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2ー3 むじな騒動

 俺たちは、今日は朝から村周辺に張り巡らされているさくの補修に駆り出されている。

 柵といっても、腰の高さくらいの簡単なものだ。

 俺たちはコンビニのアルバイトのはずだったのだが、なぜこうなった?


 ところで、なんで柵が張り巡らされているかというと、タヌキやイタチが村の農作物を食い荒らすのだ。

 時には、サルやイノシシまで来て食い荒らすというから、いったい誰のために作物を育てているのか分からなくなる。


「こんな田舎にある畑だから、少しくらいタヌキに食われても、しょうがないんじゃ無いですか?」

 俺が柵の杭を打ち付けながら、ゴロウどんに話しかけると、ゴロウどんは「うんにゃ」と首を振って説明してくれる。

「タヌ公らの食料になるように、柵の外にある畑に、あいつらが食うためのクズ野菜を植えて置いてあるんじゃ。じゃが、なんで分かるのか知らんが、柵の中にある美味い野菜にしか手を出さん。アイツら畜生のくせにグルメなんじゃ」


 ゴロウどんが指差す方を見ると、確かに柵の外の畑に、柵の中と比べるとやや小ぶりなニンジンやトウモロコシが植えてある。

 が、わずかに食い荒らされた跡があるものの、そのほとんどは手を付けていない。

 なるほど、野生動物は、野菜の匂いとかで美味しいかどうか分かるらしい。


「まあでも、この柵は電流が流れる電流柵だから、もう大丈夫っすね」

「タヌ公め、今度畑に近寄ったらビリビリして驚くじゃろ」

 俺とゴロウどんは、満足げに頷くと、電流柵の電源スイッチを入れた。


………


 そして翌日、昨日せっかく作った電流柵は、根元から大きく掘り返されていて、無惨むざんな姿をさらしていた。

 村唯一の猟師であるマタやんが、現場検証をしている。


「この足跡はイノシシじゃな。その後にタヌキやイタチが出入りしとるんじゃろ」

「え〜と、マタやんさん。電流柵はイノシシが掘り返したんですか?」

「そうじゃ、最初にイノシシが電流柵を掘り返して、そして出来た穴からタヌキやイタチが出入りしたようじゃな」


 なんと野生動物による連携プレーで、こちらの防御を突破されたらしい。日本の野生動物はあなどれん。


「やれやれ、和尚おしょうに相談じゃな。皆んなで知恵を絞るとするか」

 マタやんは膝の土を払うと、腰を伸ばしながらつぶやいた。

「ことによったら、またお前らに手伝ってもらうかもしれんの。頼りにしとるぞ」

 俺たちは顔を見合わせて、ため息を吐いた。嫌な予感しかしない。


………


「そうか〜、電流柵もムダだったかぁ」

 和尚はそういうと腕組みをしてお寺の天井を仰ぐ。

 和尚の周りをマタやんやゴロウどんら村の主だった者達が囲んでいて、その外側に俺たちも並んで座っていた。


「イノシシやタヌキは、夜になると畑に近付いてくるから、夜を何とかすればエエんじゃがな」

 ゴロウどんの言葉にマタやんが「そいじゃあ、いっちょ鉄砲でも撃ってみるか」と言うと、皆が「夜に鉄砲を撃つのはやめてくれ! うるさくて眠れん」と突っ込んでいた。


「それじゃあ、どうするんだ?」

 マタやんの言葉に全員でう〜んと悩んで考え込んだところで、和尚が「寝ずの番を立てるしかないか」と呟いた。


「わしゃ毎晩九時には寝るから無理じゃ」

 和尚を囲んでいた爺さんの一人が声を上げると「お前んとこは毎晩婆さんが寝かしてくれんとか自慢しとったじゃろが」とか「お前こそ時代小説を一晩で読破したとか言うとったやろが」と大騒ぎとなった。


 そして、ひとしきり言い合いをした後、爺さん達は顔を見合わせて、そーっと俺たちの方を振り返ってくる。


「いやいや、ダメですよ」

 すかさず否定するが、さらに爺さんらがこちらに向かってゆっくりと頭を下げる。


「いやいやいやいや、俺たち昼間コンビニだの畑仕事だのやってて、夜も寝ずの番なんて無理ですよ」


 あわてて俺が否定すると、和尚が「そんな事は、分かっとる。しかし知ってのとおり、この村には寝ずの番ができるような若い奴がおらん。昼のボンストの仕事は、女性陣だけでやって、男三人は寝ずの番をやってくれんか?」


 和尚がそう言うと、ゴロウどん達も「大事な畑の作物を荒らされるのは、つらいんじゃ。頼む!」と頭を下げてくる。


 どうにも逃げられそうにない。


 仕方ないので、皆んなにも確認して引き受ける事にした。

 本当のことを言うと、俺たちは異世界で旅をする時に、夜の見張り番に慣れていて平気なんだが、普通の高校生が慣れているというのはおかしいので一応否定しておいたのだが。


………


 俺たちが普段寝ているお寺の部屋で、俺と隆二と敏夫は今夜の寝ずの番の事で打ち合わせをしていた。


「三人で寝ずの番という事なら、夜七時から朝七時までの12時間として、一人四時間で交代か?」

「そやなぁ、俺たちの力を使えば、ネズミ一匹も寄せ付けへん自信はあるけど、なんか違う気がするんよな」

 隆二が腕組みをして、悩ましげにそう話す。


「何? 何が引っかかるの?」

「いや、言われた事をするだけなら、それでエエんやけどな、その、俺たちがバイトやめたら元に戻るだけちゃうかなって思ってな」

「まあ、そりゃそうなるだろうね。という事は、俺たちがいなくなっても何とかなるようにしたいって事?」

「まあ、そういう事やな。わーかっとる、ハードルが高いって事くらいは。でもなぁ」


「出来なくもないよ」

 敏夫がボソリとつぶやいたので、俺と隆二が期待の目を向けると、敏夫はその方法を説明してくれる。

 敏夫が言うには、自立型のゴーレムを作って見張り番をさせれば良いとのこと。

 確かにゴーレムなら疲れ知らずだから、24時間でも監視可能である。


「でも、村の中をゴーレムが闊歩かっぽしてたら、村の年寄りが驚くんじゃない?」

「そこは、村中にあるカカシや地蔵様にゴーレムコアを取り付けて、夜になったら見張り番をするって事でどうかな?」

 なるほど、それなら昼間はなんの変哲もないカカシや地蔵で怪しまれないし、夜になると見張り番を始めるけど、夜に出歩く人も少ないから大丈夫だな。


「よし、それでいこう! トシオ、ゴーレムのコアってやつを出してくれ。今から設置に行こうぜ!」

「いや、それが手持ちのコアは二、三個しかないんだ」

「じゃあダメじゃん。二、三体のゴーレムがあったって、広い村の畑をカバーするのは難しいよね。喜んで損した」

「違うんだ。手持ちのコアはないけど、入手する事は不可能じゃない」

「いや、こっちの世界にゴーレムコアなんて無いだろ」

 敏夫の不可解な話に、俺と隆二が首を捻っていると、敏夫がさらに詳しくコア入手の方法を説明してくれた。


 敏夫の説明によると、以前、ヒッキーを異世界への転移の試験だとだまくらかすために使った、様々なモンスターとバーチャルで対戦できる装置を使用するらしい。

 あの装置でモンスターに勝利すると、様々な景品がドロップするのだが、ゴーレムと対戦するとたまにコアがドロップするらしい。


「なるほど、ゴーレムを倒して倒して倒しまくれば良いって事やな」

 隆二はさっそくエルダーリッチの姿に変身して、やる気満々である。

「いやいやじかに戦う訳じゃないからな。アバターでやるはずだろ? それにしても、あの装置って土俵みたいな大きさだよな。この部屋では狭いから、お寺の本堂を使わせてもらうか」


 という事で、お寺のご本尊が祭ってある本堂に装置を設置して、音が外に漏れないよう隆二が本堂全体に魔法をかけた。


 隆二は「一番手は俺が行くぜ」と言うと、さっそくヘッドセットを装備して、土俵上にアバターを作り出す。

「ふむ、魔法も問題なく使えるみたいやな。トシオ、さっそく始めてくれ」

 隆二はアバターをエルダーリッチの姿に変えると手のひらにはファイアーボウルを浮かべている。


「それじゃあ、ストーンゴーレムでます」

 敏夫がそう言うと、土俵上には身長三メートル程のストーンゴーレムが出てきたが、一瞬でファイアーボウルの炎に包まれる。

 ところが、ストーンゴーレムには炎耐性があるようで、あまりダメージは無さそうである。


「あまり効き目なしか。それじゃあ『グラビティ』でどうだ」

 隆二はそう言うと、今度はバスケットボールくらいの大きさの黒い球を手のひらに浮かべ、ストーンゴーレムに投げつけた。

 グラビティは重力系の魔法で、ゴーレムは何倍にもなった自重に四つん這いとなり、ついにはその重力に耐えきれずバラバラに崩れ落ちた。


 そして、一つのキラキラ光る漬物石みたいな石が土俵上に残された。

「おっと、いきなり当たりか?」

 隆二がそう言って、その石を敏夫に渡すが、貴重な鉱石ではあるもののコアではないとのこと。

 コアは握り拳大の大きさの鉱石らしい。


 そこから隆二が50回連続してバトルして、コアは二個ドロップした。

 その後に俺が50連続バトルして、コアは三個ドロップした。

 合計100回バトルして五個、つまり五パーセントの確率でドロップするようだ。

 山側の森から村を囲むようにゴーレムを配置するとなると、最低でも10体、できれば20体は確保しておきたい。

 そんな事を話していたら、本堂に京子とヒッキーもやってきた。


「あー、こんなとこにいた。疲れたよ〜〜……、てか何してるの?」

 俺たちがゴーレムのコアをドロップさせるためにバトルしてる事を説明すると、疲れていた京子の表情がイキイキしたものに変わっていく。


「村の年寄り連中の相手で疲れてたのよ。私もやるからバンバンゴーレム出して」

 京子は、さっそくアバターを獣人の姿に変えると、一撃でゴーレムを粉砕していく。

「一体ずつじゃなくて、十体くらい出せないの? 物足りないわ」と勝手な事を言うが、それじゃあボーリングじゃないかと皆で突っ込んでおいた。


『ガタ! ゴトゴト!』


「おい、今、何やら外で物音がせえへんかったか?」

「確かに聞こえた」

 俺はすぐに本堂の入口の扉を開くと、そこには和尚の孫の祐希君が腰を抜かしてへたり込んでいた。

 口がアワアワ言っている。


「アチャー、見つかったか」

 隆二が天を仰ぐが、見られたからには仕方がない。何とかごまかさねば。


「や、やあ、ユウキくんだったよね。そんなにビックリして、どうしたんだい?」

 祐希くんは、土俵の京子を指差して「アレ、アレ」言っている。

 京子のアバターは、獣人の姿で立っていて、こちらの世界でリアルな獣人の姿を見れば驚くだろう。


「あ、ああ! アレね。アレは〜、その〜、今都会で流行っている体験型ゲームだよ。知らないの?」

「そ、そんな訳ない! いくら田舎だって、ネットから最新の情報はいくらでも入るし、あんな物オーバーテクノロジーだ。あり得ない」

 チッ、田舎と都会の違いでごまかすのは無理そうだ。

 確か祐希くんは中学校に行くのをサボってテレビゲームしてるとかで、その辺の情報には詳しそうだ。


「お、お前ら何なんだ? ぜったいおかしいだろこんなの」

 いよいよ怪しい目で俺たちをにらみつける祐希くんに、アバターから本体に戻った京子が「ちょっと待ちな!」と声を上げた。


「さっきから、ごちゃごちゃとうるさいんだよ! そんなに怪しいと思うんなら、自分でやってみなよ」

 んん? 京子の話は、ビミョウに噛み合ってない。


「いや、その、僕は、それをやりたいとか言ってないだろ?」

「自分に素直になりな。本当はやりたいから、そうやってケチを付けてるんだろ? ほらあんたにもやらしてやるよ」

 京子はそう言うと、ヘッドセットを祐希くんに差し出した。


「いや、だから、本当にそうじゃなくて」と言う祐希くんを無理やり座らせると、頭にヘッドセットをセットする。

 祐希くんの意識はすぐになくなり、土俵上にアバターが浮かび上がった。


「ああー! な、何だこりゃー!」

「ユウキ、それがあんたのアバターだよ。さあ、男ならこぶしで語ってみせな!」

 京子はカッコよく祐希くんに語っているが、本人は自分の身体をさすったり、寝ている本体の自分を見て驚いている。

 これじゃわけが分からんだろう。


「負けると、パンツが無くなるから注意するでヤンスよ!」

 ヒッキーよ、ますます訳が分からんだろう。

「じゃあ、ゴブリン出ます」

 敏夫が、さっそく装置を起動してゴブリンを出現させる。

 お前ら鬼畜か。


「さあユウキ、そこに落ちてる棍棒を拾って戦うんだよ!」

 祐希くんは、目の前に現れたゴブリンを見て、慌てて逃げ出そうとしたが、アバターは土俵上から外には出れないようだ。

 仕方なく足元の棍棒を拾ったが、足がガクガクしてて、とても戦えそうにない。


「ユウキ! この子だってゴブリンを倒したんだよ。あんたもできる! 戦え! 立ち向かうんだよ!」

「頑張るでヤンス〜」

 京子やヒッキーがそう言うと、ようやく意を決したのか、ゴブリンに棍棒を向けた。


「あーー、あーー」

 祐希くんは、屁っ放り腰(へっぴりごし)のまま棍棒を前に突き出して、情けない声を上げている。

「ユウキ、腹をくくりな! これはアンタの戦いだよ。大丈夫、死にはしないから。思い切りいけーー!」


 そして祐希くんは、ゴブリンがナイフを片手に前へ出てきたタイミングで棍棒を振り下ろし、偶然ではあろうが一撃で討伐した。


「やったでヤンスー」

「やればできるじゃないか。よく頑張ったなユウキ」

 京子達の言葉に、ヘナヘナとその場に手をついた祐希くんの目の前には、薄汚れた布が落ちていた。


「残念、ゴブリンの腰布がドロップしたな。え〜と、その、ユウキくん、新しいゲームをプレイしてみてどお? これは最新のバーチャルリアリティゲームだよ」

「まだ、その設定で話すんかいな」


 隆二のツッコミを無視して、俺がそう言って本体に意識の戻った祐希くんに近寄ると、祐希くんは何も答える事なく、フラフラ歩きながら本堂を出て行った。


 俺が「あれ、大丈夫かな?」と言うと、京子は「モンスターとバトルして、色々と溜まってたものが発散出来たんじゃない?」と脳天気な返事が返ってきた。


………


 夜になって、入手したコアを俺たちは村の畑のカカシや地蔵にセットしていった。

「これでやっと十体セット完了。あとはうまく作動するのを待つばかりだな」

 敏夫によるコアの調整で、動物が畑の柵に近付いたら追い払うようセットしてある。


「おっと、さっそく動き出したで」

 隆二の指差す方を見ると、柵に近付いたタヌキに、カカシがピョンピョンと飛んでいって、あわててタヌキが逃げていく。


「やったでヤンス。しかし、ゴーレムコアのおかげと分かっていても、夜の畑でカカシがピョンピョン飛んでるのは不気味でヤンス」

 皆で、確かにそうだと頷いていたら、今度はその先の畑に動きがあった。

 今度はイノシシが柵の下を掘り始めていて、カカシがピョンピョン飛んでいくも、イノシシは逆にカカシに突進していく。


『ドカッ!』


 あわやカカシが跳ね飛ばされるかと思ったが、いつの間にか地蔵がイノシシに近付いていてイノシシの突進を受け止めていた。

 固い石の地蔵に頭から激突したせいで、イノシシは脳震盪のうしんとうを起こしてドサリとその場に倒れてケイレンしている。


「連携もバッチリだね」

 全員でうまく行ったと成功を喜びあった。

 これで寝ずの番などという面倒な仕事ともおさらばだ。


 ところが、俺たちのいる畑から少し離れた場所から「ウヒャ〜」という声が聞こえた。

 どうやら少し離れた農道に誰かいるようで、あわてて寺の方にかけて行くのが見える。


「誰かに見られたでヤンス!」

 ヒッキーの言葉で我にかえり、俺たちは顔を見合わせた。

 いずれは人に見つかるだろうから、その対策をこれから考えようとしていた矢先に、逆に村人に見つかるとは。

 面倒な仕事を無くすためにした事で、逆に面倒な事になりそうな気配である。


………


「和尚〜、和尚〜。む、む、むじなが出たーー!」

 マタやんとゴロウどんが寺に飛び込むなり、大騒ぎを始めた。


「なんじゃ、マタやんとゴロウどんか。むじなだと? はっ、もう酔っ払っとるのか?」

「酔っ払うほど飲んどらんわ。梅さんとこで、ちょこっと飲んだだけじゃ。なあゴロウどん」

「そうじゃ、そうじゃ。梅さんが『もう少しおあがんなさいよ』なんて言うもんだから、そこまで言われたらご相伴に……じゃあなくて、むじなじゃ、むじな!」

 和尚は、あきれた顔で「むじななんぞ、昔話じゃろ?」と言うが、マタやんとゴロウどんは、違う違うと手を振る。


「本当にむじなが出たんじゃ」

「カカシと地蔵が、イノシシと相撲を取っておった」

「そんなバカな」


 俺たちは、三人が大声で言い合いしているところに駆けつけた。

 よく分からんが、むじなが出たと大騒ぎである。


「あの〜、またヤンさんにゴロウどんさん、アレはですね……」

「おう、セイヤ達か。むじなじゃ、むじなが出たぞ」

「わしも爺さまに、この辺りも昔はむじながおったと話には聞いてたが、本当に見たのはこれが初めてじゃあ」

 ゴロウどんも昔を懐かしむように話しているが、早く誤解を解かねばさらに大騒ぎになりそうである。


「いや、そうじゃなくてですね……」

「あーそうか、そうか。セイヤ達は都会育ちだから知らんかもしれんがな、田舎にはむじながおってな、いろんなものに化けて、人をだまくらかすんじゃ」

「いやいや、むじななんていませんから」

「は〜っ、都会の子はむじなを知らんのだな。田舎にはな、むじなというのがおってな……」

 ええ〜い、年寄りは人の話を聞かないな。

 まさか都会と田舎の違いを、逆の意味で使われるとは思わなかった。


 しかし困った。

 正直に「あれは異世界のゴーレムのコアなんです」なんて説明出来ないし、さてどうする?


「アレは僕がやったんだ!」


 突然俺たちの背後から声が聞こえた。

 俺たちが後ろを振り返ると、そこには祐希くんが立っている。


「アレは僕が、カカシや地蔵に自動制御のAIをセットして、野生動物への対策ができないか試してたんだ」

 祐希くんの話に一番驚いたのは和尚である。


「その、いまいちよく分からんが、ユウキが村のためにしてくれたって事か?」

「うん、僕も何か役にたてないかなって思って、ゲームの理論を応用して実験してたんだ」

「そうか、そうか。わしゃユウキがこの村に来てから、引きこもって心配してたんだが、何も心配する事はなかったなぁ。親は無くとも子は育つと言うが……、いやいや孫は育つか、ガーッハッハッ!」


 和尚は祐希くんの事をかなり心配してたようで、その喜びようは周りが引くほどである。

 しかし、それが良かったのか、マタやんとゴロウどんは、和尚の喜びように何も言えなくなり、「そしたら帰ろうか」と言うなり帰って行った。


 そんな祐希くんの足元を見ると、靴が畑の土で汚れている。

 どうやら、俺たちの行動は全部見られていたようだ。

 祐希くんは、俺たちが困っているのを見て助け舟を出してくれたのだろう。


 しかし、これでこれからの村の野生動物問題は、祐希くんに任せれば良さそうである。

 もちろん、俺たちが帰った後も、何かあれば祐希くんをサポートするつもりだ。

 そう、もう俺たちは同じ秘密を共有する仲間さ。

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