表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

2ー5 村祭り

 暴走族の方の『五百怒鬼』をブッ飛ばした件で、翌日はちょっとした騒ぎになったが、村の広場に残された、壊れたバイクの引き取りも無事に終わったようだ。

 暴走族の連中が警察に「鬼が出た」と訴えたらしいが、まともに取り上げられず、暴走族同士のケンカとして処理されたらしい。

 これで、ようやく村に平穏が戻ってきたそんな昼下がり。


「はあ〜、腹減った」

「あたしも〜」

「奥さん、お昼ご飯の用意手伝うでヤンす」


 ここはお寺の食堂で、奥さん、つまり祐希くんのお母さんが食事の用意をしてくれている。

 そんな時に、祐希くんも食堂に現れた。


「疲れた〜。お母さん飯メシ!」

「おっ、ユウキお疲れ〜〜。って、何かしてたのか?」

「そうなんすよ。和尚じいちゃんに本堂の掃除を言い付けられてて、やっと今終わったとこなんです」

「本堂の掃除? 何でまた」

「それがですね、今夜この村の四つの寺の和尚が集まって会合するらしくて。汚いとこ見せられないって、それで掃除なんです」


 ほほう、この村には、この白虎寺以外に三つも寺があったとは。

「その会合って、よくあるの?」

「いやあ〜〜、年に何回かしかやってないみたいですけど、村に何か特別な事があると開いてるって感じですかね」


 なぬ! もしかして、昨日の悪事がバレたのでは? いや、必ずしも悪事とは言えない訳で……。

 でも社会的には、たとえ相手が暴走族でもぶっ飛ばすのは許されないんだよなあ。

 むう〜〜、何が話されるのか気になる。


………


 夜になると、白虎寺以外の三つの寺の和尚がやって来た。


 玄武げんぶ寺の和尚は、丸坊主でくたびれた着物を着て、拳大こぶしだいの大きな玉をつなげた数珠じゅずをネックレスのように胸に掛けた、荒法師のような様相であった。

「本日はお世話になる! ホ〜〜」


 これに対して、朱雀すざく寺の和尚は女性であり、えんじ色をベースとした鮮やかな着物でやって来た。

「皆んな集まっとるかえ? 今夜は長くなるかもねぇ」


 そして最後にやって来た青龍せいりゅう寺の和尚は、青いかすりの着物を着て、白髪に白く長い髭を生やしたお爺さんだった。

「ホッホッホッ。今夜も熱い夜になりそうだのう」


 三者三様の坊さん達が本堂に入ると、和尚が「今夜は遅くなるから、皆は先に寝るように。決して中を覗いてはならん!」と言うと、本堂に急いで入って行った。


 さて、いったい何が話し合われているのか、非常に気になるところである。


………



 俺たち五人は、寺の宿泊所の畳の上に座ったり寝転んだりして、四ヶ寺の会合について相談していた。

 夕べの暴走族との一件が、どこかでバレた可能性があるからだ。


「あ〜〜、ここで相談してても埒があかない。何を話しているのか探れないかな。それが分かれば、こちらから先に手を打てるし」

「そういう事なら、またゴーストを送り込もうか?」

 そう言うと隆二は、以前ヒッキーの部屋の様子を探ったゴーストを召喚する。

「ゴーストか。しかしあの坊さん達は、一癖ひとくせも二癖もある感じだったから、気付かれないように物陰から聞き耳だけを立てた方が良さそうだな」


 そうして隆二が召喚したゴーストは本堂の方に消えて行った。

 やがてゴーストの視線と同期した映像が、隆二の魔法によって部屋の壁に映し出される。


「よしよし、無事に本堂の中に入ったな。それ以上は近付くな! 見られたら気付かれるかもしれん。そうそう、ご本尊様の陰から聞き耳だけを立てればヨシ」


『じゃら、じゃら、じゃら』


 部屋の中からは、数珠をかき鳴らすような音が大きく響いている。

 何か祈祷のような事をしているのだろうか?


「そういえば、夕べは大変な騒ぎだったらしいのう。ワシは寝とったから知らんかったが」

「玄武寺のよ、あの騒ぎが聞こえなんだとは、世俗に興味が無さすぎて心配になるぞ。ホッホッホッ」

「まったくだねぇ。それで、誰の仕業だい?」

「おいおい朱雀寺のよ、俺を睨むなよ。言っとくがワシは知らん」

「白虎寺のよ、その慌てぶりは怪しいのう。御仏はすべてお見通しだぞ、ホ〜〜」

「ふ〜〜む、確かに白虎寺の動きがおかしいのう。ホッホッホッ」

「そうだえ、何を企んどるのかねぇ。これは様子見かねぇ」


 どうやら白虎寺の、うちの和尚が他の寺の和尚に責められているようだ。

 やはり何か証拠を掴まれた可能性がある。

 俺たちは、もしもの時のためにいつでも行動できるよう皆で目配せした。

 その時であった。


『ターン!』


 何か固い物をテーブルに叩きつける音と「ツモ! 国士無双こくしむそう、役満だあ! 誰も振り込まなくとも、ワシの自力で上がってやったわ、カッカッカッ!」という和尚の声が響き渡った。


 ……和尚どもは、よりによって寺の本堂でマージャンをしていたようだ。

 俺たちの部屋が静まり返る中、本堂での「わ〜〜やられた!」とか「だから怪しいと思ったんだ」とか和尚達の賑やかな声が聞こえてくる。


「……あんのクソ和尚どもがあ! 心配して損した」

「あのジャラジャラいう音は、数珠じゃなくて麻雀牌まーじゃんぱいをかき混ぜる音か」

「どうりで、誰も覗くなという訳ね」

「……」

「まあ、考えようによっては、こっちの事を気付かれずに良かったでヤンす」


 三者三様にホッとしたところで、本堂の方のマージャンは終わりを迎えていた。

「さてと、これで今回の会合も終了だのう。結果はどんな様子かの?」

「え〜〜、四位はワシとこの玄武寺で、村の広場の設営担当、三位が朱雀寺で金魚すくいなどの遊び担当、二位が青龍寺で焼きそばとかの屋台担当、そして映えある一位の白虎寺はお化け屋敷担当と決まりもうした。これも仏のお導き、ホー」


 どうやら、村の夏祭りの役をマージャンで決めていたようだ。


「いや困ったな、うちの檀家の年寄り達では、お化け屋敷をやるのは大変なんだがな」

「おや、今ごろ泣き言かい? どこの寺の檀家集も年寄りばかりだよ。それと、お化け屋敷は毎年閑古鳥(かんこどり)で赤字だから、今年は頑張っておくれよ」

「なら尚の事、もうお化け屋敷はやめたらええんじゃないのか?」

「バカをお言い。村の子供達の楽しみの一つなんだから、止めるわけにはいかないのよ」

「そうそう。それに白虎寺には若いアルバイトがそろっとると評判ではないか、ホッホッホッ」


 うちの和尚の「む〜〜」という声を尻目に、他の寺の和尚達は本堂を出て行った。


………


 翌日は朝から、檀家集の主だった連中に俺たちを加えたメンバーが白虎寺の本堂に集まって、和尚から村祭りの説明が行われていた。


「という訳で、今年の村の夏祭りは、白虎寺がお化け屋敷をやる事になった。皆で協力して成功させてほしい」


「何が『成功させてほしい』じゃ、偉そうに! さてはマージャンで負けて貧乏くじを引いたんじゃないんか?」

 さっそくマタやんが鋭く突っ込んだ。マージャンで担当を決めているのは例年の事か。


「いや、負けたんではなくて……、ゴホン、これを楽しみにしとる子供たちのためにも頼む。ついては、例年の赤字解消のためにも、キャンプ場に来とる連中を呼び込みたい。料金は千円じゃ」

「せ、千円? こんな村のしょぼいお化け屋敷に千円も出す奴がおるかのぅ?」

「ゴロウどんの心配も分かるが、今後の継続の為にも、やらねばならん。何か良いアイデアはないか?」


 和尚のアイデアを募る言葉に、その場の全員が腕組みをして考え込む。

 年寄り達で、キャンプ場の若者や家族連れを呼び込むアイデアを出すというのは無茶というものである。


「あ、あの……」

 ヒッキーが恐る恐る手を上げる。

「昔ながらのお化け屋敷じゃなくて、異世界風のお化け屋敷にしてはどうでヤンすか?」

「異世界風のお化けって、ゴブリンとかオーガとか出てくるって事? 確かに今風でええかもしれへんな。お化け屋敷をダンジョン化してしまえば簡単やし」

 ヒッキーの提案に隆二も乗ってくる。

「何ならエルダーリッチも用意できるしね」

 京子が隆二を見ながら提案すると、隆二は苦い顔をしながらも「獣人もおるで」と反論。

「……必要なら、装置を使ってゴーレムとかを出現させても良いかも」

 敏夫の持ってる異世界の魔物と対戦できる装置なら、いろんな魔物を出す事が可能だろう。

「ようし、皆んながビックリするような異世界お化け屋敷にしようぜ!」


 と盛り上がったところで、和尚から釘を刺された。

「盛り上がってるとこ悪いが、村の子供や年寄りも見にくるから、やり過ぎないよう頼む」

 ゴロウどん達も「あんまり地獄絵図ではのう」と心配顔だ。ふむ、そこの塩梅あんばいが一番難しそうだ。


………


 村祭り当日、村の広場は祭りの準備で賑やかである。

 我が白虎寺の出し物のお化け屋敷も順調に準備が進んでいる。


「ほう、お化け屋敷とはせずに『異世界風 天国と地獄』という看板にしたのか」

 白虎寺の和尚がお化け屋敷に掲げられた看板を見上げて言う。


「ええ、あまり怖さが強調されないよう天国的な要素も入れました」

 俺の説明に和尚も満足げに頷く。

「どれ、ちょっと先に見せてもらうか」

 和尚がお化け屋敷の中に入ろうとするので、慌てて止めて「それより、早いとこキャンプ場に行ってチラシ配って来たらどうですか?」と促した。

 マタやんの提案で、お化け屋敷を受け持った罰として、和尚にはチラシ配りの作業が言い付けられている。

「チッ、あんまり行きたくはないが、身から出たさびか……、ええい行けば良いんじゃろう、行けば」


「ふう〜っ、上手くいったな。和尚が中を見たら驚くで」

 和尚を見送る俺の横で、隆二が意地悪そうに笑う。

 俺も「ああ、和尚にだけは絶対に見せられないな」とつぶやいた。


………


 夕陽に染まるキャンプ場では、あちこちで炊煙が上がり、カップルや家族連れが楽しそうに夕食の準備をしていた。

 そんな中、明らかに場違いな僧侶が一人チラシ配りに汗を流している。


「今日は年に一度の村祭りの日だよ〜〜。金魚すくいや屋台もたくさんあるから、ぜひ来てね〜〜。特に異世界風お化け屋敷は必見だよ! いかなきゃ損だよ〜〜」

 和尚は頑張っていたが、残念ながらキャンプを目的に来ている人達の反応は悪かった。

 大学生らしき団体の一部の若者達が、肝試しの代わりに行ってみようかと言ってたくらいで、到底当初の目的は達成出来そうにない。

「はあ〜〜。こりゃあ今年も赤字かのう」


 するとそこへ、先程村祭りに行ったはずの大学生達があわてて帰ってくる。

「皆んな大変だーー! あのお化け屋敷、とんでもない代物だ。皆んな早く来い。あんなの都会のテーマパークでも体験できないぜ」

 そして他の大学生達を誘って、大挙して村祭りの会場へ移動していく。

 それをキッカケにして、他の若者や家族連れも興味を持ったのか、それに続くように続々と村祭りの会場へ向かって行くのだった。


「あ奴らが上手くやりおったのか?」


 和尚も村祭りが気になり、チラシ配りに見切りをつけて、急いで村祭りに向かう事にした。


………


 村祭りの会場では、お化け屋敷の前に長蛇の列が出来ていた。

 お化け屋敷とはいえ、屋根がある本格的なものではなく、周りに壁を巡らして中が見えないようにして、中は陣幕で仕切った簡単なものだった。

 そのため、中から大きな物音や悲鳴が外まで聞こえてきて、ますます待っている客のボルテージが上がっていく。


「おい、まだ入れないのかよ!」

「はいはい、ただいま一組入りました。皆さま、料金の千円を用意して、しばらくお待ちください」

 俺は入口でお客の案内と、料金の徴収の係であるが、先程から次々とお客が押し寄せており、嬉しい悲鳴を上げていた。


「はあはあ、セイヤ! こっ、これはどうした事だ? おそろしく盛況ではないか」

「あっ、和尚さん。やりましたよ、和尚のチラシの効果か大成功です!」

「いやいや、そんなはずはあるまい。チラシを配ってたワシが言うのも何だが、お化け屋敷を一度見た客の口伝てで広まったようだぞ」


 するとそこへ青龍寺、玄武寺、朱雀寺の和尚達が集まってきた。

「いやはや白虎寺の、恐れ入ったわい。客寄せの為とはいえ、あそこまでやるとはな。ホッホッホ」

「拙僧も驚きもうした。いや、ありがたいと言うべきか、ホー」

「ご本尊らを、あのように使うとはねぇ。思い切りが良いのはイイね」


 チッ、和尚ら余計な事を。


「思い切った事? ご本尊? セイヤ、何のことじゃ?」

「さ、さあ、何の事でしょうか? 僕にもサッパリ」

「な、中を見せてもらうぞ!」

 和尚はそう言うと、お化け屋敷『天国と地獄』へ走り出す。

 俺も「ちょっと待って」と言いながら後を追いかけた。


 中は隆二のダンジョンコアの働きにより、ゴブリンやオーガがあちこちに立っていて、入場者の道案内をしている。

 かなり薄暗いので、ロウソクを持って足元を照らしてくれるのだが、逆にロウソクの灯りに照らされて、ゴブリン達の恐ろしさが引き立っている。

 そこへ中から、エルダーリッチ姿の隆二と女子高生姿のヒッキーが現れる。


「助けてくれでヤンス〜〜」

「ワッハッハッハ、よく来たな勇者よ、この小娘を助けたかったら、もっと奥へ進むが、良い……、和尚?」


「おおう、これが異世界風というやつか。その声はヒキさんに、リュウジか?」

 俺は和尚の背後から、身振り手振りで和尚を止めるよう隆二らに頼む。

 しかし隆二は、あわててエルダーリッチの、骸骨がいこつの体をマントで隠すと、ヒッキーを連れて奥へ姿を消していった。

 奴め、エルダーリッチの姿とはいえ、裸にマントという姿が恥ずかしくなって消えたな。

 知り合いに会って、我に返ったというやつか。使えない奴め。


 そしてその奥からは、ドスン! バタン! という激しいバトルの音が聞こえてくる。

 例の異世界の魔物と対戦できる装置で、獣人の姿になった京子がゴーレムと格闘しているのである。


「おおう、こちらは石の巨人とお狐様きつねさまが戦っておられるのか」

「さあ皆んな、ここはあたしが引き受けたから、皆んな早く先に行って……、和尚?」

「その声はキョウコか? ほおう、見事な化けっぷりじゃのう」


 ここでもまた俺は、和尚の背後から、口パクで京子に合図を送るも、京子もアバターだから装置の外に出られないと返してくる。

 やむなく、和尚と一緒に次の五百怒鬼達が待つステージへと進んだ。


『ドッキ、ドッキ、

俺たち五百怒鬼、ただ今参上

そこんところ夜露死苦よろしく


「なんじゃこの鬼どもは? しかも暴走族の様な格好をして」

 五百怒鬼達は、先日の暴走族との一件以来、どうも彼らのスタイルが気に入ったようで、暴走族からはぎ取った特攻服を着て、エセ暴走族と化している。

『ドッキ、ドッキ、そこに見える坊主は、五百羅漢? おおう我らが雷罵琉ライバルよ、いざ尋常に勝負勝負!』


 するとそこへ、奥から十二神将がやって来て、俺たちを守るように立つ。

「ややっ? これは十二神将では? しかも、うちの寺の仏像に似ておるが……」

 白虎寺のご本尊の周りを固める十二神将にゴーレムコアをセットして、ちょっと働いてもらっているのだが。

 和尚のまさかという顔でこちらを見るので、あわてて顔を伏せる。


 そして祐希くんの声の録音テープが回り出して「さあ皆さん、極楽浄土はすぐそこです。早く先に進んでください」と音声が流れてくる。


 もはや俺の止める声もむなしく、和尚は最後のステージに進んでしまった。

 そこは、ご本尊の阿弥陀如来が光り輝く、まさに極楽浄土の世界となっていた。

 ニコニコと微笑む阿弥陀如来がこちらに手を振っていた。

『良きかな、良きかな、ホッホッホッホー』


「阿弥陀如来像が、う、動いとる⁉︎」


 もはや万事休すと思ったその時、夜空に花火が打ち上げられた。

 村祭りのフィナーレを飾る花火の音と、光の洪水となったその時『ドスッ!』という鈍い音と共に和尚が崩れ落ちた。

 後から駆けつけた京子のボディブローにより、和尚は気絶したようだ。


「ふぅ〜〜、間一髪ね!」

「いや、間に合ったかどうか……。とりあえず、急いで撤収しよう」

 そして、お化け屋敷は大盛況のうちに幕を閉じた。


………


 翌日、目覚めた和尚から質問攻めとなったが、よく出来たプロジェクションマッピングだの何だのと、横文字を並べて煙に巻いておいた。

 和尚はかなり疑わしげだったが、お化け屋敷は大成功だったので、結果オーライという事で、無理矢理、納得していたようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ