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3ー2 登山大会

【第一回予算争奪戦について】

◯競技種目……登山

◯ルール……1チーム5人とし、頂上で全員で記念写真を撮って一番早く帰ってきたチームを勝者とする

 なお、各チームの代表者である生徒会の小山内真央おさないまお、資材部の源内大和げんないやまと、ファンタジー研究会の鈴木聖也すずきせいや、帰宅部の鬼塚勇おにづかいさむは必ず参加すること

◯実施場所等……9月下旬に学校行事として行われるゴロゴロ山登山にて実施

◯獲得予算……全予算の5分の1とする

 以上


 俺たちは美術部の部室にて、生徒会からの予算争奪戦の案内状を弱小文化系クラブの部長達と一緒にながめている。

 ファン研は、部室が無い事になっているため、美術部の部室に集まっているのだ。


「いよいよきたわね。やっぱり体力勝負のイベントだったわね」

 美術部の神谷部長がため息混じりに案内状から顔を上げた。

「いきなりだけど、ファン研の皆んなにお願いできるかしら?」


「まかしといて! 野山を駆けまわるのは慣れてるから負けはしないわ」

 京子は当然とばかりに、胸を叩いて宣言する。


「あのぉ、一チーム5人となってるでヤンすが、その5人にはあたしも入っているでヤンすか?」

 ヒッキーかおそるおそる手を挙げて聴いてくる。

 ふむ、夏休み前まで引きこもってたヒッキーに山登り勝負は厳しいかもしれない。

 それでも、夏休みにコンビニの手伝いや畑仕事の手伝いなんかをしてたから、かなり健康的になったとは思うが。


「当たり前よ。あたし達は5人で一組なんだから」

 京子がさも当然とばかりに言うと、ヒッキーはガックリとうなだれていた。

「ヒッキー、今日から体力作りを頑張ろうな。俺たちもサポートするから」

 ファン研は、今日からゴロゴロ山登山まで、体力作りに励む事に決定した。


………


 ゴロゴロ山とは、県内で一番高い山で、学校からバスで登山道入口まで行く事ができる。

 ゴロゴロ山のふもとには、神社がまつってあり、登山者は登山する前に、神社で参拝して登山の安全を祈願するのがならわしだ。


「それでは、各班ごとに参拝が終わったら登山に出発すること」

 体育教師の大河原が声を張り上げている。いつもに増して元気な様子だ。

「なお、予算争奪戦などというバカな事をやる奴らは、別のスタート地点から出発するから、そちらに移動するように」

 大河原は不満なようだが、生徒会がうまいこと他の教師達を丸め込んだらしい。


 神社の拝殿前に生徒達が長い列を作り、次々に安全祈願の参拝を行っている。そこには、小山内おさない生徒会長と白鳥副会長の姿もあった。

「ふむ、この国の神をまつやしろは、どこも簡素な造りじゃのう」

「神社は異世界の豪勢な教会とは違うからな。それに、神社が祀っている神は必ずしも良い神ばかりとは限らん。荒ぶる神をしずめる神社もある」

「確かにそう言われれば、この社の奥深くから不思議な魔物の妖気を感じるわい」

「なに、分かるのか? まさか魔物が生きているのか?」

「安心せい。魔物はもう死んでおる。長らくこの場所に封印されたせいで、命が尽きたようじゃ。未だに残っておるのは、魔物の思念しねんのようなものじゃな」

「そうか。おっと参拝に時間をかけすぎた。急いでスタート地点に向かうぞ」

 白鳥副会長に促されて、小山内会長もスタート地点に向かおうとして、もう一度神社の本殿の方を振り返った。

「人間どもよ、もう許してやるがよい。名も知らぬ魔物よ、封印を解くから成仏じょうぶつするのじゃぞ」

 小山内会長が小さく腕を振ると、その指先がかすかに光ったが、誰も気づく者はいなかった。


………


 一般生徒とは別に、予算争奪戦に参加する四チームがスタート地点に集まってきた。

 登山勝負は、普通に考えれば運動部を多数抱える資材部が有利と思われるが、ルールが代表者を含めたチームとした事で、源内部長が足かせとなって、勝負は拮抗きっこうするのではないかと思われる。

 かく言う我がファン研もヒッキーがいるしな。

 しかし不思議なのは、生徒会も小山内会長がいるから、必ずしも生徒会が有利なルールとは言えないところだ。


 そんな事を考えていたら、生徒会の白鳥副会長が声を上げた。

「そろそろ出発の時間だ。各部用意はいいか? ところで、帰宅部の格好はいったい何の冗談なんだ?」

 鬼塚達のチームは、白いポンポンが付いた山吹色やまぶきいろの着物を着て頭に頭襟ときんを付けた、まるで山伏やまぶしのような格好であった。法螺貝ほらがいを持ってる奴もいる。

「へっ、聞いて驚け。帰宅部の中には普段クラブ活動などせず山伏の修行に明け暮れてる連中がいるんだよ。山登りで山伏に勝てる奴はいねえぜ」


「ちょっと頭痛がしてきた。おや、資材部は姿が見えないようだが」

 白鳥副会長がこめかみを抑えながら辺りを見回して、そう言うと、どこからか『プシュー』という蒸気が噴き出すような音が聞こえてくる。


『ゴッ・ゴッ・プシューシュー!』


「な、何なのじゃあれは!」

 小山内会長が指差す方を見ると、遊園地にあるミニSLの様な機関車が蒸気を噴き出しながらやってくる。

 SLだと急な斜面はすべって登れないはずであるが、SLの車輪にはマネキンのような腕が放射状に括り付けられていて、山道も難なく登ってくる。

 そして、その機関車には、資材部の源内部長達がまたがっていた。


「待たせたな。ちょっと調整に手間取った」

「ゲンナイ部長、そのミニSLみたいな物は何なんだ?」

「以前、物理部の依頼で蒸気機関を試作したことがあってな。これはその時の試作品を改良した物だ。この腕は野球部から、ピッチングマシーンの製作を依頼された時のマネキンの腕だ。右投げ用、左投げ用とあるんだぜ」

「右投げ左投げ、じゃない! 今回の予算争奪戦は登山だと伝えただろ」

「おいおい、登山に蒸気機関を使ってはいけないと誰が決めたんだ。山伏みたいな連中より、よっぽどクラブ活動らしくて良いじゃないか」


 白鳥副会長はプルプル震えていたが、大きく息を吐き出すと「いいだろう」と言うと、いよいよ予算争奪戦の開始を宣言した。

「それでは、各チーム全員で頂上で写真を撮り、ふたたびこの場所に全員で最初に帰ってきたチームの優勝とする。予算争奪戦スタート!」


『ポッポー!』

『ブォーッ! ブォーッ!』

 ミニSLの汽笛きてき法螺貝ほらがいの音が響き渡って、予算争奪戦が始まった。


 真っ先に飛び出したのは、鬼塚達の帰宅部と我らがファン研である。

 その後に生徒会が続き、最後に資材部の乗ったミニSLとなっている。


「オニヅカ殿、このペースでは我らは大丈夫でもオニヅカ殿は頂上まで持たないですぞ」

 山伏の一人が鬼塚にペースを落とすよう助言するが、鬼塚は「うるせえ! とにかく頂上まで一番に行くんだよ。そこで他のチームの写真撮影を邪魔できれば、勝ったも同然なんだ」と言い聞く耳を持たない。

「よく分からぬが、オニヅカ殿に勝算があるのなら、我らは支援するのみ!」

 山伏達の登るペースは上がって行く。

「おれの役目は、頂上でアイツらの邪魔をする事。あとはシラトリが上手くやってくれるはずだ」

 鬼塚はそう小さくつぶやいたが、山伏達には聞こえていなかった。


「ヒッキー、大丈夫か? かなり早いペースだな……、少しペースを落とすか」

「ハヒー、ハヒー。あっしは大丈夫でヤンす」

「ヒッキー無理よ。セイヤ、少しペースを落としてちょうだい」

 京子の指示によって、俺たちは登るペースを落としたため、帰宅部との距離は開いて行き、後ろからは生徒会と資材部が追い上げてくる。


 特に資材部の追い上げは激しく、ようやくミニSLのボイラーが暖まってきたのか、黒い煙と白い蒸気を噴き出し『ゴッシュ! ゴッシュ!』と音を立てながら加速してくる。

 そしてついに生徒会を抜いて、俺たちファン研を抜きにかかってきた。

「おやおや、生徒会もファン研も大したことないな。資材部は体力だけでなく頭も使う、つまり総合力の勝利だ! 次は帰宅部を抜くぞ!」


 源内部長をいまいましげににらむものの、ペースを上げていく資材部のミニSLについて行くのはかなわず、あっという間に抜かれてしまった。


「チッ、しょうがない。しかし生徒会もよく登ってくるな。オサナイ会長はかなり難しいと見たんだが」

 俺たちが後ろの生徒会を見ると、白鳥副会長が小山内おさない会長の両脇を抱えて、ぬいぐるみのように手に持って登ってきていた。

「えっ? そんな登り方ありか?」

 俺が白鳥副会長にそう呼びかけると、白鳥副会長はさも当然とばかりにこちらを見上げた。

「この登山のルールは最初に通知したとおりだ。チーム全員が一緒なら登り方などどうでも良い……が、ゲンナイ部長に逆手にとられたのは誤算だったな」


「そうだっのね。そうと分かればヒッキー、アタシにおぶさりな!」

 京子はそう言うと、ヒッキーの前にかがんで背中を見せる。

 確かに京子は獣人のパワーがあるから、ヒッキーを背負っても何ら問題ない。なんなら俺たちが代わりばんこに背負ってもいいし。


「ハヒー、ハヒー。キョウコさんすみません、よろしくお願いします!」

 ヒッキーが京子の背中に飛び乗ると、京子は何も重さを感じないように立ち上がって、ゴロゴロ山を登り始めた。

「さあ皆んな、飛ばすわよ!」

「こっからが本番やな。資材部と帰宅部を抜いていくで!」

 京子と隆二のかけ声に、俺たちのペースは一気に上がっていく。


 ここで先頭グループでは、帰宅部と資材部のデッドヒートが、繰り広げられていた。

『ゴッシュ! ゴッシュ!』

「そこの山伏達、道を開けろー!」


『ブォーッ! ブォーッ!』

 山伏の一人が警戒の法螺貝ほらがいを吹くと、リーダーの鬼塚に指示を仰ぐ。

「オニヅカ殿、資材部に追いつかれたようですぞ。オニヅカ殿?」

 帰宅部のペースは明らかにオーバーペースであったため、すでに鬼塚の顔色は紫色を越えて、土気色つちけいろになっていた。

「……このまま……ペースを……抜かれるんじゃねぇ……」

「オニヅカ殿、そこまで命をかけるとは……。ようっく分かり申した! みんな、オニヅカ殿を抱えてペースを上げるぞ!」

 そして、鬼塚の両脇から抱えるようにして、さらにペースを上げていく。


「ええい、往生際おうじょうぎわが悪い連中め! ここはボイラーの温度を上げてスピードをあげるぞ!」

 源内部長の指示でボイラーに石炭が投入されたその時、車輪にくくり付けられたピッチングマシーンの腕の一本がポッキリ折れて飛んでいった。

「ああっ? 右のシンカーの腕が折れたぞ!」

「左のフォークの腕も折れました!」

 一本が折れると、次々に連鎖して腕が折れていく。

「ええい、機関停止! 腕を差し替えるぞ」


 そうして、資材部がミニSLを停止して腕の付け替えをしている脇を、俺たちファン研がゆうゆうと追い抜いていく。

「やったぜ、資材部を抜き返したぞ! 次は帰宅部だ!」

 ヒッキーを背負った京子のペースはますます上がり、その目は獲物を狙う野獣のようだ。

 もはや帰宅部も目の前となった。


「オニヅカ殿! 資材部は脱落し申したが、ファン研がものすごい速さで登ってきて……オニヅカ殿?」

 山伏の一人が鬼塚を揺さぶるが、鬼塚は返事をしない。

「ま、まさかこれは……、オニヅカ殿が、即身仏そくしんぶつになっておられる〜〜!」

 鬼塚は、苦しんでいる様子はなく、むしろ安らかな笑顔を浮かべていた。


 俺たちは山伏達が鬼塚をおがんでいる脇を拭いて、ついに先頭に立った。

「ついにトップよ! 皆んなこのままペースを落とさないようにして行くわよ!」

「おう!」

 このペースであれば、もはや俺たちを抜くチームはあるまい。

 俺たちは第一回予算争奪戦の勝利を確信した、その時、ゴロゴロ山全体が地響きを立てた。


『ゴゴゴ……』


 俺たちは登山をストップして、辺りを見回した。

 下を見ると、鬼塚を拝んでいた帰宅部も、ピッチングマシーンの腕を付け替えていた資材部も、生徒会も山登りをストップして辺りを見回している。


「何なのじゃ? 地響きがしておるぞ」

 抱えられている小山内会長が言うと、白鳥副会長も怪訝けげんな表情となる。

「ゴロゴロ山は休火山と聞いているが、まさか噴火するのではないだろうな?」

「噴火じゃと? まさか、魔物の思念が影響したのか?」

 小山内会長が小さくつぶやいたが、白鳥副会長は聞き逃さなかった。


「魔物の思念? きさま、まさか神社でまつっていた魔物に何かしたのか?」

「いや、いや、何もしてないのじゃ! ちょこっと封印を解いただけなのじゃ!」

「それを何かしたと言うのだ! これから登る山の魔物の封印を解くとは、アホか!」

「そんなに怒らなくても良いのじゃ。あんまりかわいそうだったで、ついやってしまったのじゃ」

 小山内会長が涙目で訴えるが、事態が好転するはずもない。

「こうしている場合じゃない。生徒を避難させるぞ! 登山は中止だ、皆んな下山しろ! 急げー!」

 白鳥副会長の指示で、全員が避難を開始した。


 白鳥副会長の声が俺たちのとこにも届き、ファン研、帰宅部、資材部の全員が下山を始めた。

 生徒会の下山の決定が早かったこと、体育教師の大河原先生の誘導の指示が的確だった事から、全ての生徒が落ち着いて下山しているものの、ゴロゴロ山は地響きが続いており、いつ噴火するか気が気ではない。


「ヒッキー、ここまで来れば、みんなと一緒に下山できるわよね」

 京子が背負ったヒッキーを地面に下ろしながら言う。

 俺たちは多くの生徒が下山しているところまで追いつくと、ヒッキーを他の生徒達と一緒に下山するよう促した。


「まさか、皆さんはゴロゴロ山の噴火を止めるつもりでヤンすか?」

「ああ、どこまでやれるか分からないけど、まあ、やれるだけやってみるよ」

「そんな無茶な!」

「ヒッキー、アタシ達は大丈夫よ。私たちは勇者だからね」

 京子がそう言うと、ヒッキーはようやくうなずいた。

「分かったでヤンす。でも、皆さん無理はしないでください。必ず無事に帰ってきてください!」


 俺たちはヒッキーに頷くと、教師や生徒たちに気付かれないように、ふたたびゴロゴロ山を登っていった。


………


 ゴロゴロ山の頂上は、すり鉢状にへこんでいて、もし噴火するとしたらここから溶岩が噴き出すのだろう。

 俺たちは、勇者の姿になって、そのすり鉢の底に直径10メートル程の魔法陣を描くと、その周りに等間隔に立っている。


「そしたら、これから極大魔法を始めるで!」

 隆二のかけ声に、全員が頷く。

「段取りの確認やが、トシオがマグマの状況を確認して、魔力水を用意」

 敏夫が大型のゴーレムの胸部ハッチを開いて、パネルを操作している。

「溶岩までの距離……千メートル」


「セイヤとキョウコは、魔力水へ魔力を込めてくれ。そんで俺の呪文が終わって合図したら魔法陣の真ん中に魔力水を吹きかけてくれ」

「ねえ、この魔力水って必ず口に含まなきゃならない訳?」

 京子が不満そうに魔力水の入った瓶を片手に隆二に聴いてくる。


「ああ、魔力水は口に含まないと大して魔力が込められへんからな。極大魔法は大量の魔力が必要やから、これは絶対や!」

 俺と京子は、敏夫から渡された魔力水をしぶしぶ口に含む。


「ようし、これで準備できたな。それじゃあいくで極大魔法呪文!」

 俺と京子は魔力水を含んだ口をぐっと閉じて、大きく頷いた。


「じゅげむじゅげむ、五劫ごこうの擦り切れ……」

『ブフ〜〜!!』

 俺と京子は、魔力水を大きく噴き出した。


「なんや? 魔力水を噴き出すのが速すぎるで!」

 俺と京子は激しくむせながら、隆二に詰め寄った。

「噴き出すに決まっとるわ! 『じゅげむじゅげむ』って落語にある長い名前のやつだろ?」

「そやけど?」

 隆二は、それの何が問題かとエルダーリッチの首を傾げる。


「何で極大魔法の呪文が、落語のじゅげむなのかってことよ!」

 京子も俺と一緒になって隆二に詰め寄った。

「そんなん、呪文を覚えられへんからに決まってるやろ? あっちの呪文なんて『オームアボギャーバイローキャーナー……』とかいうのが、延々と続くんやで。しかも言葉の内容に大した意味はあらへんのやで。魔力を高めるために唱えるだけやから、じゅげむがピッタリなんや」

 隆二の力説に押されながら「何も落語でなくても……」とぼやきながら、俺と京子は元の位置に戻った。

 仕切り直しである。


「マグマまでの距離八百メートル」

 いよいよ地響きがひどくなってきた。

「今度こそ頼むで! 極大魔法呪文」

 俺と京子は、今度こそと魔力水を含んだ口を固く閉じて気合いを入れる。


「じゅげむじゅげむ、五劫の擦り切れ……」

 地響きがするゴロゴロ山の頂上に、隆二の唱えるじゅげむじゅげむがこだまする。


「……やぶらこうじの、ぶらこうじ、パイポ、パイポ、パイポのシューリンガン……」

『ブフ〜〜!』


「ああ、またや。何で噴き出すねん」

「パイポって何だ〜〜!」

「パイポって、昔、『パイポ』という国の『シューリンガン』王と『グーリンダイ』后のあいだに生まれ超長生きした……」

「そんな説明はいらんわ! ぜったい笑わすために言ってるだろ!」

「まあ、落語やしな」


 イキリ立つ俺の肩を京子がつかんで、首を横に振る。

 すると敏夫が「マグマまでの距離五百メートル」と言う。いよいよ後が無くなってきた。


 俺たちはしぶしぶ元の位置に戻ると、魔力水を口に含んで今度こそはと口を固く閉じた。


「もうこれで最後にするで、極大魔法呪文!」


 ふたたび隆二の唱える『じゅげむじゅげむ』の呪文がこだまする。

 俺と京子は必死に笑いをこらえるが、我慢すればするほど笑えてくる。

 俺と京子の口からは、魔力水がわずかに漏れ出ているものの、ギリギリのところでこらえていた。


「……ポンポコピーのポンポコナーの長久命ちょうきゅうめい長助ちょうすけ、今やー!」

『ブフーー!』

 俺と京子は解放された勢いで、大きく魔力水を噴き出した。


「極大魔法! 絶対零度ぜったいれいど!」

 魔法陣が眩しく輝くと、極大魔法が発動した。

 魔法陣から吹雪のように湧き出てくる冷気が、マグマで熱くなっていた頂上を冷やしていく。

 地面もみるみる凍って一面氷のリンクとなってしまった。


「マグマの上昇が止まった。たぶん地中で冷えて固まってるみたい」

 敏夫のゴーレムが地中のマグマの様子をスキャンしている。

 どうやら噴火の危機は去ったようだ。


「あっ、雪」

 京子のつぶやきに空を見上げると、ヒラヒラと雪が降ってきた。

 極大魔法が呼水よびみずとなって雪を降らしたのかもしれない。


 この日、ゴロゴロ山には、観測史上最も早く積雪を観測した。


………


 ゴロゴロ山のふもとでは、避難した生徒達がゴロゴロ山に降る雪を眺めていた。

「地響きが止まったのじゃ。噴火しなくて良かったのう」

 小山内会長がそう言うと、白鳥副会長もほっと息を吐いた。

「まったくだ。しかし予算争奪戦がダメになってしまったな」


 白鳥副会長は、ポケットから三枚の写真を取り出すと、そこに写った生徒会メンバーの姿をながめた。

 写真には、予算争奪戦の生徒会のメンバー五人が、ゴロゴロ山の頂上で笑顔で写っていて、晴れの日、曇りの日、雨の日と三種類あった。

「せっかく用意したのに、雪の日は想定外だったな」

 白鳥副会長は、ふうっと息を吐くと、三枚の写真を破り捨てた。


 こうして、第一回予算争奪戦は終わったのだった。


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