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1ー2 勇者の居場所

 翌日の学校は、昨夜の火事の話で持ちきりだった。

 変なコスプレした人に助けられたとか、大きなロボットがいたとか。昨夜の出来事は、荒唐無稽こうとうむけいな出来事として、たぶん学校の七不思議に加えられる事だろう。

 だって誰もその正体を知らないんだから、俺達以外には。


 放課後、俺達は校舎の屋上に集合していた。

 青空の下、爽やかな風が校庭の若葉を揺らし吹き抜けていく。

 さいわい屋上には、俺たち以外の生徒は居ない。


「それじゃあ俺から話すよ」

 俺はそう言うと、異世界に召喚されて勇者となって魔王を倒した事、昨夜10年ぶりにこの世界に戻ってきた事を手短に説明した。


「そうか、セイヤも苦労したんだな」

 隆二が俺の肩に手を置いて慰めてくれる。


「次はあたしね」

 続いて京子が語り出した。

 京子は、ちょっと元気が良すぎる女の子だ。正義感が強くて黙っていられない性分なので、クラスの女生徒達から嫌がられている。


 京子の話によると、京子も俺と同じように異世界に召喚されて勇者となったらしい。

 ただ、俺と違うのは、京子は獣人の国に召喚されたとのこと。

「びっくりしたわよ。召喚されて周りを見ると獣人だらけなんだもん」

「へぇ〜。向こうも人間が召喚されて驚いたんじゃないか?」

「それが、召喚魔法で人間が召喚される事は時々あるらしくって、あまり驚いてなかったわ。それに、異世界転移の際に、獣化のスキルが与えられていてあたしもすぐに獣人になれたしね」


「ところで、獣人達は何の用があって京子を召喚したの?」

「獣王国を侵略しようとしていた人族から守るためよ。あいつらひどいのよ! 獣人を奴隷にして売買してんのよ。特に女性の獣人達の扱いがむごすぎるの」

「あ〜分かるわ〜。基本、異世界の人族は悪魔みたいな奴らやからな」

 隆二が合いの手を出してくる。さては、こいつの世界も人族が敵だな。


「最初は、人間が相手って嫌だなぁって思ってたんだけど、だんだん人族のひどい部分を見て考えを変えたの。こいつらこそ悪魔だと。それからは、ボコボコにやっつけてやったわ」

 京子が鼻息荒く話すので「こっちで同じように人族をぶっ飛ばすなよ〜」と一応釘は刺しておいた。


「じゃあ、次は…僕かな」

 続いて敏夫が話しだした。

 敏夫は、非常に内気な性格で、普段からはっきり意思表示をしないので、イジメの対象となりやすい。


「僕は、ドワーフの国に召喚されたんだ」


 敏夫は、ドワーフの国に召喚されて勇者となったらしい。

 そこでのドワーフの戦い方は、ゴーレムに搭乗して魔法を使って攻撃するそうだ。なにそれ、カッコいい。


「ドワーフはゴーレムを作るのは得意だけど、操縦は苦手だったんだ。僕は、よく家にこもってゲームしてたからロボットの操縦が得意な上、魔力も他のドワーフ達より大きくて…」

「それで、ドワーフ国の勇者と呼ばれたと。そのドワーフ国の敵は?」

「こっちの敵は、魔王だったよ。人族の国と協力して戦ってた」

 俺の質問に敏夫が答える。良かった、人族ばかりが敵じゃ肩身が狭くなるとこだった。


「そういえば、あんな大きなゴーレムどこから取り出したの?」

「ああ、異世界に転移した時にストレージのスキルを得たんだよ。皆んなは持ってないの?」

「「ストレージ?」」

 敏夫の話に俺と京子が同時に聞き返す。


「ふむ、つまり空間収納魔法みたいなやつやな?」

「リュウジも持ってるの?」

「ああ、あまり大きくはないが、異空間に物を置いとけるスキルや。あると便利やで」


 そんな便利な魔法は俺の異世界には無かった。うらやましい。

「でも、あんな大きなゴーレムなんて、あまり街中では出せないな」

 俺がそう聴くと「小さいのもあるよ」と敏夫が答え、次の瞬間、敏夫はアメリカのコミックに出てくるような金属のフルアーマータイプの装備で身体がおおわれていく。


「「「なにそれ? カッコいい〜!」」」


 大きいゴーレムは、一旦ストレージから取り出してから乗り込むらしいが、小さいのは装備するタイプらしい。うらやましすぎる。


「ほな、最後に俺やな」

 最後に隆二が話しだした。

 隆二は、一年生の時に大阪の高校からうちの高校に転校してきたんだけど、大阪弁のせいか周りとなじめずに俺たちと一緒に行動する事が多くなったのだった。


「皆んなの異世界転移の話を聞いてて思ったけど、俺のが一番ハードやったな。なんせ俺が召喚された時に周りに居たのは魔族やし、目の前には魔王様がおったからな」


 どうやら隆二は魔族に召喚されたらしい。普通の高校生が突然魔界に召喚されるなんて、どんな罰ゲームだよ。


「すると魔王様が『異世界からの勇者よ。名を何という?』と聴いてきたんや」

 どうやら、魔界の勇者も人族で問題無いようだ。


「そこで『俺は、エダ リュウジ やー!』って答えたんや。すると魔王様が聞き間違えたのか『何と、エルダーリッチとは素晴らしい!』と言われて、エルダーリッチ化するスキルが与えられたっちゅう訳や」

 隆二が胸を張ってそう説明するが、すかさず京子から「しかし、エダリュウジでエルダーリッチに聞き間違えるって、ちょっと遠くない?」とツッコミが入る。


「いや、そこは正確では無いんやけど…、正確には『ウェッ…えっ…だ…りゅっ…っじ…ですヒック…』っていう感じやった」

 どうやら泣きながら答えたらしい。


「と、ともかく、そうして俺は魔族の勇者として人族と戦った訳や。ちなみにエルダーリッチは魔法が得意やから、そこんところヨロシク」


 少々締まらない話となったが、これで全員の異世界話はおおむね分かった。

 驚くべき事に、四人とも夕べの晩に異世界に召喚され、それぞれ勇者として10年を過ごして、同じ時間、場所に元の姿で戻ってきたという事らしい。

 そんな偶然がと思うところであるが、現実に起こったのだから受け入れるしかない。


 皆んなで、それぞれ苦労したんだなぁと慰めあっていると、突然、屋上の扉が『バーン!』と勢いよく開かれた。


「何だ〜? 誰がいるのかと思ったら、五組の落ちこぼれ四人組じゃあねえか」


 突然現れて威嚇いかくしてくるこいつは、同じ二年の隣のクラスにいるワルで、確か鬼塚という男子生徒だ。

「あたしらがどこに居ようと勝手でしょ!」

 さっそく京子が売り言葉に買い言葉で答える。そういうとこだよ、キミの悪いところは。


「はっ、お前らを見てるとイライラすんだよ! 痛い目にあいたくなかったら、早くどっか行けよ!」


 鬼塚は、よせばいいのに京子に怒鳴りながら蹴りを入れようとするが。

『ドスッ、バタン』


「あ〜あ、やっちゃった。俺たち勇者なんだからダメじゃない」

 俺は、京子のボディーブローを受けて倒れている鬼塚を見ながら言うと、京子が横を向く。

「弱いくせに突っかかってくるこいつが悪いのよ」


 ふむ、勇者のくせに反省の様子は無い。

 鬼塚は、白目をむいて泡を吹いて倒れているんだが、このままではまずいのではないか?


「学年でも有名なワルの鬼塚を一発で仕留めた、なんてヤバいんちゃう?」

 隆二も同意見のようだ。


「と、とにかく、何とかして偽装できないかな?」

 敏夫も心配そうだが、京子はそっぽを向いたままだ。


「まぁ、こういう事なら俺に任しとき。魔法で記憶を消しとこう」

 隆二はそう言うと、右手だけエルダーリッチの骸骨の手にして、鬼塚の頭上にかざした。

 すると鬼塚の頭上に、3Dの映像が浮かび上がる。


「「「おお〜」」」


「これは、鬼塚の記憶を呼び出して映像化したものや。これで、さっきのシーンを消してやると、きれいさっぱり記憶が無くなる」


 鬼塚の頭上の映像には、鬼塚が体育館裏を歩いてどこかに向かっている様子が映っている。


「おっと、巻き戻しすぎたか。もうちょい先かなぁ」

「ちょい待ち!」

 隆二がビデオの映像を確認してるみたいに話すと、京子が待ったをかける。


 映像の中の鬼塚は、体育館裏沿いに女子更衣室裏まで進み、なんと女子更衣室の壁に開いた隠し穴から中を覗きスマホで撮影を始めた。

 しかもそこには、うちのクラスの女子生徒のお着替えシーンが?

「「「おおー!」」」

「何見てるのよ!『バリッ!』」

「「「ああ〜!」」」


 京子は、鬼塚の頭上の映像を獣人化した右手で引き裂くと、映像には無残な爪痕つめあとが残った。

 鬼塚はビクンビクン痙攣けいれんしている。


「何すんねん! 記憶がむちゃくちゃ傷付いたやん。こらヤバイぞ〜」

「リュウジ、戻せるか?」

 慌てる隆二に治せるか聴いてみるが「もう無理や。多分この辺りの記憶にネガティブな影響が出るやろうな」と残念なお知らせが。


「と、とりあえず俺達と会った記憶を消して、早くズラかろう」

 俺は隆二にそう促して、鬼塚の記憶とスマホの映像消去を急ぐ。


『バタン!』

 すると間の悪い事に、屋上の扉が開いて新たな生徒がやって来た。


「あれ? 君たちは確か五組の…」

 そこに現れたのは、理系トップクラスのイケメン白鳥君だった。


 俺達が慌てて鬼塚を介抱しているフリをすると「そこに倒れているのは鬼塚くんかい?」と言いながら近寄ってくる。ええい、やっかいな事になった。


「僕達が来た時、すでに鬼塚くんは倒れていて、保健室に連れて行こうか話してたんだ」

 俺がすかさずそう言うと、白鳥くんは「それなら僕が連れて行くよ」と言い出した。


 白鳥くんは、なぜか僕達が手伝うというのを断って、一人で鬼塚を立たせて保健室に連れて行ってしまう。

 イケメンは、顔だけでなく心までイケメンのようだ。


………


 白鳥は保健室に鬼塚を連れて行くと、保健室のベッドに乱暴に鬼塚を放り投げた。保健室には二人以外誰もいない。


「何で五組の落ちこぼれ共に介抱されてんだよ。何があったんだ?」

「すまねぇ。屋上に上がってから記憶がねえんだ。どうして倒れてたか思い出せねえ」

 鬼塚は、ひどく疲れた様子で白鳥に言い訳をする。


「ふん、まぁいい。ところで、いつものやつを転送してくれ」

 白鳥がスマホのBluetooth機能を使って鬼塚のスマホとつなぐと、鬼塚は自分のスマホを取り出して、撮影した動画を探し始めた。


「無い? 撮影したデータが無くなってる!」

 鬼塚の慌てた声が保健室に響いた。


「無いって、どういう事だよ。本当に撮影したんだろうな?」

「そりゃ間違いねえよ…、あっ? ああー!」


 鬼塚は突然奇妙な悲鳴を上げると、ガタガタと震え出した。

「何だよ? 変な奴だな。どうしたんだよ、そんなに震えて」


 白鳥がガタガタ震える鬼塚に声をかけるが、鬼塚は「よく分からねぇが、ライオンかトラの様な…恐ろしい」と言うばかりである。

 まるで猛獣に襲われたような事を繰り返すが、そんなわけは無い。どうやら、何か強いショックを受けたようだ。


「チッ、どこの誰か知らんが、俺の大事な収入源を潰しやがって。許さねぇぞ!」

 今の白鳥からは、イケメンとは程遠い裏の顔がのぞいていた。


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