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1ー3 勇者達の部室

「やはり、私たちだけの部室ぶしつが必要よ!」

 京子が机をバーンと叩いて、俺達に訴えかけてくる。

 休み時間の教室は、ザワザワとしており、落ちこぼれ四人組の会話など誰も気に留めはしない。


「それはキミの昨日の失態は、部室が無かったせいだと責任転嫁しているように聞こえるが」

 俺がそう突っ込むと「いーや、キョウコの言うことにも一理ある」と隆二が言い出した。


「俺たちの会話は、この世界の常識から大きく離れとる。そんな話を誰かに聞かれたら、ややこしくなるのは明らかや」

「でしょ、でしょう! だから私たちだけの部室が必要なのよ」

 京子と隆二が意気投合している。敏夫を見ると、ウンウンと頷いているから二人の意見に賛成のようだ。


「しかし、部室って言ったって、何の部の部室にするんだ? 俺たちだけの部室にするって事は、新しく部活動か同好会を立ち上げるって事だろ」

 俺がそう言うと、盛り上がっていた三人が今気が付いたという顔をして、うーんと腕組みをする。


「ハイ! 動物の飼育部が良いんじゃない?」

「却下。小学校じゃ無いんだから、動物なんて飼えないだろ」


「……えっと、ロボット研究会は?」

「うーん、保留で。トシオ以外はたぶんついていけない」


「しゃあないな。ここは俺が……」

「却下」

「まだ何も言うとらんやないか!」

「どうせリュウジの案は、魔法研究会とか魔族愛好会とかだろ」

「ぐぬぬ……」

 俺の指摘はドンピシャだったらしく、隆二が歯ぎしりしてる。


「…。あの、それだったらファンタジー研究会とかどうかな?」

 敏夫がにらみあう俺達に恐る恐る提案する。


「それ良いじゃない! あたし達みんな異世界帰りの勇者なんだし」

「ふむ、じゃあその線で先生に頼んでみようか」


 隆二は「ちぇっ、魔法とファンタジーと何が違うんだよ」とぶつくさ言っていたが、高校生が魔法研究会など始めたら、コイツら頭大丈夫か? と思われること請け合いである。

 そういうわけで俺達は、お昼休みに担任の山井先生に相談に行く事になった。


………


「ヤマイ先生、ちょっと相談したい事があるのですが……」

『ゲホッ、ゲホッ』

 俺達がお昼休みに先生のところを訪ねると、ちょうど先生は野菜ジュースを飲んでいるところで俺達が突然現れたせいでむせている。


「あっ、お食事中ですか? 出直して来ますけど」

「いっ、いや、大丈夫です。昼食といってもこの野菜ジュースだけだから」

 山井先生は、いつも病み上がりの様な顔をしており、見ているこっちが心配になる。髪もいく分さみしくなってきており、そちらも心配だ。


「実は、今度僕達四人でファンタジー研究会を作ろうと思いまして」

「ほうほう、それはいいじゃないですか。私も君たち四人はクラスに馴染めないんじゃないかとか、心配してたんだよ。先生も応援するよ」


「ありがとうございます。つきましては、ファンタジー研究会、略してファン研の部室がほしいのですが」

『ゲホッ、ゲホッ』


 山井先生は、ふたたび咳き込むと、申し訳なさそうな顔で「それはムリ」と小さく言う。


「ちょっと先生、何でそれはムリなんですか?」

 京子が声を荒げて前へ出てくるので、慌てて押し戻した。

「本当に申し訳ないのだけど、一昨日の火事で美術部や吹奏楽部とかの文化系クラブの部室が燃えちゃって、まずはそちらの部室の確保だけで手一杯なんだよ。新しい校舎を作るのにも予算が来年度以降になりそうだし」


 なぁるほど、既存のクラブの部室もままならないのに、思い付きで立ち上げたクラブの部室までは無理という事か。山井先生は、さかんに君達を応援してると繰り返していたが、これはしょうがない。


………


 教室に戻ってきた俺達は、ふたたび部室の確保に頭を悩ませる。

「トシオのストレージとかいう異空間に部室は作れないの?」

「そ、それはムリ。ストレージには生き物は入れないから」


「学校で用意できないなら、俺たちで部室を作るしかねぇな」

 隆二が妙な事を言い出した。まぁ確かに、勇者が四人もいれば部室くらいすぐに作れそうだが。


「そんな事言ったって、部室を作る場所が無いじゃない」

 京子の指摘ももっともだ。


「あるじゃないか。とっておきの秘密の場所が」


………


 放課後、俺達は燃えた校舎の一階に来ていた。


「えーっと、リュウジの言うとっておきの場所ってココかな?」

「そう、俺たちだけの誰にも邪魔されないとっておきの場所やろ」

 隆二は自慢げに胸を張るが、一面焼け焦げており、とても部室など作れそうにない。


「ただの廃墟じゃない。私クサイのダメなんだけど」

 獣人のスキルで鼻がきくせいか、京子は鼻をつまんで嫌そうにしている。


「何やねん、みんな。俺がエルダーリッチやって忘れたんか?」

 俺達が頭をひねっていると、隆二が異空間収納から黒い宝玉の様な物を取り出した。


「これはダンジョンコア言うてな、これを設置すると、その設置された場所はダンジョン化するんや。この燃えた校舎は、どうせ誰も来ないやろ? だったらダンジョンにして、俺たちだけが過ごしやすい空間を作るワケや」

「「「おおーー!」」」


「ダンジョンコアの設置場所は、ダンジョンの最奥に決まっとるから、えーっと三階が良さそうやな」

 隆二はそう言うと、とっとと燃えた校舎の三階に登って行き、俺たちも後に続いた。


「ほな設置するで〜」

 隆二は、三階の教室の教卓らしき残骸の上にダンジョンコアを設置すると、俺たちの周りにゴブリンやオークなどの魔物が突然現れた。


「チィ!」

 俺は瞬時に聖鎧をまとい腰の聖剣をさやから引き抜き、京子は獣人化して攻撃の構えをとり、敏夫はアメコミのヒーローみたいなフルアーマータイプのゴーレムを装備する。


「ワー、待って待って! コイツらはダンジョンコアが生み出した魔物で、俺たちには攻撃してこないから」

 隆二が慌てて、俺たちを止めに入る。


「ふぅ〜。ホンマに、勇者は問答無用で殺しにくるから恐いわ」

 隆二はぶつぶつ言いながら、ダンジョンコアを操作し始めた。

 ダンジョンコアは、黒板があった壁にスクリーンを投影しており、どうやらこれでダンジョンの設定ができるようだ。


「まずは認識阻害の魔法で、外から中は見えないようにして、ゴブリンやオークを使って校舎の中の清掃やな」

 隆二はダンジョンコアを操作すると、ゴブリンやオークがテキパキと清掃や焼け焦げた残骸を運んでいく。


 一時間もしないうちに教室はすっかりキレイになり、ソファーやテーブルも備え付けられて秘密基地の様になった。


部室ぶしつサイコー!」

 京子がソファーに腰掛けて、コブリンの用意した冷たい飲み物を飲みながら言う。

 みんなリラックスしていて、ここが学校の中とは思えない。


「後は、侵入者への対応やな」

「侵入者への対応って、さすがにゴブリンやオークにおそわせるのはまずいぞ」

 俺の指摘に隆二は頷き「じゃあ一階はゴーストでいこうか」と言いながらダンジョンコアを操作する。


「ゴーストって幽霊のこと? あたし幽霊ダメなんだけど」

「大丈夫。ゴーストは姿が見えないし、『ゴトッ』とか『ガタッ』とか音を立てるだけだから」

 隆二はダンジョンの設定をしていく。


「それで二階まで来たら、憑依系ひょういけいの魔物で理科室の標本とか音楽室の物を使っておどかして……、もしも、この三階まで来たら転移魔法でお帰りいただくと」

 そうして、ダンジョンの設定は終わり、今日はもう帰る事となった。


………


 聖也達四人が帰って薄暗くなった頃、燃えた校舎の入り口に鬼塚とその取り巻き五人の姿があった。


「オニヅカくん、やめようよ」

 鬼塚の不良仲間が鬼塚に言う。

「ビビってんじゃねえよ。お宝が眠ってるかもしれないんだぞ」


 鬼塚達は、火事で燃えた校舎に残った備品を持ち出して、ネット販売するつもりだった。

「なぁオニヅカくん、盗んだ物をネット販売しても、すぐバレるんじゃねえの?」

「そこは心配いらねぇ。そもそも何が残って何が燃えたか分かんねぇし、ネット販売の方も、俺のダチが絶対にバレない方法でやるって言ってるからな」


 そうして、鬼塚達が燃えた校舎の薄暗い廊下を進んでいくと、ダンジョンコアが侵入者を感知した。


『ゴトッ』


「ひっ? 何か音がした」

「ビ、ビビってんじゃねぇよ。風で何か動いただけだ」


『ガタガタッ』


「き、今日は風が強いな」

「あ、ああ、本当に風が強いな」

「でもさあ、さっきまで風なんか吹いてなかったぜ」

 冷静に答えた一人を「それを言うなー!」と言いながら全員でボコる。


「風なんかは急に吹くもんだ。でも、一階は気味悪いから二階に行こうぜ」

 鬼塚らは、大声で気を紛らわしながら急ぎ足で二階への階段を上がって行く。


「おい、何かピアノの音が聞こえねえか?」

 二階の薄暗い廊下の先、音楽教室の辺りからピアノをひいている音が聞こえてくる。


「何だよ、誰もいねえと思ってたら、吹奏楽部の奴らがピアノの練習してるよ」

 鬼塚らは「何だよおどかすなよ」などと口々に言いながら、気持ちを持ち直して音楽教室の入り口の扉を開いた。


「お前ら何やってんだよ。部活は禁止だろ…」

 音楽教室の中は真っ暗で、その真っ暗な中で誰かがピアノをひいている。誰かがいる気配がするが、暗くてよく見えない。


「お、おい。ピアノをひくのを止めろよ。き、聞こえないのか?」

 しかし暗がりにいる誰かはピアノの演奏を止めず、ついに全部ひき終わってしまった。


「「「ブラボー!」」」


 鬼塚達とピアノをひいている奴しかいないと思われた教室から、大勢の人々の歓声が沸き起こる。

「ひっ? だ、誰だ…」

「オニヅカくん、あ、あれ!」

 鬼塚らの一人が震える手で教室の壁を指差している。

 そこには、どこの音楽教室にでもあるベートーベンやバッハ、モーツァルト達の上半身の絵があった。そう、どこにでもある音楽家達の絵だ。ただ、その絵の中の音楽家達が拍手喝采している事を除けば。


「「「「「「ワアーーー!!」」」」」」


 鬼塚達が腰を抜かしたところでピアノのイスが『ガタッ』と音を立ててひかれた。

 そして、ピアノの向こう側からゆっくりやってきたのは、理科室によくある右半身が裸で、左半身が内臓が見えている人体模型であった。


「「「「「「ワアーーー!!」」」」」」


 鬼塚達は、われ先にと教室を出ると、階段へ向かって薄暗い廊下を全力で走る。

 途中、足のもつれた何人かが転がって後ろを振り返ると、人体模型を先頭に骨格標本や美術室の石膏像が追いかけてきている。

「ワアー! ま、待ってくれ」


 そうやって階段まで命からがらやってくると、一階からは調子に乗ったゴーストによる『ドドーン、ガガーン!』という、とんでもない騒音が聞こえてくる。


「さ、三階へ逃げよう!」

 そして鬼塚達は階段を三階へ上がった行ったところで転移魔法が発動し、校舎の入口に全員転移した。


「ワアー! オバケだ、オバケがでたー!」

 鬼塚達は口々にそう叫びながら逃げて行った。


 その後、この話は学校の七不思議に加えられる事になり、誰もこの校舎に近付く者はいなくなった。


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