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1ー5 中間テスト

「あさって水曜日から中間テストが始まります。皆さん一夜漬けで何とかしようと思わずに、試験の前日はしっかり睡眠を取って体調管理を心がけてください」

 ホームルームの時間に担任の山井先生がクラスの皆んなに呼びかけている。


「「「「はぁ〜」」」」

 俺たちはいっせいにため息を吐いた。


「もう絶対無理だよね」

「ああ、無理やろな。下手したら0点ちゃうか」

「0点はイヤー!」

「……」


 そう、俺たちは異世界から10年ぶりに帰ってきたとこだが、あさって中間テストらしい。そんなの無理ゲーでしょ。10年前に勉強してたとこなんて何も憶えてないし。


「あたし〜、今度の中間かなり勉強してたと思うんだよねー。10年前だけど」

 俺たちは京子をジト目で見る。

「何よその目は? だって昨夜ママが『キョウコちゃん今度の中間は随分とお勉強を頑張ってたね〜』って言ってたもん」

「それを親に言われて『あたし勉強してたんだ〜』って思うあたりで何も憶えてない事が明らかだぞ」


「そやけど、テストで0点なんて、いかにも青春してます〜って感じやな」

 隆二が若干じゃっかんうれしそうに言う。

 そうなのだ、俺たちは体は高校生でも中身は27歳の大人なので、この状況も楽しめてしまうのである。むしろ異世界で過酷な環境に身を置いているときなどは、学校の勉強やテストが無性に懐かしかった。


「異世界で命のやり取りしてた事を考えると、テスト勉強って言葉だけで幸せになるな」

「そやな。10年前はテストって聞くだけでゆううつやったけど、学園生活が失われて初めて幸せやったんやなぁ〜って感じるものやな」

 京子も敏夫も頷いている。


「よーし、今度のテストは皆んなでそろって0点取ろうぜ!」


 俺がそう言って右手の拳を高々と上げるが、誰もついてこない。

「あれ? ここはオー! って続くとこだと思うんだけど?」

「セイヤは0点でいいかもしれないけど、あたしはイヤよ」

「俺もイヤやな」

「……僕も」


「おいおい、俺たちクラスの落ちこぼれだろ? 0点でいいじゃん」

「セイヤは忘れたんか? 確かに俺たちは落ちこぼれ四人組とか呼ばれてるけど、別に俺らは勉強できへん訳じゃないからな」

 勉強ができる落ちこぼれがいるのだろうか? それはいったい……

「セイヤはテストでいつも20〜30点くらいやったけど、俺はだいたい50点はいくで」

「あたしもそれくらい」

「僕は60点くらいかな」


「え? じゃあ何で落ちこぼれ四人組なんて……」

「それはアホのセイヤと一緒にいる四人組やから落ちこぼれ四人組やったやないか」

 隆二から身も蓋もない言葉がかけられる。


「そんなバカな。ハハハ、冗談だよねぇ」

 しばらく待ったが、誰もそれを否定しない。という事は、皆んなの記憶の中の俺はアホな子だったようだ。


「大阪弁でアホって言われると傷つくんだけど……」

「じゃあバカ」

 京子がさらに身も蓋もない事を言う。


「やっぱりアホで結構です……、と言うかちょっと待って。元々アホの子だったのに、この上さらに0点をとるなんて最低のアホになってしまう」

 隆二が「アホの中にさらにランク付けがあるかは知らんけど」と呆れ顔で言う。

「異世界では勇者と呼ばれてたのに、現実世界で最低のアホと呼ばれるなんて、ゆるし難き問題だ! 今日の放課後は部室で緊急対策会議を行う事とする!」


………


 例の火事になった校舎の三階の秘密の部室ぶしつで四人揃うと、中間テストの対策会議が開かれた。


「中間テストがあさってに迫っていて勉強する時間が本当に無い。そこで、皆んなからアイデアを募りたい。それぞれの異世界の経験から、頭が良くなる魔法とか、賢者がらみのアイテムとか思い当たる人〜?」


「……」


「ふむ、心当たり無しか。ならば勇者の力を使って、テストの答案を今夜のうちに見に行くしかあるまい。職員室の金庫にしまってあると噂だが、俺たちの力を結集すれば何とでもなるはず」

「勇者の力をそんな事に使うのはイヤよ」

「俺もイヤやな」

「……」

 敏夫は無言であったが、首を横に振っているから反対なんだろう。


「じゃあどうすんだよ? このまま0点をとって、最低のアホと呼ばれるのを受け入れろと言うのか? ちょっとは勇者特典とかあってもいいじゃないかー!」

「まぁまぁ、気持ちは分かるがしゃ〜ないやないか。例え、セイヤが史上最低のアホと呼ばれても俺たち仲間やで。なぁみんな」

 京子と敏夫が頷いて同意している。何気にさらに酷く言われたような気もするが、それは置いとこう。


「はぁ〜、受け入れるしか無いのか……。あぁ〜『精神と時の部屋』があればなぁ」

「何やそれ?」

「あれ、知らないの? 某有名マンガに出てくるやつで、その部屋の中の時間は、外の世界の何倍も早く進むんだ。そのマンガの主人公達は、何か強い敵が現れると、そこで修行をして強くなるんだ。それがあれば、今からでも何日も勉強できるんだがなぁ」

「それやー!」


 隆二が突然大声を出すから驚いた。


「つまりや、俺たちの力を使って精神と時の部屋を作ればええやん。それに、そこで勉強するんやったらズルじゃないしな」

「いやいや……本気?」

「あの〜マンガの話を本気にされても困るんだけど」

「……」


「勇者が四人もそろってれば、できるやろ。まずはヒントがほしいとこやな。精神と時か。まてよ、時は分かるけど精神ってなんやねん」

「ああ〜そう言えば、時間が早く進む部屋だから時は分かるよね。精神に何か作用する魔法みたいなものかな?」

「ほうほう、何となく仕組みが分かってきたぞ。さては、実際に時間が早く進む部屋じゃなくて、精神を覚醒させて超高速で思考や行動ができるようにするって事やな」

「おー、何かそれっぽくなってきた」

「よーし、今夜は徹夜で研究するでー!」


 盛り上がる俺と隆二を横目に、京子と敏夫は教科書をカバンから取り出している。

 京子は「あたしらは勉強するけど、何か出来ることがあれば言ってねー」と言っているから、協力はしてくれそうだ。


………


「できたー!」

 ついに徹夜での研究の成果で、精神と時の部屋が完成した。と言っても、ここは部室ぶしつなのだが。

 部室の床には巨大な魔法陣が描かれている。


「これで、この魔法陣の中では精神が覚醒して、時間が早く進むように感じるはずや。セイヤとキョウコの魔法も組み合わせると、その効果は最大でえーと、俺の計算では10分で3日程度の時間になるな。」

「おおう。じゃあ、時間もないし、さっそく使ってみようか」


 そう言って、最初に俺が試してみることになった。

 まず敏夫がもしものために部室全体を魔法の防御壁で囲み、京子が俺に肉体強化の魔法をかけたら、隆二が魔法陣を起動して、俺がオーバードライブの魔法で加速する段取りだ。

 すでに京子は獣人に、敏夫はゴーレムを装着して、隆二はエルダーリッチの姿になってそれぞれ魔力を練り始めている。俺は聖鎧を纏うと、魔法がかかりにくくなるから、学生服のままだ。


「トシオ、始めてくれ!」

 敏夫のゴーレムが部室全体を囲むように魔法の防御壁を展開する。これで仮にこの魔法陣が暴走したりして爆発しても、外部には何ら影響はない。


「次キョウコ!」

「どうなっても知らないわよ! ブースト!」

 京子の魔法によって、俺の体が金色に輝き出した。これで少々ムチャな行動にも対応できる。


「次は俺やな。魔法陣起動!」

 魔法陣から緑色の光が溢れてきて、俺の体を包んでいく。からの間髪をいれずに「オーバードライブ!」と高速化する魔法を唱え、全身が白い光に包まれていった。


………


 10分後、俺は部室の魔法陣の上で横たわっていた。

「セイヤ、セイヤ! 大丈夫か?」

 隆二達に揺さぶられて、俺は目が覚めた。

「ああ、ようやく魔法が解けたか…」

 俺は疲れた体を起こし、ため息を吐く。ちなみに、辺りに教科書がビリビリになって散乱しており、俺の学生部もあちこち破けている。


「これは、どういう事やねん。魔法は失敗やったんか?」

「いや、成功した。完全に成功したよ。でも、その結果どうなるかまでは予測出来なかったという訳だな」

 皆んな頭をひねっており、京子が「どういう事?」と聴いてきた。


 俺は「つまり、こういう事さ」と言い、10分前からの長い出来事を語って聞かせた。


 俺はオーバードライブの魔法を発動した後、周りの時間の400倍を超える速さの中にいた。

「やったー、成功だ〜!」と喜んだものの、やたら周りが薄暗い。

 俺は迷わずライトの魔法を発動した。これは夜や洞窟の中を移動する際に重宝する魔法で、周りがパーッと明るくなる。はずだったが、波のような光がフワ〜、フワ〜っと薄暗く辺りを照らすだけだ。


「なんだよ、薄暗いなぁ〜? えっ、もしかして?」

 そう、俺の思考や体は、光のスピードが遅く感じるほど超高速の世界にいたのだ。


「かなり薄暗いが、まったく見えない程ではない。しょうがない、これで勉強するか」

 俺は床に置いてある学生カバンに手を伸ばしたところで『ビリッ』と制服のどこかが破れた音が。

「オオ〜ッ、どっか破れた?」

 どうやらカバンに伸ばした右手の脇が破れたようだ。ちなみに、破れた箇所を探してあちこち見た際にも、脇腹のとこや袖などビリビリ破けていく。


 つまり、普通の服はこの400倍のスピードで動く事を想定していないという事か。普通の人がジョギングで走るスピードが時速十キロくらいとされているから、その400倍だと時速四千キロか。ざっくり俺のスピードがマッハ三以上だとすると、戦闘機並みの速さだから……やばい、全部バラバラになる。


 そこからは地獄でしたよ。教科書をゆっくりとめくるんだが、一ページ一ページが薄い金箔きんぱくをめくるような作業で、鼻息でページが破れて飛んでいく。だから息を止めてやらなければならない。

 薄暗い中で、細心の注意を払って息を止めて作業していく内に、さすがの俺も性も根も尽き果てたという訳です。


「それで三日間ほとんど寝てたって訳か?」

「うん。それが一番被害が少ないと判断した結果なんだよ。もう教科書もかなり取り返しがつかない有り様だしね」

 俺は周りにビリビリ破けて散らばった教科書をながめた。


 敏夫が「……急がば回れって、この事だったね」とボソリと言う。

 中間テストは明日に迫った。この瞬間に、今夜も徹夜が決定した。


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