表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/18

2ー4 五百怒鬼vs五百怒鬼

「いらっしゃいませ〜」

 この辺り唯一のコンビニであるボンストの店内にヒッキーの元気な声が響き渡る。

 ボンストでのアルバイトも一週間が過ぎ、仕事も慣れたものだ。

 まあ、その仕事の中には、村の年寄り達の畑の手伝いなども、相当に含まれているが。


「なんだよ、このコンビニ。その辺の畑で採れた野菜とか、やたら多いな」

「ほんと、これじゃあ道の駅じゃん。マジ使えない」


 先程ボンストにやって来たガラの悪い男女の客が、店の商品を眺めてはケチを付けている。

 村の年寄り達の丹精込めた野菜への悪口に、もちろん京子は怒り心頭で、俺たちはなだめ役だ。


「なにこのトマト。形も悪いし、こんなの売るなんて、マジウケる〜〜」


「はぁ〜〜? お梅ばあちゃんが持ってきた朝採れトマトにケチ付けるの? やったろうじゃないか!」

「だからキョウコやめろって! あんなんでも一応客なんだから」


「おいおい、何だよこのカボチャ。デカ過ぎだろうが」


「何やと? ゴロウどんのカボチャにケチを付けるんか? ここへ持ってくるだけで、どんだけ苦労したと思ってんねん!」

「リュウジもやめろ。……あれは俺もデカ過ぎて、買っても持って帰れないと思ってるし」


 そうして、さんざん店の商品にケチをつけた後、ガラの悪い男女はペットボトルのお茶だけを買って出て行った。


「ふぅ〜、まさに一触即発でヤンしたね」

「あんな格好の奴ら、昨日からちょくちょく見るな」

「村の年寄りに聞いた話でヤンスが、ここ数年、近くのキャンプ場に暴走族みたいな奴らが夏になると来るらしいでヤンス。たぶん今年もやって来たんじゃないですかね」

「なんで暴走族がキャンプしに来るのかね?」

「なんでもキャンプ場に集合して、隣の県に遠征しに行くらしいでヤンス。今夜あたりキャンプ場に全員集合するんじゃないかって言ってたでヤンス」


「なんて迷惑な話や。そやけど、それは厄介やで。何台くらいいるか分からんけど、暴走族が集合して爆音を響かせて走り始めたら、村は大騒ぎになるんやないか?」

「村の年寄り連中は早寝早起きだから、夜中に騒がれたらたまらんだろうな」


 これは、またもや騒動に巻き込まれる予感がビンビンしながら、ボンストの仕事をこなし続けた。


………


 ボンストの仕事も終わり、俺たちは寺の本堂に集まって、相変わらず敏夫の異世界の魔物とバーチャルで対戦できる装置で、ゴーレム狩りを続けている。

 村の畑の監視は足りているのだが、今後のために予備のゴーレムコアを確保しているのだ。


「やった! ついにゴーレムコアをゲットしました!」

 和尚の孫の祐希くんが、満面の笑みで右手のバスターソードを高々と掲げる。

 元々は俺たちだけでゴーレム狩をしていたのだが、ゲーム好きの祐希くんが是非やらせてほしいと言い出した。

 まあアバターで戦うだけで特に危険も無いので許可したんだが、あっという間にコツをつかんでゴーレムを討伐していったのである。


「いや、なんと言うか、ユウキには才能があるんかな。大したもんだよ」

「本当に、すごいでヤンす。私の方が魔物討伐の先輩だったはずでヤンスが、あっという間に抜かれたでヤンす」

「いえいえ、ヒッキー先輩もコツをつかめばすぐっすよ」

 ふむ、自分の力をおごらず、ヒッキーを先輩と敬うところも、なかなか評価高いぞ。


「さて、ゴーレム狩はユウキくんに任せて、俺たちは和尚から頼まれた暴走族の件を考えなければな。何かアイデアがある人?」

「せやけど、和尚も人が悪いで。村の年寄り連中から頼まれたとしても、それをバイトに押し付けるとはな」

「まあそう言うな。暴走族が相手じゃあ、和尚や年寄り連中じゃあ手に余るだろ? それに俺たちなら、暴走族の制圧なんてわけないんだが、やり方をどうすっかなぁ〜〜」


 俺たちが昼間和尚から依頼された暴走族の立ち退きの件で頭を悩ませていると、祐希くんが興味深そうに聞いてくる。

「あの、もしかして、キャンプ場に来てる暴走族の件ですか?」

「ああ、和尚からな暴走族のキャンプ場からの立ち退きを依頼されたんだよ」


「いやあ、そんなの普通は無理っすよ。それにアイツらは『五百怒鬼』っていう有名な暴走族で、全部集合すると五百台のバイクがそろって、警察も手が付けられなくてヤバイらしいっす」

「五百怒鬼〜〜! マジか」

「ホンマか」

「ウソ、すごい偶然」

「……。」

「そんな偶然があるんでヤンすね」


「……えっと〜、皆さん五百怒鬼の事を知ってるんですか?」

「いや、そんな暴走族の事は知らなかったんだが、知り合いに五百怒鬼がいるっていうか」

「暴走族の知り合いがいるんすか?」

「いやいや、暴走族じゃなくて、えーっと実際に見た方が早いか。リュウジ、五百怒鬼を出してくれ」


 そうして、祐希くんの前に呪われたような真っ黒い絨毯じゅうたんが置かれた。

「えっと? この黒い絨毯が何か?」

『ドッキ、ドッキ……』

「うわっ! 絨毯がしゃべった?」


「紹介しよう。これが呪いの絨毯、もとい、異世界の魔族、五百怒鬼の魔力が込められた絨毯だ」

『ドッキ、ドッキ……、もしかしてまたカボチャ? ……もうカボチャ運ぶのイヤだ……、抗議する! 抗議する!』


 五百怒鬼は、先日からゴロウどんとこの畑のカボチャ運びに使われているので、ストレスが溜まっていそうだ。


「いやいや聞いてくれ。この近くに暴走族……夜中に騒音を撒き散らして暴れ回っている連中がいるんだけど、それが五百怒鬼を名乗っているらしいんだ」

『ドッキ、ドッキ……ウソ、……まさか、……ついに俺たちのファンができたー! ヒャッホー!』


「いやいや、ファンじゃないから。お前らの名前を語って暴れ回ってる奴らだから」

『ドッキ、ドッキ、……五百怒鬼を勝手に名乗ってる? 、……許さんぞ! 、……著作権侵害だ〜!』


「とりあえず、ヨシとしよう。分かってくれたようだな。それでどうしよう。リュウジ、何か良いアイデアは無いか?」

「そうやなあ。ん〜、ここはひとつ五百怒鬼の事は五百怒鬼達に任そうか?」


………


 村の真ん中を流れる川の河川敷に、有り余る土地を十分に使ったかなり大きなキャンプ場が設けてある。

 聖也達が和尚から依頼されたその夜、キャンプ場の駐車場に、ついに五百台からの暴走族のバイクが集結していた。 

 そのバイクのエンジン音は、キャンプ場だけではなく、村全体に響き渡る程の爆音である。


 キャンプ場に遊びに来ている若い青年が文句の一つも言ってやろうと近付くも、あまりの規模の暴走族の群れに、遠くから見ている事しかできない。あの中に突入するなんて、正気の沙汰とは思えず、命の危険さえ感じる程だからだ。


そんな中、一人の少女と少年が暴走族のただ中にツカツカと歩いていく。京子と嫌々ついてきた俺である。

「こーらー! あんた達、うるさいんだよ。こんなところでヤメなさいーー!」

 暴走族のバイクは、ワザとエンジンを吹かしたり、耳障りなクラクションを鳴らして周りをグルグル回っている。


「誰か代表者、出て来なさーい!」


 京子の叫びに、暴走族のバイクの群れの一角が割れて、奥から特攻服を着たスキンヘッドの大男がゆっくりと現れた。


「おう、姉ちゃん、これだけのバイクを前に威勢が良いじゃないか。俺が五百怒鬼の総長だ」

「はん、あんたが代表者かい。キャンプ場のお客さんや村の年寄りが迷惑してんだよ。今すぐココから立ち退きな!」

「はあ〜? お前バカだろ。俺たちがハイそうですかって言うわけねぇだろ」

 周りの暴走族の連中も、笑いながらこちらをバカにしてくる。

 京子はそいつらを睨み返すが、多勢に無勢である。


「まあまあ、そういきり立つなよネエちゃん。俺たちは今夜、この先の山を越えて隣の県へ遠征するからよ」

「じゃあ、早く出発しなさいよ」

「ただ、その前に、この村を一周して、たっぷり俺たちの爆音を聴かせてやるぜ、なあ皆んな!」

「おおーう!」


 事態は最悪の方向へ進んだようだ。

 だがしかし、そんな事は想定済みである。


「ふん、あんたらみたいな小物が考えることは、そんなとこだと思ってたよ」

「小物だと〜? おいネエちゃん言葉づかいに気をつけな。ただ爆音を聴かせるだけじゃあ済まなくなるぜ」

「あんた達は『五百怒鬼』ってチーム組んでるらしいじゃない。あたし達こそ、本当の『五百怒鬼』なんだよ」


 京子の言葉に、周りの暴走族達が一瞬、静かになるが、その後どっと笑い声が上がった。

「はあ? お前たちが『五百怒鬼』だって? プッ、あーっはっは、ひでぇ冗談だよ。ほらケガしねえうちに帰りな」


「何だい、本当の『五百怒鬼』って聞いて、おじけ付いたのかい?」

「あのなぁ、それ以上は笑えねえんだよ。女だからって容赦しなぃ、ゴバア!」

 総長の伸ばした手が京子に届く前に、京子のボディーブローが炸裂した。

 もちろん俺は、やっぱりやったかと総長に哀れみの目を向けている。


「あんたら、どっちが本当の『五百怒鬼』か白黒つけようじゃないか。この川の上流にある村の広場で待ってるよ。あたし達が怖くなかったら来な。全員まとめて相手してやるからさ」

 京子はそう啖呵たんかを切ると、さっそうと引き返してきた。


 さあいよいよ本番だ。


………


 キャンプ場から川を遡って行った先に、村の広場があり、そこで隆二達が暴走族を待ち受ける準備をしていた。

 村の広場と言っても、野球場が二面取れるくらいの大きな広場である。


「コッチは終わったでヤンす」

「コッチも終わったっす」

 ヒッキーと祐希くんが運動会とかで使うライン引きを持って隆二の下に戻って来た。

 広場には白い石灰で巨大な魔法陣が描かれている。


「二人ともお疲れ様。これで準備完了やな。トシオの方も大丈夫か?」

「うん。合図があり次第、広場の周りに防壁を張り巡らせるよ」

「後は、キョウコ達が上手くやってくれれば……、おっ噂をすれば帰って来たな」


「おーい皆んな、暴走族の総長をぶっ飛ばしてきたよ。アイツらカンカンに怒ってるから、じきにここにやってくるわよ。それで準備は大丈夫?」

「ああ、コッチも準備がちょうど終わったとこや。ヒッキーとユウキは危ないからコッチの朝礼台の後ろに隠れとき」


 そうして、いよいよキャンプ場の方角から五百台の暴走族が地響きのような爆音をとどろかせてやってきた。

 先頭には、さっき京子にやられた総長が顔を真っ赤にしてバイクに跨っている。

「お前らー! さっきはよくも恥をかかせてくれたなあ。全員袋叩きにしてやるから覚悟しろー!」


「さっき言ったでしょ、本当の五百怒鬼を見せるって。リュウジ、やっちゃって!」

 隆二は「それじゃあ始めるで。トシオ、防壁を頼む」と言うと、朝礼台の上に広げた呪いの絨毯の上にダンジョンコアを置いた。


『ゴゴゴゴ……』


 村の広場の周りの地面から、高さ十メートルはあろう石の壁が迫り上がってきて、この広場から誰も出れないようになる。

 五百台の暴走族のバイクが出口を探して走り回るが、どこにも出口はない。


「さあ、もうこれでこのダンジョンからは出られへんで。五百怒鬼、出てこいや!」

 隆二のセットしたダンジョンコアが怪しく光ると、それに呼応するように広場の巨大な魔法陣が輝き出して、あちこちから鬼の姿をしたモンスターが湧き出してきた。

 敏夫の土魔法による防壁で広場を囲った事で、この広場全体を簡易なダンジョンに変えたのだ。

 さらに、呪いの絨毯の魔力を吸収したダンジョンコアが、五百怒鬼の姿のモンスターを広場に次々にポップアップさせる。


『ドッキ、ドッキ……、

五百羅漢ごひゃくらかんとの戦い明け暮れ

逸乃魔仁夜羅いつのまにやら呪いの絨毯

迦慕血夜かぼちゃ運びはもう御免だ

五百怒鬼、参上ー!

そこんところ世露死苦よろしく


「なんだコイツらは、ば、バケモノだー!」

『バケモノじゃなくて、天下無敵の五百怒鬼じゃあ。どっちが本物か勝負しろ!』


「おいリュウジ、なんで五百怒鬼の喋り方(しゃべりかた)がにわか暴走族の口調なの?」

「オモロいやろ。ダンジョンコアにそうセットしといた」

「オモロいって言うか、あーあ、もう一方的な展開になっちゃったよ」


 すでに広場では、鬼に追いかけ回される人間たちという、阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄絵図となっていた。

 暴走族の方の五百怒鬼も、最初はバイクで鬼達に向かっていたのだが、異世界の五百怒鬼の鋼の体には全く通用せず、逆にバイクを潰されてスクラップにされ、最後は走って逃げ回っているところである。

 もはや走っているバイクは一台も無い。


「ヨシ、そろそろ良いだろう。トシオ、広場の入口の防壁を消して、アイツら出してやれ」

 俺がそう言うと、敏夫が防壁の一部を消して、そこから我先に暴走族の連中が逃げ出した。


「イェーイ、これでようやく静かになったわね」

「ヤッタネ! しかし今回はかなり大掛かりな仕掛けになったな」

「……バイクのマフラーの音を消す魔法をかければ簡単だったとは思うけど……」

 俺たちは上手くいった達成感で、笑顔でハイタッチをしていたら、敏夫がボソリと言った一言で、確かにと皆で顔を見合わせた。

 まあ、結果オーライという事で、ヨシとしよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ