコンビニの店員なのだが驚くほど時給が高いそうだ。そのカラクリは、バイト中に万引きされたら給料から商品代を差し引かれる条件らしい。

「しかも最悪なのは、私が入る時間帯に決まって暴走族の連中がやってきて、結構万引きされちゃうのよ。このままじゃあタダ働きよ」


 そこまで聞いて俺はぴーんときた。

「つまり、絵を描く条件というのはその万引きを何とかしてほしいって事だな?」

「ええ、捕まえるまでいかなくても目を光らせておくだけで被害は減らせると思うけど、相手が暴走族じゃあ無理よね。誰でも怖いもの」

 神谷部長はため息混じりにそう言うが、むしろ俺たちの得意分野です。

「引き受けた! 俺たちに任せなさい!」

「えっ? 私の話聞いていた?」

 京子も神谷部長の肩を叩きながら「あたし達なら大丈夫よ。大船に乗った気でいてよ」と笑みをもらすが、神谷部長は半信半疑の表情で戸惑うのだった。


………


 コンビニ前の国道の先からたくさんのバイクの爆音が聞こえてくる。

「暴走族がコンビニに向かってるっす。20台以上いるでヤンス」

 国道沿いで張り込んでいたヒッキーから京子のスマホに一報が入る。

「了〜解。ヒッキーは危ないから離れてな!」

 暴走族のバイクはグォングォン爆音を響かせながら、コンビニの駐車場に入ってきた。

「ヒャッホー! 今日も狩りの時間だぁ!」

 いかにもそれらしい格好をした連中が奇声を上げながらコンビニへ入っていく。


 さて俺たちのフォーメーションはこうだ。

 まず、コンビニの外の物置の陰にゴーレム装備の敏夫が待機して、合図があり次第、お店のガラスや建物全体に魔法の防御壁を張り巡らす。

 京子は店内巡視で、隆二は暴走族の後始末、俺は全体指揮といった感じだ。

 暴走族の連中は4〜5人で固まって商品棚の前に行くと、店員や監視カメラから見えない死角を作り万引きしていく。単純だがなかなか巧妙なやり方だ。ここで注意しても、証拠が無いし逆にすごまれるのがオチだろう。


 しかし今日は相手が悪かった。

「アイテテテ!」

 暴走族の一人が声を上げたので見ると、京子が手をねじり上げている。

「あんた今、万引きしたね」

 周りを囲んでいた連中が「何しやがんだこの女〜」とか「やんのかコラ」とか凄んでくるが、京子は涼しい顔だ。

 京子は「他のお客さんに迷惑だ。とりあえず外に行こうか?」と言い、暴走族の手をねじり上げたまま外へ出て行く。

 コンビニの駐車場は怒声と女性店員に腕をねじり上げられている仲間への嘲笑ちょうしょうとバイクの爆音の渦だ。


「あんたら、いつもこの店で万引きしてるらしいね。今日は見逃してやるから明日から来るなよ!」

 仁王立ちとなった京子は周りを取り囲む暴走族を見回して声を上げるが、先程腕をねじり上げられた奴が「うるせえんだよ!」と叫びながら殴りかかってきて、そのまま逆に吹き飛んでいった。

 何が起こったのか分からず、一瞬辺りが静かになる。

 多分早すぎて見えてないだろうが、京子の腕が一瞬獣人の腕となって相手の胸ぐらを掴んで放り投げたのだ。


「なめんじゃねえ!」

 今度は別の奴がバイクに乗ったまま突っ込んでくるが、京子の前でバイクがピタリと止まった。後輪のタイヤが空回りして、もうもうと煙が上がっている。

 京子が片足を前に出して正面から突っ込んできたバイクの前輪を止めているのだ。そのまま軽く蹴り出すと、バイクはそのままの姿勢で10メートル程後ろに滑っていく。

 バイクが後ろに滑っていくという、あり得ない光景を見て、ようやくそこにいた全員がとんでもない相手にケンカを売ったことに気がついたようだ。


「やべぇよ。皆んな行くぞ!」

 誰かがそう言うと、一斉に暴走族のバイクは逃げ出した。

「リュウジ!」

 俺が合図を送ると、隆二が地面に召喚の魔法陣を描いていく。そして隆二が「行け!」と言うと、魔法陣から飛び出した黒いドロドロした物体が暴走族の一人一人の背中に飛びついていった。暴走族達は、その黒いドロドロを背中にくっつけたまま走り去って行く。


「うひゃー、凄かったでヤンス。ところで、あの最後の黒いドロドロは何でヤンスか?」

 いつの間にかヒッキーが横に来ていて隆二に聴いている。

「ああ、あれはナイトメアって言うモンスターなんやけど、取りついて悪夢を見せるだけの雑魚モンスターや。今夜はコンビニの悪夢を見るやろうから、もう当分コンビニには近寄れへん」

 ヒッキーは「おおう」と感嘆の声を上げた。


………


 数日後、美術部の神谷部長は、暴走族達がコンビニに現れなくなって、万引きの被害が無くなった事を大喜びで報告してきた。

「本当にありがとう〜。皆んなには感謝してもしきれないわ。約束どおり表紙絵描くわね。それで、どんな小説なの? 読ませて」

 神谷部長の報告を微笑ましく聞いていたが、そういえば小説はまだ一文字も書けていない。

 何か達成したような気でいたが、これから始まりである事に全員が気づいたのだった。


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