3ー1 臨時集会
「……それではこれで二学期の始業式を終わります。なお、これから生徒会による臨時集会が行われますので、生徒の皆さんはこの場に残ってください。先生方は退席をお願いします」
司会の先生が始業式の終わりを告げると、先生方が体育館からゾロゾロと出ていくのが見える。
生徒たちからは「まだやるのかよ〜〜」とか「もう帰りたい」といった不満の声やブーイングが上がっている。
まったくもってその通り。俺もこんな臨時集会など終わらせ、早く部室に行って夏休みの思い出話などしたい。
するとそこへ、一組の男女の生徒が体育館のステージに上がっていく。
わが校の体育館は、前方がステージとなっており、文化祭の時はそのステージでさまざまな催しものが行われている。
さてステージに上がっていく生徒であるが、先に幼女のような女生徒がつるぺたの胸を張って歩き、背の高いイケメンの男子生徒が後ろからついている。
体育館がザワザワとし始め、どこからか「会長だ……カワイイ」の声が聞こえてくる。どうやら、先頭を歩く幼女が生徒会長らしい。
一方で主に女子生徒たちから「副会長よ……カッコいい」の声が聞こえてくる。後ろを歩くイケメンは副会長のようだ。
「なあなあ、あれが生徒会長と副会長だっけ?」
俺が周りの皆んなに聴いてみると、ヒッキーが「そうでヤンすよ」と答えてくれた。
「もしかして皆さん忘れてるかもでヤンすけど、一学期に行われた生徒会長選挙であのオサナイ会長がトップ当選で、その推薦者がシラトリ副会長だったでヤンす」
ヒッキーの話によると、イケメンの白鳥君が立候補して会長になるのではという予想を裏切って、小山内さんが立候補して白鳥くんが推薦者に回ったそうである。
そして、選挙の時の演説で大いに受けた小山内さんが、ぶっち切りでトップ当選を果たし、小山内さんが白鳥くんを副会長に指名したとのこと。
俺たちは十年間にも及ぶ異世界での記憶が邪魔をして、あまりよく思い出せない。
そして、二人はステージ上に設けられた演台までいくと、生徒たちに向けてお辞儀をした。会長は演台に隠れて見えなかったが。
しかし、演台くらいの背丈しかない小山内会長はどうやって話すのかと思っていたら、小山内会長の後ろから白鳥副会長がヒョイと両脇をつかんで持ち上げた。
白鳥副会長が持ち上げて、演台の上に顔が出てきた小山内会長を見て、生徒たちからは「おお〜〜カワイイ!」といった歓声が上がっている。
なるほど。生徒会長選挙のトップ当選の理由はこれか。
そういえば、昔そんな光景を見たような気がする。
「皆のもの、会長のオサナイである」
会長は、見た目に反して尊大な口調で話し出した。
しかしそれさえも、幼女な見た目とのギャップで、より一層可愛さを増しているように思う。
しかしこの話し方や声が、どこかで聞いたような気がするが、どうも思い出せん。
「今日臨時集会を開いたのは、生徒会が管理している各部活動の予算についての話じゃ」
クラブ活動をしている生徒たちはザワザワと騒ぎ始めたが、予算なんかもらっていないファン研の俺たちには関係のない話だ。
「すでに一学期の総会で、大まかな予算配付は終わっていたが、それを見直して、各クラブの能力値に応じた予算配付とするのじゃ」
たまらず各クラブの生徒たちが「どういう事? 意味わかんね!」とヤジを飛ばしはじめた。
すると小山内会長を下に降ろして、今度は白鳥副会長がマイクを持った。
「皆んな聞いてくれ! これまで予算は各クラブ平等に分配していたが、それだと能力の低いクラブにもムダな予算を配付する事になる。これからの時代は弱肉強食、限られた資源を効率的に活用する必要があるんだ。そうは思わないか?」
白鳥くんの小難しい話に、生徒たちが一瞬静かになって、みんな首をひねっている。
「そこで、これからいくつかのイベントを用意して、そこで勝利したクラブが予算の総取りをすることとする!」
白鳥副会長の説明に、生徒たちの混乱も最高潮になってきている。
「ただし、そのイベントには生徒会も参加して、我々が勝利した場合には、予算は配付せずに生徒会が使う!」
「ちょっと待て! そりゃおかしいだろ!」
白鳥副会長の説明に、ついに野球部などの各クラブの部員たちがステージに向かって集まりだした。
「風紀委員! ステージを守れ!」
白鳥副会長の号令に、どこからか風紀委員の腕章をした大勢の生徒がステージ前に現れてバリケードを作り、各クラブの部員たちと激突する。
「生徒会からの説明は以上だ! 異議がないようだから、これにて臨時集会を終わらせてもらう」
白鳥副会長が無理やり臨時集会を終わらせようとしたところで、生徒たちの中から「体操部! 飛び箱をステージ下に運べ!」という声が上がった。
「チッ、ゲンナイだ。風紀委員! ステージに近付かせるな!」
白鳥副会長の指示も空しく、高く積み上げられた飛び箱は、体操部によってステージ下へみるみる近付いていく。
そして、生徒たちの中から飛び出した一人の男子生徒が、見事な跳躍で飛び箱を跳んでステージ上に着地した。
「資材部部長のゲンナイだ。生徒会の説明について質問がある」
ステージに降り立ったその男子生徒は、がっしりとした体躯で、長髪の黒髪をポニーテールにしていた。
怒涛の展開について行けてない俺は、ヒッキーに説明をお願いする。
「資材部というのは、各クラブの用具類の手配を一手に引き受けているクラブでヤンすよ。各クラブは配付された予算をいったん資材部に預けて必要な資材の購入に充ててるらしく、裏の生徒会と呼ばれているでヤンす」
そんな部があったのかと驚いていたら、「その通りよ」と声がして、いつの間にか美術部の神谷部長が隣にいた。
「でも、資材部の用具手配は一部の部に偏っているから、私たちは資材部に予算を預けてないけどね。確か将棋部とかの一部の文化系は、ぜんぜん用具の購入ができないってぼやいていたわ」
ふむふむ、資材部の闇も深そうだと思っていたら、ステージ上では、白鳥副会長と源内部長とのやり取りが始まった。
「ゲンナイ部長、これは生徒会の決定事項だ。異議は認めないぞ」
「反対なんかしてないぜ。むしろ賛成だ。それより確認だが、そのイベントには各クラブが別々に参加せず、まとまって一つのチームを結成して参加しても良いのか?」
「それだと、資材部が各クラブをまとめて戦力にできるじゃないか。資材部に有利すぎるから認められない」
確かに、どんなイベントが行われるのか分からない以上、各クラブ別々に参加するよりは、まとまって代表選手を選ぶ方が有利だ。
なんせ予算は勝ったチームが総取りなんだから。
「だが、イベントを企画する生徒会が選手として参加するなら、そっちの方が有利だと思うがな」
源内部長も負けてない。
「この提案が受け入れできないのであれば、イベントの企画は生徒会抜きで考えてもらう」
追い詰められた白鳥副会長は、しばらく源内部長を睨んでいたが、やがて「いいだろう」と答えて折れた。
するとそこへ、「ちょっと待ったーー!」の声とともに、一人の男子生徒がステージに上ってきた。
隣のクラスの不良の鬼塚である。
周りは風紀委員が囲んでいたはずだが、どこから現れた?
「そのイベントには、帰宅部も参加するぜ!」
ふたたび、生徒たちは大混乱である。そもそも帰宅部はクラブなのか、みんなそこから議論をしている。
「オニヅカくん、帰宅部は単なるクラブに参加していない連中をそう呼んでいるだけだし、正式に認められたクラブではないだろう」
「そうだぜオニヅカ、話をややこしくするな。お前は引っ込んでろ!」
白鳥副会長と源内部長が二人揃って鬼塚を牽制するも、鬼塚も黙ってはいない。
「それを言うんなら、生徒会もクラブではないし、資材部が各クラブの合同チームを作るってのも、純粋なクラブとは言えんのじゃないのか?」
三人がステージ上で睨み合っていると、小山内会長がトコトコと三人の間にやってきた。
「分かったのじゃ。帰宅部の参加も許可するのじゃ!」
生徒たちからは「ええ〜〜!」という驚きの声と「ざけんなよ!」の怒号や「会長を悪く言うな!」と擁護の声が飛び交っている。
しかし見た目幼女の会長が言うと、あまり強く言うこともできず、皆複雑な表情となってしまった。
「おいセイヤ、ここで黙っている手はないで」
隆二が俺をつついてささやく。
分かってるよ、これはファン研にも予算獲得の目が出てきたという事だな。
「ちょっと待ったーー! そのイベントにはファン研も参加する!」
俺はいっきにバリケードを組んでいる風紀委員も飛び越えて、ステージ上に降り立つと、高らかに宣言した。
「ファン研? そんな部は無かったはずだが」
「そうだな。資材部でも把握していない」
「チッ、五組の落ちこぼれじゃねぇか」
白鳥副会長、源内部長、鬼塚の野郎が怪訝な顔で、俺の方を見て言う。
「ファンタジー研究会、略してファン研だ。一学期に結成したから生徒会には正式に届け出てなかったけど、もう活動は始めている」
俺はステージ上の四人にそう説明すると、鬼塚がグイッと体を乗り出して俺を睨みつけてきた。
「ファン研か何か知らねえけど、ここは落ちこぼれの出る幕じゃねぇんだよ! さっさとステージから降りやがれ!」
「はぁ? 帰宅部が許されるなら、ファン研が許されない道理はないだろう?」
「何だとーー!」
相変わらず鬼塚は、弱いくせにグイグイくるな。しかし、ここで一歩も引くわけにはいかない。
するとここで応援者が現れた。
「美術部もファン研と合同チームを組むわ!」
美術部の神谷部長である。
「資材部が合同チームを組むなら、私たちが合同チームを組んでも問題ないはずだけど」
資材部の源内部長が苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
するとそこへ、他のクラブからも声が上がった。
「将棋部もファン研に合同チームを希望する」
「コーラス部も……」
「天文学部も……」
その後も、いくつかの文化系クラブの希望者の声が上がった。
「ええい分かったのじゃ。ファン研も合同チームも参加すれば良いのじゃ!」
ついにしびれを切らした会長が折れた。これで俺たちも正式に参加できる事になったぜ。
「いろいろハプニングはあったが、これにて臨時集会を終了する。予算争奪戦のイベント内容は、追って各クラブに連絡する」
白鳥副会長はそう言って締めくくると、小山内会長と一緒にステージから降りて行った。
………
生徒会の臨時集会が終わると、美術部の部室に俺たちファン研をはじめ、将棋部やコーラス部とかの文化系弱小クラブの部長達が集まった。
皆、これまでの資材部のやり方に不満があったようで、いろいろとグチを言い合っている。
「しかし帰宅部も参加するとは思わなかったな」
俺が臨時集会での出来事を思い出しながら話すと、新聞部の部長が声をひそめて話し出した。
「これはまだ未確認情報なんですがね、どうも白鳥副会長と鬼塚くんは裏でつながっているらしいんですよ」
各クラブの部長達から驚きの声が上がる。
「我々の取材によると、以前から二人は、何かを相談している姿が目撃されてます。生徒会副会長と不良が何を企んでるのかと探っていたのですがね。もしかすると、今回の帰宅部として参加するなど、最初から予定された行動かもしれません」
皆で用心する必要があるなと頷きあう。
そのうち、冷静になった部長の一人が不安な気持ちを語りだした。
「勢いで合同チームを組むって言っちゃったけど、予算争奪戦が体力勝負のイベントだったら、私たちには勝ち目はないわね」
皆いっせいに表情が暗くなる。
弱小文化系クラブに体力勝負は難しいだろう。
「皆んな元気出して!」
美術部の神谷部長が声を上げた。
「予算争奪戦がどんなものか分からないけど、体力勝負の場合はファン研に全面的にお願いする事になるわ」
「ファン研に?」
他の部長たちが首をひねっている。
普通はファンタジーを研究している連中に体力勝負は無理だろう。
「夏休み前だけど、ファン研の皆んなは、私のバイト先に現れた暴走族を追い払った事があるのよ」
神谷部長の話に、各クラブの部長からは「ええ〜〜!」という声と尊敬の眼差しが送られる。
「体力勝負なら任しといて! あたし達なら絶対に負けないから!」
京子が胸を叩いて軽く請け負った。
まあ確かに体力勝負なら俺たちは負けないだろう。
予算争奪戦がどんなイベントか分からないが、楽しみになってきた。
第10回ネット小説大賞で一次選考を通過していましたが、二次選考は落選しました。残念でしたが、発表までワクワクしたのも事実で、運営様ありがとうございました。今後も連載は続けますが、ゆるゆると更新していきますので、よろしくお願いします。




